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トップレポート「純喫茶マスター大集会」【前半】エース・らんぶる・ドゥー・ヘッケルン・アルプスのマスター大集合!

「純喫茶マスター大集会」【前半】エース・らんぶる・ドゥー・ヘッケルン・アルプスのマスター大集合!

2020.06.01

2019年6月9日@阿佐ヶ谷ロフトA 純喫茶マスター大集会
【純喫茶マスター】
神田・エース、新宿・らんぶる、目黒・ドゥー、虎ノ門・ヘッケルン、駒込・アルプス
【純喫茶コレクション】
難波里奈

まずは『新宿らんぶる』マスターが登場!「街の文化は喫茶店から生まれる」

難波:今日はみなさまお休みの中、こんなに沢山集まってくださって、どうもありがとうございます。純喫茶コレクションの難波と申します。今日は阿佐ヶ谷ロフトさんからお誘いを受けまして、私と純喫茶マスターの二人で話すイベントは前にもあったので、どうせなら5人一緒に呼んでしまおうということで、お声がけしたらみなさんご快諾くださいました。楽屋は既に大盛り上がりで、それを流したら放送でイベントが終わってしまうんじゃないかと思うくらい、みなさんおしゃべりしたいことが沢山で、お客様にお会いできるのを楽しみにしていたということです。短い時間ではありますが、よろしくお願いいたします。
 
 
イベント限定メニュー.jpg
イベント限定メニュー
 
のりトースト、クロックムッシュ、ジャンボプリン、ミルクセーキ、5色のクリームソーダを特別メニューで出してくださっているので、こちらの食べ物は25食限定になってしまうんですけれども、どんどん食べてください。マスターたちも「俺のためにシャンパンを入れろ!」と言っていたマスターもいるので(笑)。気の向いた方とお金に余裕のある方は、森マスターの退院祝いにシャンパン入れてあげてください。それではまずトップバッターのマスターをお呼びしたいと思います。『新宿らんぶる』の重光さん、お願いします!
 
 
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らんぶる重光さん・ヘッケルン森さん
 
重光:『らんぶる』の重光です。よろしくお願いします!
 
難波:重光さん、何か飲まれますか?
 
重光:アイスコーヒーをお願いします。
 
難波:ここでもちゃんと喫茶店らしいものを…
 
重光:売るほどあるんですけどね(笑)。
 
難波:ご存知の方もいらっしゃるかもしれないのですが、実は重光さんと私は高校3年間クラスが一緒だったんですよ。これは私も重光さんも知らず、卒業してしばらく経って、総会をした時に名刺交換をしたら、「『新宿らんぶる』で働いてます」って言われて、「え? 今度、本で協力してもらうけど…」って。
 
重光:だから3年間、友達だったんですけど、うちが喫茶店やってるってことも知らなかったんですよね。僕も言ってなかったんだね。
 
難波:クラス3年間一緒で、さらに体育祭でダンスを踊るペアだったんです! 普通だったら恋が生まれそうなんですけど、残念ながら生まれないまま、今に至ります(笑)。じゃあ重光さん、お店の紹介と、自己紹介をお願いします。
 
重光:新宿東口で『新宿らんぶる』という喫茶店をやっています、重光康宏と申します。お店は1階が喫煙可能で、地下に降りますと、地上からはわからないんですが、広い空間でやっていますので、新宿の雑踏を忘れられていいのかなと思います。実は今、69年経ってまして、なんの予定もないのですが来年70周年になります。長くやっておりますので、そういう雰囲気を楽しみに来ていただけたらと思います。お一人様も大歓迎ですし、ゆっくり滞在いただいて。あとは友人との語らいですとか…。一応、うちの店のフレーズが格好つけてまして「街の文化は喫茶店から生まれる」っていうのが、長くやってるフレーズですので、いろんな方々に気軽に来ていただきたいです。お待ちしております。
 
難波:新宿っていつも、どこも賑わっていて、ゆっくりお茶するところを探すのも大変だったりするんですね。でも、『らんぶる』さんが心にあると「あそこに行ってみよう!」ってなります。誰を連れて行っても安心ですし、らんぶるさんが新宿の街にある価値っていうのが、すごく街として大きいなって思って。
 
重光:僕は3代目で、父は亡くなっているのですが、まだ2代目の叔父と叔母がしっかり支えていてくれています。
 
難波:今、お店を継いで何年目ですか?
 
重光:『らんぶる』に出るようになってから17年くらいですかね。
 
難波:そんなに経ちますか! お店を継ぐということは、学生時代から頭にあったんですか?
 
