世界初のトークライブハウス、ロフトプラスワンがオープン30周年を迎え、さる11月3日(月・祝)にZepp Shinjuku (TOKYO) で『ロフトプラスワン30周年記念公演「歌舞伎町プラスワンまつり in Zepp新宿」』と題した特別興行を開催した。
ヘッドライナーは全8組。『オーケンののほほん学校』や『名曲喫茶オーケン』など数々の長寿イベントをロフトグループの各店舗で開催してきた大槻ケンヂ、『大森靖子の続・実験室』をロフトプラスワンで定期開催している超歌手・大森靖子、リーダーの酒井一圭がロフトプラスワンのブッキング・プロデューサーを務めていたこともある歌謡コーラス・グループの純烈、ネイキッドロフトでライブハウス・デビューを飾り、今夏、結成16周年記念イベントをロフトプラスワンで開催したチャラン・ポ・ランタン、新宿ロフト最多出演記録を更新し続け、ロフトプラスワンで不定期開催されている『僕たち、プロ野球大好きミュージシャンです!』にボーカルのアツシがレギュラー出演しているニューロティカ、デビュー10周年と25周年の節目にロフトプラスワンでトークライブを行なった太陽とシスコムーン、デビュー25周年を迎えて期間限定の再結成を果たし、今年2月にロフトプラスワンでトークライブを行なったメロン記念日、掟ポルシェ、ロマン優光ともにロフトグループの各店舗に欠かせない常連出演者であるロマンポルシェ。という縁の深い面々が一堂に会し、この日はトークではなく渾身のライブ・パフォーマンスを各自披露した。
開演に先立ち、開場時間を利用して行なわれたのは“前説の前説”。今や“ミスター・プラスワン”の異名を持つプロインタビュアー&プロ書評家の吉田豪、ライブハウス「ロフト」創始者の平野悠が登壇し、ロフトプランワン誕生のあらましを軽妙なトークで伝える。平野によると、アメリカのバラエティ番組『エド・サリヴァン・ショー』を手本とした、一切タブーのない自由な言論空間を創造したかったのだという。
なおこの日は、YouTubeの生トーク番組『ヒルカラナンデス』、そのスピンオフ企画である『ヨルカラナンデス』『センキョナンデス』などで知られるダースレイダー(ラッパー)とプチ鹿島(芸人・コラムニスト)、ロフト系列のトークライブハウスでは2014年から月例トークイベントを行なっているでか美ちゃん(タレント)というロフトプラスワンに縁の深い面々がMCを務めた。
開演時刻となり、まずMCの3人が登壇。一観客として初めて訪れたロフトプラスワン、出演者として初めて出演したロフトプラスワン、今も思い出に残るイベントといったエピソード・トークを繰り広げ、場内を温めた。
トップバッターはチャラン・ポ・ランタン。妹・もも(ボーカル)、姉・小春(アコーディオン)ともにラメの煌びやかな衣装が眩く、小春のアコーディオン・ソロから情感豊かな「Mito」へと繋がる粋な始まり。そこから「置行堀行進曲」と続き、軽妙なトークを交えながら卓越した歌と演奏力で魅了し、トークライブ主催の音楽ライブという前例の少ない場の中でも即座に自分たちのペースに持ち込む様が実に見事。
ロフトプラスワンでの初ステージ(2009年9月17日、『小春と愉快な皆さんのヘンテコブンチャカナイトVol.3 〜新入生がやってきた?!〜』)の話から、ももがセットリストになかった「親知らずのタンゴ」(マイノリティオーケストラのリーダーだった小春が初めて書き上げた歌詞付きの曲)をやろうと唐突に言い出して即興演奏したのは生粋のエンターテイナーの面目躍如であり、百戦錬磨のライブユニットの凄みをさらりと伝える場面でもあった。
“歯”つながりで「無神経な女」という歯の神経を取る施術を唄う曲で、シルバー、メタル、セラミック、クラウン、パラジウム、ゴールド、ジルコニアと歯の詰め物を(楽曲発表当時の)値段順にコール&レスポンスして場内を沸かせ、「新宿で映画を観る」「ぽかぽか」と続けてレパートリーの振り幅の広さを見せつける。オルタナティブ・シャンソンの特性と魅力をぎゅっと凝縮した圧倒的なステージだった。
