東京にいる。最終少女ひかさのライブだったから。
今は成田空港へ向かっている。北国へ帰る。
あっついなー。きっともう札幌は凍えるほど寒い。
今年の夏の終わりに。夏の終わらせ方が分からない僕らは、どうしようもなく淋しくて。なにかしたかったのに、結局なにもしないまんま夏が終わってしまいそうな。それでもなにもできずに、同じような毎日を過ごしていた。
友は、唐突に仕事を辞めた。もう実家に帰るかなー。と、ぽつりと言った。
田舎から、札幌にひとりぼっちで出てきた僕らは、定職にもつかずバイトを転々とし。親にずいぶんと迷惑をかけながら。それでもなにかを期待して、必死に札幌にしがみついてた。
札幌にいる理由なんてなんにも思い浮かばないよ。ただ、ここには夢しかなかった。
帰るなよ。まだここにいてよ。なんて台詞が似合わないほどに、歳をとっていることにも気づいていた。
だから僕は、本気っぽさが出ないように、笑いながら冗談っぽく言った。
そして友のアパートからの帰り道、去年のことを思い出してた。
夏、豊平川沿いでキャッチボールをしてた。大暴投したボールは川に流され、それを二人で追いかけた。見失ったボールを、絶対に見つけようって、そんなことできるはずないのに、二人で川に入って全身びしょ濡れになって探した。お揃いのルードギャラリーのデニムシャツも、お気に入りの財布も、びしょ濡れだった。
見つけた! って叫びながら掴んだボールは、硬球だった。いや! 俺たちがなくしたの軟球じゃんかって、二人で笑った。
なぜか、これしかない。って思った。帰り道を引き返し、友のアパートへ戻った。
理由を伝えて。そして、二人で川に向かった。
真夜中。テンションはどんどん上がった。なんの意味もない、アホみたいなことをこれからするってのが嬉しかった。
やっぱ、このままずっとここにいたいって思った。実家に帰らないで、こうして笑っていようって、思ってもらえる気がした。
ただ、豊平川の水は、思ってた以上に冷たくて、一気にテンションは下がった。はしゃぐ余裕なんてないほどに、冷たかった。
豊平川、優しくねえなぁ。空気読んでくれよ。
やっぱ現実は厳しいんだなぁ。って、それっきり黙ったまま二人で帰った。
結局、去年なくした軟球は見つからなかった。
僕は風邪をひいた。友の部屋からはどんどん荷物が少なくなっていった。夏が終わった。