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トップコラムおくはらしおり(阿佐ヶ谷ロフトA)のホントシオリvol.16「イマも、すべて未来では思い出になる」

l.16「イマも、すべて未来では思い出になる」

vol.16「イマも、すべて未来では思い出になる」

2020.08.20

世の中が、世界が、大きく変わった。この連載を“書かないと”という小さな使命感を頭の隅っこに置きながら、毎日をどうに向き合い、どうに今を生きていくか。ただ、それだけを考えていたら半年近くが過ぎ去っていた。今年は今まで以上に“その日、その時、自分がどうに思うか”と“受け取り側(演者さんやお客様、視聴者様)がどうに思うか”をただただ、考え、行動して、結果を日々アップデートしながら、わたしなりに向き合い、明日をどう迎えるか、どうに仕掛けるかを考え、企んでいる。

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緊急事態宣言を受けたライブハウスの従業員が今だからこそ、書ける。この半年間で抱いた思いと現実と共に記録として、今回は残していこうと思う。(2020.7.16)

それでも生きないといけない。
不安と絶望の渦に飲み込まれたリアル

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仕事本
左右社 / ¥2,000+tax

わたし自身が新型ウイルスの影響を強く感じたのは今年3月。

急遽、イベント開催のキャンセルや延期の問い合わせを受けるようになり前例のない出来事に正直、戸惑った。出勤したら電話でのお問い合わせに対応をし、メールでご出演者様へ状況や方針を伝え、プレイガイド様(チケット販売会社)へ全額払い戻しや保証のない未来への延期依頼の連絡、当店のWEB修正や変更点をSNSで漏れのないように報告、発表。アルバイトスタッフや社員にも現状の報告や急遽、変更になるシフト修正、発注内容の変更。そんな毎日の連続でも、それでも阿佐ヶ谷ロフトAを守るためにはイベントを打ち続けていかないといけない。不安と絶望を感じながら、誰に対しての「申し訳ございません」かも分からないのに必死で謝り、頭を下げる。

数か月先の企画を練り、打診をし、依頼を繰り返す日常が一変。来月のことはもちろん、今月、来週、明日がどうなるかもわからない。その時の生々しい現実を本作品内で当店阿佐ヶ谷ロフトA社員タナカが寄稿(仕事本Ⅲ闘うp.068)したので、是非とも彼女が抱いた思いと現実を読んで、感じて欲しい。

四月二十三日(木)
自宅作業続きでずっと頭の具合が悪い。
今日は特にひどくて夜までベッドから動けずにいて、何かしないとマズいと焦って近所の公演に行ったけど、自転車でぐるっと一周してすぐに疲れてブランコの柵に腰掛けてぼーっとした。……

―仕事本 Ⅲ闘う p.072

“緊急事態宣言”を受け、どうにライブハウスで生き、この状況を乗り越えていくのかだなんて今まで一度も考えたこともない現実に不謹慎ながらもわたし自身はワクワクしてしまった。世の中でバッシングを強く受ける“ライブハウス”で面白いことを発信し続けられたら“勝ちだ”と。どこか一店舗、一企業だけではなくて、世界中に平等に当たらえられた課題の中で、どこが最初に息を吹き返し、先見の明を司るのか。ジャンヌダルクになれるチャンスが今、目の前に広がっている。と、声にはしないけれど、内心思っている。

阿佐ヶ谷ロフトA店長になることが決まったのは、昨年10月頃。元々副店長になったときからそもそも話はあったから約1年の準備期間を経て今年3月に就任した。お世話になっている方々に直接、改めて挨拶をすると「こんな時期に大変ですよね」とか「もっと違うタイミングならね」とかわたしを気遣ってのお言葉を掛けてくださる方が多かったんだけど…。正直、このタイミングで店長になれてめちゃくちゃ幸運で、スーパーラッキーガールだとわたしは思っている。決して、強がりとかではなくて。(いや、多少の強がりもあるかもしれん。)だって、この状況下なら全店舗の店長と同じスタートラインに立てるから。LOFT歴が他店長達と比べ10年以上も差がある中で、通常時であればとてもじゃないけれど対等には戦えない。完敗だったと思う。そういった意味でもこの状況下で店長になれて心底良かったと思う。
状況も変わり、“今まで”という過去を振り返らずに“今”を生きている感じがして、今は今ですごく遣り甲斐と充実した気持ちで満ち溢れている。それは、深夜ラジオのお陰でもある。

毎週変わらないパーソナリティーの声に
心からの安心感を覚えた


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深夜のラジオっ子/ 村上謙三久
筑摩書房 / ¥1,600+tax

「どうも、こんばんは。おぎやはぎの矢作です。どうも、こんばんは。おぎやはぎの小木です。」二人の挨拶と作家の声がイヤフォンを通してわたしの耳に届く、木曜深夜。変わらない声に肩の力が抜けて、心の底からの安心感を抱いた。世の中が、日常が、目まぐるしく変化していっても毎週木曜日になると聴こえる二人のどうしようもないほどのくだらない話と笑い声に心が救われた。変わっても変わらないもの。それが毎週あることが何よりも有難かった。

本作品はパーソナリティーでの視点ではなく、その深夜ラジオを支える構成作家の証言を元に深夜ラジオを裏側からの視点で掘り下げている作品で、今のわたし自身の職業もあるけど、この書籍と出会った2年前は“裏側”に今以上に興味があって、どうに他の人たちは企画を作るのか、そもそも構成作家とはなんなのか、という好奇心で手に取り、こうして時たま手を伸ばし、ひとつの参考書として読み返したりしている。
作中で何人もの人達が語っている「台本収集」はわたし自身も当店でアルバイトスタッフをしていた頃にも同じようなことをしていた。誰も企画をどう作るかだなんてゼロからは指導はしてくれないし、見て、盗み、学んで、実践を重ねとにかく経験を重ねるしかない。先輩や社員の人が作る(終わるとただの燃えるゴミになる)台本をゴミ箱から拾い集め、どういう流れで企画を作っているのか、企画によっては演者さんが喋る内容が全部丁寧に書いてある台本もあったり(SE挿入のタイミングとか、OP何秒後にF.O.なのかとかも細かく記載されているモノはいまだに保管している)、オリジナルメニューの紙も全部集め(フォントやデザインの勉強)、“いつか自分が企画担当する時に参考にしよう!”と未だに数年前の冊子や先輩たちの台本がわたしの手元に参考資料としてある。有名な作家さん達が自分と同じようなことをしていることもなんだか親近感が沸いて嬉しかったし、もっと厳しく過酷だろう現場に冷っとした。

世の中や自分自身が変わっても、変わらずに毎週同じパーソナリティーの声を聴けるだけで心が安心する。深夜ラジオの魅力と素晴らしさを改めて今夜も感じる。ひとりで聴いていてもひとりにならずに、誰かを感じられる。激動の渦の中でも変わらずにあってくれたことに心からお礼を伝えたい。パーソナリティーはもちろん、裏で支え、一緒に番組を作るスタッフの皆さん、真夜中のステキな時間をいつもありがとう。今までもこれからも深夜ラジオと寄り添うんだろうな。
阿佐ヶ谷ロフトAで働くこの数年間の中でも、わたし自身が企画を作ったり、発信をすることで、今読んでくれているあなたが、少しでも楽しく、元気にその日を終えられる、明日の楽しみになれば、と常に小さな野望を抱きながら毎日、見えない線を通して届けている。(配信企画)“今まで”よりも“今を”楽しめる人たちと一緒にこれからもLOFTという場所を少し若い世代の人たちにも面白がってもらえる、そんなイマを。

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