二番手のロマンポルシェ。はB'zの「ultra soul」をBGMにして登場し、出刃包丁とキャベツ一玉を抱えた掟ポルシェが「『プラスワンまつり』、断固阻止!」と高らかに宣言。そして「味噌マヨキャベツ……それは人間の尊厳を踏みにじるサービス!」とロフトプラスワンの名物メニューを槍玉に挙げ、“味噌マヨキャベツ”のシュプレヒコールが巻き起こるという異様な展開に。その後は言うまでもなく、もはや名人芸の域に達したキャベツの千切りを披露(スタッフも心得たもので、ブルーシートの上でキャベツが散らばることなく瞬時に撤収)、一転して『プラスワンまつり』を支持すると容易に前言撤回。「モルタル王子」「下半身警察」と立て続けに演奏し、激しい振り付けにテンションの高いパフォーマンスを繰り広げる掟ポルシェに対して直立不動で淡々とディレイを操るロマン優光の姿があまりに対照的だ。
MCではこの日のチケット代が7,777円と高額であることに苦言を呈し、ロマンポルシェ。のライブ適正価格はライブハウスのドリンク代(600円)程度であると豪語。また、かつて純烈の酒井一圭から純烈の結成前夜にムード歌謡グループの結成に誘われたという衝撃のエピソードを披露して純烈ファンを震撼させた。
最後の「欠陥住宅」では上半身裸の掟が客席に降りて練り歩き、ビキニパンツ一丁のまま出刃包丁を持って退場。粗暴な電子音響に乗せ、ねじ曲がった価値観が通底した男気溢れる楽曲と説教を喰らわせる比類なき世界を尋常ならざる熱量でまざまざと見せつけた。
『プラスワンまつり』は幕間に芸人が登場して持ちネタを披露する趣向。その一人目として、地下から頂点を獲った地下芸人の希望の星、ハリウッドザコシショウが登場し、誇張しすぎたものまねメドレーを矢継ぎ早に披露。ときおりお馴染みのメガネ型の小道具を駆使しながら爆笑の渦に巻き込み、そのハイテンションかつエキセントリックな唯一無二の芸風でZeppの空気をプラスワンのそれに一変させた。
その後のでか美ちゃんとのトークでは「プラスワンの客は(シャイなのではなく)キチ◯イばかり!」と悪態をつきながらも、自身のブレイク前にロフトプラスワンによく出させてもらったと話した。その当時、「今日は客が少ないのでギャラが出ません」とプラスワンのスタッフに言われたが、他のスタッフが「さすがになしはないです」ということで1,000円を貰ったことがあったという。
ヘッドライナー三番手として登場したのは、かつてロフトプラスワンのプロデューサーとして戦隊シリーズ系を始め数々のイベントを手がけていた酒井一圭率いる純烈。本番前、転換のステージ準備中にリハを行ない、「星降る街角」の一節を唄うサプライズはこうした長丁場のフェスならでは。
本番が始まるや、暗闇の中で揺れるペンライトの波が美しく輝く。「星降る街角」「二人だけの秘密」を唄い終えた後、かつてのロフトプラスワンはコンプライアンス遵守の現代では到底実現できないイベントばかりだったと語った酒井だが、「プラスワンにいたからこそ純烈というグループの発想が生まれた。当時はスタッフとして鍵を持っていたので、プラスワンのステージで朝練をしていた」と感謝の意を表しながら純烈揺籃期の秘話を披露した。
「よせばいいのに」以降、昭和の先輩のムード歌謡メドレーでは客席に降りて観客と握手をしながら練り歩く。そこで酒井がスカウトした観客が3人、ステージに呼び込まれ、『NHK紅白歌合戦』初出場時に披露した「プロポーズ」では“人間マイクスタンド”になるという大胆な演出にフロアは拍手喝采の嵐。白川裕二郎の前には、純烈を応援していた母親の遺影を持参した49歳の男性。酒井一圭の前には、客席の最前列にいた80代の女性ファン。後上翔太の前には、後上の妻である横山由依のタオルを着用した男性。こうした顔ぶれを瞬時に見抜いて壇上にあげる酒井の才覚に思わず舌を巻く。
最後に披露された猿岩石のカバー「白い雲のように」は2022年の『NHK紅白歌合戦』で純烈がダチョウ倶楽部、有吉弘行と共に唄っていたが、これも元はと言えばロフトプラスワンが繋いだ縁。酒井がブッキングしていた『太陽様を囲む会』というトークライブに、太陽様ことダチョウ倶楽部の上島竜兵、同じくダチョウ倶楽部の肥後克広、当時は鳴かず飛ばずだった有吉弘行らが出演していたのだ。ライフステージが変わっても義理人情を重んじる純烈ならではのエピソードと言えるだろう。まさに笑あり涙あり、悲喜こもごもの人生を至上の歌とトークに昇華させた絶品のパフォーマンス、貫禄のステージだった。