重光:いや…僕は学生時代、全く別の分野……海の生き物とかの研究をしていまして。でも、「『らんぶる』を閉めるかどうか」という話があって、それで是非、続けたいのでっていうことで継ぐことに。初めは「家族がやっている喫茶店だから」っていうことで入ったんです。新宿のああいう場所なんですけど、地元の繋がりが結構、強くて。みなさんご存知かもしれないんですけど、そばの『ローレル』っていう喫茶店ですとか、『珈琲西武』の方には毎日のように会いますし、町会のお祭りですとかイベントですとか、街をあげてやっていることが多いので、そう行った意味ではどんどん、街が好きになっていきました。来てくださるお客さんにも、新宿の良いところを知ってもらいたいと思うようになりました。なので、うちが混んでいる時は「あのお店にも行ってみましたか?」と聞いてみたり…
 
難波:いいですね。自分のお店だけじゃなくて、横のつながりもあって。その喫茶店を目当てに、新宿という街に来てもらって、街全部を楽しんでもらえたら…
 
重光:一番いいかな、と。
 
難波:なんという模範解答なんでしょうね(笑)。素晴らしい! あと、『らんぶる』さんの話で以前、私が感動したのは、食事をした時に店員さんが早く食器を下げに来てくださるじゃないですか。あれは、「早く帰れ」という意味ではなく、「テーブルに何も汚れるものがない状態で好きなだけのんびりしてください」ということだと聞いて、すごく良い心遣いだな思いました。
 
重光:そうですね。席数もありますし…ただ、テーブルとかが小さいので、使わないものはすぐ下げて、あとはゆっくりどうぞ…ということなんです。でもそれもちょっと難しくて、下げ方っていうのが。プイッて下げちゃうと「帰れってこと?」となっちゃってよくないので。その辺がこう、スタッフの子たちもよくやってくれてるんですけど、なかなか上手く伝えづらい。逆にこう、コーヒー一杯だけチャッと飲んですぐお帰りになられてしまうと、心配になってしまうので(笑)、みなさんにはゆっくりしていただけたらと思います。
 
難波:重光さんは、ご自分でも喫茶店に行かれたりするじゃないですか。そういう時に、比べるってわけじゃないんですけど、ご自分のお店と居心地の良さの共通点みたいなのって、なんだと思いますか?
 
重光:周りのお客様もどんな感じなのかなっていうのも見ますし、「そこのお店じゃなきゃ!」っていう何かがあると良いのかな。チェーン店が悪いってわけじゃないんですけど、そこの街の雰囲気とか…僕は天気と結びつけて過ごすのが好きなので、うちなんかは地下なので天気を感じられないんですけど、一階のお店だったら「雨の音が聞こえる雰囲気が合うお店かな」とかで記憶したりはしますね。
 
難波:前に「喫茶店に行く時は、その場所の主人公になった気持ちで過ごす」とお話しされてたじゃないですか。それは今も変わってないですか?
 
重光:そうですね。みなさんにもオススメなのですが、喫茶店に入る時は、「自分が主人公」「自分の時間」として、普段とは違う格好で座ってみたり、ちょっと優雅な気持ちでいても良いですし、「こっそり忙しいことから逃げてきた」とかそういう、普段の自分とは違う自分を演技しながら行くのも楽しいんじゃないかなと。家とは違うくつろぎ方ですよね。
 
難波:『らんぶる』なんてそれにうってつけですよね。家とは絶対に違う、非日常のインテリアじゃないですか。
 
重光:そうですね。そういうことで楽しんでいただけたらなと思います。
 
難波:最近は自分を主人公にした喫茶店は、どこに行かれてそんな役柄を演じたんですか?
 
重光:いやあ…(笑)、この近辺(阿佐ヶ谷)ですと、『名曲喫茶ヴィオロン』さんていう喫茶店があるんですけど、そこに行く時なんかは「俺はここを知ってるぞ」みたいな。行くまでの道から、もう歩き方が違いますね。
 
難波:駅を出た瞬間から!
 
重光:雨の日は特にうってつけで。この雨音を聞くなら『ヴィオロン』より良い場所はないぞ、と思いながら聴いてますね。
 
難波:じゃあ今日、イベント終わったあとも『ヴィオロン』さんはやってますから。この人数はちょっと入りきらないですけど…あふれた方は、『らんぶる』に行ってください(笑)。(註:この日は昼イベント、天気は雨でした)では重光さん、とっても名残惜しいんですけど、10分経過してしまいました。
 
重光:あっという間でしたね!
 
難波:ひとりひとりはこんな感じでちょっと短いんですけど、後半はわちゃわちゃしますので。重光さんありがとうございました〜!
 

『虎ノ門・ヘッケルン』マスターが登場!「一言、二言くらい喋れば、まず覚えてます」

 
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ヘッケルン森さん
 
難波:続いては、『虎ノ門・ヘッケルン』から森さん、お願いします! 森さん、何を召し上がりますか?
 