古き良きムード歌謡の後は、ハロー!プロジェクトの黎明期に屋台骨を支えた伝説的グループが立て続けに出演した。
太陽とシスコムーンは人気曲・代表曲を惜しげもなく披露する、堂々たる風格を感じさせるステージ。「ここ(自分たちの出演時間)で休めるところはないですけど大丈夫ですか?」と小湊美和が観客を挑発し、デビュー曲「月と太陽」、3rdシングル「宇宙でLa Ta Ta」といった不朽のハロプロ・クラシックスでフロアはいきなりヒートアップ。信田美帆、稲葉貴子の機敏で躍動感のあるダンスはまるで衰えを感じさせないもので、彼女たちと共に年輪を重ねてきたと思しきファンはそのキレのあるパフォーマンスに呼応し、地鳴りにも似た歓声が場内に轟く。
実質的な活動期間はわずか1年半だったものの、デビュー10周年を迎えた2009年に復活ライブを開催(その10年振りのライブ開催を発表する場がロフトプラスワンだった)、気づけば結成から四半世紀以上の歳月が過ぎた。往年のファンばかりではなく、グループの出自だった『ASAYAN』を知らぬ若い世代も客席には見受けられる。こうして今なお新たなファンを獲得し続けられるのはクオリティの高い楽曲の普遍的魅力や三者三様のキャラクターはもとより、彼女たちのように凛とした美しさや逞しさを兼ね備えたグループがハロー!プロジェクトに今も存在しないことが一因のように思える。
中盤以降はシャ乱Qのカバー曲「ズルい女」、不動の人気曲「ガタメキラ」と続き、最後はダンサブルな曲調ながら極上の旋律が胸をくすぐる「Magic of Love」。この珠玉の名曲で後輩のメロン記念日の3人──斉藤瞳、村田めぐみ、柴田あゆみが飛び入りし、総勢6名の“シスコ記念日”による「Magic of Love」はまさに壮観。過去のハロー!プロジェクトのコンサートでも前例のない奇跡のコラボレーションであり、MCのでか美ちゃんがその後のトークで二組のツーマンを直接懇願したのも納得の共演にして饗宴と言えるだろう。
そのまま継ぎ目なくメロン記念日のステージが始まる流れも実にスマートで、グループ屈指の名曲であり起死回生の嚆矢となった「お願い魅惑のターゲット」が太陽とシスコムーンの3人と共に披露されたことも、今後ヲタモダチのあいだで語り草となるはずだ。
太陽とシスコムーンが退場し、いよいよメロン記念日単体のステージ。「赤いフリージア」「さぁ!恋人になろう」と往事のキラーチューンが連打されるが、シスコムーンと同様に懐古的なニュアンスはない。今年、デビュー25周年を記念して期間限定で再結成を果たし、この夏から秋にかけて全国ツアー『メロン記念日 '25 LIVE TOUR ~熟メロン~』を計7カ所・14公演完遂した成果もあるのか、15年ものブランクを微塵も感じさせない。それどころか往時を凌ぐ歌唱力とダンスの完成度の高さや一体感、三位一体の凄みのようなものを感じた。『プラスワンまつり』開催前に行なった、アツシ(ニューロティカ)、稲葉貴子(太陽とシスコムーン)、村田めぐみ(メロン記念日)による座談会取材の際、村田が話していた「解散から15年経ってのライブなので、20代だった頃と比べて衰えたと思われたくない気持ちが私の中にあって、いろんな部分でパワーアップしたメロン記念日を見せたいんです」という再結成に懸ける決意の言葉が脳内に蘇った。
筆者は客席にいた掟ポルシェの後方でたまたまライブを観ていたこともあり、掟が再結成ツアーに来てくれなかったと本人に向けて問いただす柴田のMCを懐かしく感じたり、メロン記念日がハロー!プロジェクト出身グループで初めて新宿ロフトに出演したこと、現役時代の後半の活動を追い続けた本誌『ルーフトップ』に対する感謝の意を斉藤がMCで述べたことは個人的に感慨深いものがあった。こうした客観性を求められるレポート記事に私情を挟むことは控えるのが個人的鉄則なのだが、メロン記念日だけはどうかご容赦いただきたい。私にとってメロン記念日は“ロック化計画”という特殊なプロジェクトを共に推進した共犯者であり、30年に及ぶ編集者人生の中で欠くことのできない取材対象者であり恩人なのだ。
そういえばメロン記念日のメンバーから直々に解散することを知らされたのはGOING UNDER GROUNDとの対談取材の時だったなと「メロンティー」を聴きながら思い出し、最後は掟ポルシェがDJイベント『爆音娘。』でかけるとフロアでモッシュ&クラウドサーフが発生したことでもお馴染みの名曲「This is 運命」。これは贔屓目でも何でもなく、メロン記念日はやはり曲が良い。それに尽きる。彼女たちが2000年から2010年にかけて発表した色褪せぬエバーグリーンの名曲をこのまま埋もらせないためにも、期間限定などと言わずにこれからもずっと活動していただきたい。
『プラスワンまつり』が佳境に差し掛かったところへ登場したのは、前人未踏の新宿ロフト最多出演記録を今なお更新し続け、今日が2,261回目のライブだというニューロティカ。ボーカルのアツシはロフトプラスワンのオープン日(1995年7月6日、『一度カウンターに入って見たかった』)にARBのKEITH、G.D.FLICKERSのJOEと共に出演したロフトの生き地引だ。
典型的なバンド編成によるライブがこの日初だったせいか、「嘘になっちまうぜ」「ア・イ・キ・タ」「気持ちいっぱいビンビンビン!!」と一撃必殺の代表曲が間断なく連射されることで直情的なバンドの生音を全身で浴びる多幸感に包まれる。定番曲「チョイスで会おうぜ」ではステージを縦横無尽に駆け巡るアツシが「プラスワン、愛してます!」とラブコールを送り、「永遠ピエロ」というバンドに懸ける思いを実直に唄い上げるナンバーでは未来に見放されても拳を握り締めて今を生き抜き、覚悟を決めて走り続けることの大切さを伝える。バカなことや悪ふざけを全力でやるニューロティカが合間を縫うようにこうしたメッセージ性の強い曲をさりげなくやるからこそ、深く響くものがある。この格段の説得力は言うまでもなく、カタル(ベース)、ナボ(ドラム)、リョウ(ギター)という腕利きのメンバーが織り成す鉄壁のアンサンブルあってのものである。
その後、「最高の友達が来てくれました!」というアツシの呼びかけでメロン記念日が再登場。先述した座談会取材で宣告していた通り、ニューロティカとメロン記念日が2009年に共作した「ピンチはチャンス バカになろうぜ!」を15年振りに披露(2010年4月11日に新宿ロフトで行なわれた『MELON KINEN-BI LOFT LAST GIGS』以来)。「ロフトプラスワンは大好きですか?!」「はい!!」という掛け合いで始まり、メロン記念日の村田めぐみが早々にほっかむり姿に。賑々しく底抜けに明るく楽しく破壊力のある“ピンバカ”はニューロティカが標榜するロックバカイズムを象徴した楽曲であり、メロン記念日のユーモアセンスと勘所の良さが加味されることで楽曲の強度と深みが増す。そのままメロン記念日が残り、一層景気づけるように踊りまくる様が楽しい最後の「絶体絶命のピンチに尻尾を高く上げろ!」然り、両者にしか成し得ない唯一無二のコラボレーションは間違いなくこの日のハイライトの一つだった。
幕間芸人2人目の刺客は猫ひろし。ロフトとは20年前に初のDVD作品『猫ひろしがやってくる ニャー!ニャー!ニャー!』をリリースするなど縁が深い。
登場するなりいきなり客席へ降りて観客とハイタッチして触れ合い、「旧日本人です! 恥ずかしながら日本へ帰って参りました!」とカンボジアに国籍を変えたことを踏まえて挨拶。「カンボジアから子猫を連れてきました!」と猫のプリント柄のパンツ姿となり、手拍子を交えて恒例の猫ひろし(CATひろし)コールやラッセラーを連呼。そしてお馴染みのギャグ100連発を疾風迅雷の勢いで披露。最後は榊原郁恵の「夏のお嬢さん」にのせ、自身のサインを入れたパンツを「勝負パンツにしてください!」と観客へ無理やりプレゼント。受け取ったのは全員男性というオチを含め、徹頭徹尾猫ひろしワールド全開のステージを成し遂げた。