森:乾杯にはビールですね!
 
難波:飲んで大丈夫なんですか? 入院されていたから、心配していました。
 
森:もう絶好調ですね!
 
会場:退院おめでとうございます!
 
森:おう! ありがとう! 口は何より達者だから大丈夫、大丈夫!
 
難波:きっと誰かシャンパン入れてくれますよ(笑)。
 
森:そうだねぇ、2本でも3本でも良いですよ! そうすると売り上げが上がって、ここ(阿佐ヶ谷ロフトA)にも少しだけどいきますよね。じゃんじゃん飲みましょう、乾杯! 退院してからビールが旨い!
 
難波:今日すごいかっこいいズボンですよね。どうしたんですか。
 
森:これはね、私のファミリーの82の人が「ここに来るならこれしかない」って…(立つ)
 
難波:じゃあマスター、撮影会しましょうか。これはどこのやつなんでしたっけ?
 
森:イッセイミヤケ、三宅一生さんのです。
 
会場:えー!
 
難波:サルエルですよ。かっこよくないですか?
 
森:靴下もそうなの。
 
難波:ね。今日おしゃれしてきたんですね。
 
森:ここに来るならこれしかないって言われてね。
 
難波:素敵。似合ってます。
 
森:ありがとう!
 
難波:今日は阿佐ヶ谷ロフトさんが『ジャンボプリン』を作ってくださったんで。召し上がって、みなさんにもオススメしてください。
 
森:いただきます! この、柔らかさが良いね! とても美味しいですね。
 
難波:よかった! では森さん、有名人なので、ほとんどの方がご存知だと思うんですけれども、『ヘッケルン』のお店の紹介をお願いします。
 
森:虎ノ門で『ヘッケルン』というお店をやっています。もう少しで50年です。一生懸命に仕事をしてきて、休まないのを自慢にしてきました。ところが、あと一歩というところでひっくりかえりましてね。慈恵大に15日間、お世話になってきました。そういう、一生懸命にやることを誇りに思ってます。
 
難波:足はもう大丈夫なんですか?
 
森:足はもうね、大丈夫ですね。脊髄がもう少しアレかな。
 
難波:でも今日これだけお客さんいたら、もうピンピンになって帰れますね。
 
森:おうよ! また明日っからもう、あと50年やる(笑)。50年やるためには、負けちゃいられない!
 
難波:そんなに毎日、おひとりでずっと長くお店に立っていられる気力の源っていうのはなんですか?
 
森:それはね、日本全国から来ていただいているお客さんですね。それが私の支えですね。疲れないって言ったら嘘になるけど、みなさんが来てくださると、疲れが飛びますね。だから一生懸命にやる!
 
難波:森さんは携帯とか持っていないので、お店に電話しないと私も全然、連絡が取れなくて。退院されて今日からお店を始めますっていう日の朝にお電話したら、「あと50年やるよ!」って言われて、森さんの年齢からいったらすごいなぁと思って(笑)。でもやってくださいね。
 
森:やりますよ! もう絶対にやります! 死んでもやりますから!(笑)…死んじゃったらやれないか。
 
難波:そうですね、200歳まで生きれば…(笑)。『ヘッケルン』は、プリンの美味しさやコーヒーの美味しさは勿論なんですけど、「森さんのキャラクターに会いたくて」という方もめちゃくちゃ多いじゃないですか。しかも、森さんはいらっしゃった方みんな覚えてらっしゃいますよね。それがすごいなぁと思って。
 
森:覚えてますね。一言、二言くらい喋れば、まず覚えてます。
 
難波:その、人を覚えるコツというのは、社会人の方や学生さんも自分の生活に活きると思うので、そのコツをみなさんに教えていただけますか?
 
森:コツはね、“名前を覚えないこと”。名前を覚えると、例えば「山田さん」とか「田中さん」とか。20人も30人もいるわけです。その中からどうしたら良いかってことはね、その人の顔を目と口で三角にするんです。そうするとね、その人の特徴が浮き出てくるんです。そうすると、この人はいつ来たのかな? とかがわかる。苗字とかで覚えようとしたら、それは覚えられないです。だけど、人の後ろ姿…そういうものを、記憶の中に入れる。そうすれば覚えていられる。お客さんに対して、名前を覚えるよりも、ドアを開けた時に「あぁ! いらっしゃい!」っていう、そういう気持ちが通じた時に熱いものを感じる。
 
難波:それはお客さん嬉しいですよね。
 
森:私も嬉しいけど、きっとお客さんも嬉しいと思うね。
 
難波:森さんはパソコンも携帯も持ってないんですけど、森さん自身が優秀な「森コンピューター」なので、50年間の間に、何万人、何十万人…もしかしたら何百万人ものお客さんがいらっしゃってるじゃないですか。でも会話した方のことはきちんと覚えていて、コンピューターも勝てないな、と思いますね。森さんみたいな方を見ると。
 
森:実際の話、勝てません。私は、勝ちます(笑)。それくらいのことを思っていかないとね、ダメです。
 
難波:本当にそうですね。では森さん、名残惜しいんですけれど…
 
森:えっ! もう終わりなんですか。
 
難波:まだまだここからでしたけどね(笑)。後半もあるので。ではみなさんに一言お願いします。
 
森:3番目のマスターもいい男ですよ〜!
 