バンドマンとしてはロフトプラスワン最多かつ最長のレジェンド出演者である大槻ケンヂは、40代になってから始めたというアコースティック・ギターの弾き語りで出演。
じゃがたらの名曲「タンゴ」のカバーからやおら始まり、ロフトプラスワンのオープン年に発表されたソロ楽曲「あのさぁ」を滋味深く聴かせる。30年近く前に初めてプラスワンに出演した際、町田康と平野悠が険悪な言い合いをする場に巻き込まれて二度と出たくないと思ったというエピソードを披露し、筋肉少女帯の代表曲「日本印度化計画」「香菜、頭をよくしてあげよう」へと繋げる。後者はとりわけアコギならではの清冽な響きが新鮮で、弾き語りにしか出せぬ情趣に富んでいた。
2011年に行なった自身の生誕記念トークライブで遠藤ミチロウと小林ゆうと共演したとき、ミチロウの唄う「お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました」に小林が感激のあまり号泣したこと、2000年8月に行なった『オーケンのほほん学校』のゲストが遠藤賢司に庵野秀明という異色の組み合わせだったことを話し、ロフトプラスワンには思い出が尽きないと語る。そんな大槻が発する「一生好きなことだけで生きていきたいのならロフトプラスワンへ通うのが一番です」という一言には深みと信憑性が感じられ、同店に向けられたこの日最大の讃辞と言って良いだろう。
弾き語りの一本調子で終えることなく、試験的にオケで筋少の「踊るダメ人間」を唄う趣向も良かったし、ロフトプラスワンの楽屋の階段を昇り降りができなくなったら引退すると笑わせた後に披露した、大槻ケンヂと絶望少女達名義の「人として軸がぶれている」も同じくオケで唄われ、ソロならではの自由な形態は筋少や特撮とまた異なる魅力を感じた。バンドからソロまで多岐にわたる楽曲の作詞を担い、作家としても『グミ・チョコレート・パイン』を始め数々の名著を上梓、『のほほん学校』や『名曲喫茶オーケン』といったレギュラー長寿イベントで的確に進行させる大槻は日本のバンド界屈指の言葉の達人であり、サブカル界の象徴的存在。これだけロフトプラスワンと親和性の高いバンドマンは他にいないだろうし、「ロフト」グループ一同、今後とも末永くお付き合いいただきたいものだ。
MCのプチ鹿島に「逆お口直しかもしれない」と言われ呼び込まれたチャンス大城は、「大森靖子と美しく生きる」と書かれたボディがピンクのTシャツを着用して登場。この身なりのせいか一般のファンと勘違いされ、Zepp Shinjukuの関係者受付で20分ほど警備員に足止めされたという。
イリオモテヤマネコの顔をしながらするフクロウの鳴き声、鳩時計、小学生に防犯ブザーを鳴らされたときの音、X JAPANのYOSHIKIの前で披露したという、F1のレーシングカーに跳ねられそうになったときの猫の鳴き声、セミを捕まえて食べる石破茂、甲子園のサイレンの真似をする麻生太郎、ハチの大群に襲われたウィーン少年合唱団、カラオケボックスの終了10分前の内戦電話の音、中国の二胡で奏でる『タイタニック』の主題曲、平安時代の人のモノマネ、口から延々と出てくるまっくろくろすけ(ススワタリ)など、シュールなネタが満載。最後は長机を用意し、背中でいろいろな音を出すネタを披露。ぎこちなく背中を机に擦りつけながら、ガマガエルの鳴き声、古い洋館の扉が開く音、セスナ機の着陸音などを懸命に出す姿がおかしい。母校で凱旋ライブを行なった際、このネタを披露したところ「あいつを二度と呼ぶな!」と教頭に言われたという話には大いに笑わせてもらった。
大トリはロフトプラスワンでのFC限定イベント『続・実験室』が遂に100回を突破した歌姫、大森靖子。sugarbeans(キーボード)、設楽博臣(ギター)、千ヶ崎学(ベース)、張替智広(ドラム)、宇城茉世(コーラス、パーカッション)から成る四天王バンドと共に繰り広げるライブは、フリルがアクセントとなった全身純白の眩いドレスを身に纏った大森がバンドメンバーとおもむろに現れ、唐突に音合わせをするところから始まった。
「TOKYO BLACK HOLE」「超天獄」と本番さながらのテンションで聴かせ、そのまま本番へ移行。ロフトプラスワンの祝祭を意識したと思しき選曲、「ときどき歌舞伎町にいかないと 幸せがわからない」と唄う「パーティードレス」で始まり、「ハンドメイドホーム」「ミッドナイト清純異性交遊」「非国民的ヒーロー」「TOBUTORI」「PINK」「桃色団地」と、MCを挟まず一気呵成に聴かせる。漆黒の闇の中で煌然と波打つピンクのペンライトがただ美しい。「パーティードレス」で激情の赴くままにアコギを掻き鳴らす様も、「私の街で、私を見つけろ!」と絶叫して始まった「ミッドナイト清純異性交遊」で魅せるキュートな振り付けも、前日にTOHOシネマズ新宿で起きた物騒な事件に言及しながら「桃色団地」で轟かせた鬼気迫る歌声も、どの場面もみな一秒たりとも見逃せない。
白眉はやはり、本編最後の「死神」だろう。文字通り死神が憑依したかのような狂気の絶叫はまさに壮絶で圧巻。抑えきれぬ悲しみや決して消え去れぬ傷、内に潜む闇を切々と唄い上げる姿に超歌手として生きる宿命や業のようなものを感じずにはいられなかった。
大森と四天王バンドの渾身のパフォーマンスを体感できた余韻に浸るなか場内が暗転し、この日の出演者がロフトプラスワンに登壇したときの模様を編集した映像がエンドロールとしてスクリーンに映し出される(BGMはチャラン・ポ・ランタンの「リバイバル上映」)。映像の最後に「1976年10月 新宿小滝橋通り」という文字が突如躍り、回転するアナログレコードを模したロゴと共に「2026 SHINJUKU LOFT 50th ANNIVERSARY 〜SINCE 1976〜」「Coming Soon」という字幕が映り、来年は新宿ロフトのオープン50周年を迎える大きな節目であることが伝えられた。30周年を迎えたロフトプラスワンから50周年を迎える新宿ロフトへ、規制やタブーを恐れず自由な空間を創造し続ける決意と覚悟のバトンがここで受け渡された格好だ。
ダースレイダー、プチ鹿島、でか美ちゃんが大森を呼び込み、アフタートーク。「自分のことを姫のように思える、姫扱いされるのはロフトプラスワンだけ」という大森は「ここ(Zepp Shinjuku)、ロフトみたいな音しますよね?」と話し、今日はロフトへの恩返しの気持ちでライブに臨んだと語った。その後、四天王バンドのメンバーがステージへ戻ってきたタイミングで「勝手にアンコールやっちゃいます!」と最後に「新宿」を披露。「パーティードレス」で始まり「新宿」で締めるというロフトプラスワンにちなんだ粋な選曲・構成であり、『プラスワンまつり』を締め括るに相応しい一曲と言えるだろう。
最後は大森とチャンス大城、MC陣の3人によるトークが行なわれ、「チャンスさんが大森ファミリーに入れるのがプラスワンの良いところ」とダースレイダーが語り、大森が「『歌舞伎町プラスワンまつり in Zepp新宿』、長丁場でしたが最後までありがとうございました!」と台本に書かれた台詞を敢えてそのまま読み、8時間を超える特濃特大のサブカル祭りの終演を告げた。
なお、大森はこの大役を成し遂げた後、吉田豪をMCに迎えてロフトプラスワンで行なわれていた無観客配信ライブ『裏・歌舞伎町プラスワンまつり』にも出演していただいたのだから感謝の念に堪えない。
“新宿サブカル御殿”、“オタクの聖地”、“文化のドブさらい”など数々の異名を持ち、日本のトーク文化の爛熟に寄与してきたロフトプラスワンがオープン30周年を通過点として何処に向かい、どんなアクションを起こしていくのか。ただ一つ確かなことは、この多様性の時代だからこそ、性別、人種、年齢、政治的信条、性的指向などさまざまな違いを尊重した対話の場を設けていくということだ。音楽的ジャンルもアーティストの特性もばらばらでごった煮だからこそ面白い。それはこの『歌舞伎町プラスワンまつり』の振り幅の広すぎるラインナップを見ても明らかだろう。東洋一の歓楽街である新宿歌舞伎町のど真ん中で、ロフトプラスワンは今日もあらゆる垣根を乗り越え、誰一人取り残すことのない空間を絶えず模索し続けている。
Photo:MAYUMI(@SOxWHAT_88)|ババショウタ(@bb_yotsuba)
Photo Select:丸山恵理|Text:椎名宗之