難波:楽屋では、三番目のマスターと森さんがすごい盛り上がってて、後のマスターはみんな大人しくそれを聞いてましたね(笑)。では森さん、ありがとうございました。
 
森:ではまた後ほど!
 

『駒込・アルプス』のシェフが登場!「皆さんの思い出になってくれればいいなと思って店を閉めた」

 
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アルプスのコースター
 
難波:続きましては、こういうイベントに初登場。2019年3月に、惜しまれながらも閉店してしまいました、『駒込・アルプス』の太田シェフです。太田さん、お願いします。
 
太田:よろしくお願いします!
 
難波:太田さんも5時間喋る気で来てますから(笑)。
 
太田:当然でしょう!
 
難波:『アルプス』さんは3月に閉店されたんですけれども、貴重なマッチとコースターを、全員のために持ってきてきださって。良いんですか? そんなに貴重なものを…
 
太田:もう閉店しちゃったんで。失礼になってしまうかもしれないんですけど、もうゴミになってしまうもので。
 
難波:何を言ってるんですか!「1つ100円で売れば10,000円ですよ!」って言ったんですけど(笑)、「いいよ、配るよ」って漢気を見せてくださいました。
 
太田:だって元々、売り物じゃないもの売ってね。アコギなお金貰ったってね。そんなことで商売やっちゃいけないです!
 
難波:では、『アルプス』さんについて自己紹介をお願いします。
 
太田:『駒込アルプス洋菓子店』、僕で実質、三代目になりました。前身の『喫茶店ヤマ』は1954年からあって、初代が、1959年(昭和34年)10月に駒込で商売を始めました。現在のお店にして、建物が築50年経ちました。なので内部がボロボロです。水漏れや雨漏り、散々しました。それで、これ以上やっていると、ビルが倒壊してしまうとかでお客さんに迷惑をかけてしまう。だったら閉めたほうがいいんじゃないか、と決め、閉店させて頂きました。皆さんに本当に申し訳なく思います。謝罪会見とさせて頂きます(笑)。
 
難波:今日そういう会だったんですか!?(笑) 本当に、『アルプス』さんのケーキのファンは沢山いて。急な閉店だったじゃないですか。他に代理がきかないので、皆さんこの気持ちをどうしたらいいかわからず、まだ浮遊している方も沢山いらっしゃると思うんです。どうしたらいいですか?(笑)
 
太田:そのままの気持ちで生きてください。それしか言えない…
 
難波:太田さんは、『アルプス』さんという場所じゃないにしても、ケーキを作ったりだとかお店を開いたりだとか、そういう展望はいかがなんでしょうか?
 
太田:一切ございません!
 
難波:えっ…! なぜ…!
 
太田:今、世の中があまりにも良くなくてですね。材料の問題もありましたり、色んな諸事情により閉店という形を取らせてもらって、皆さんの思い出になってくれればいいなと思って店を閉めたわけであって。再開をして、また同じものを作って商売が成り立つんだったらやってっていいと思います。ただ、そこにあった店の雰囲気とかが一度すべて失なわれるわけですね。失なわれて復活してもそれは同じものとは言えません。だったら皆さんの思い出の中に入れておいてほしいな、と思いますね。…真面目だな、俺!(笑)
 
難波:さっき扇子持ってたんで、漫談とか始まるのかなと思いました(笑)。太田さん、ケーキ作らないでもお話の依頼とかいっぱいきてるんじゃないですか?
 
太田:来ても、みんなお断りしてます。
 
難波:あら! 今日はなんで出てくださったんですか?
 
太田:気の迷いかな…
 
難波:「今日みんなに会うのが楽しみで」とか言ってくださいよ!(笑)
 
太田:………
 
難波:嘘はつけないタイプなんですね(笑)。でも、やっぱり喫茶店の方って、お店に行けば会えるんですけど、閉店してしまったらその後、会えない方っていうのがほとんどだと思うんですね。太田さんとは、今回ご出演をお願いしていたということもあって、メールでやりとりしたり、閉店の直前に『ブルータス』さんで対談させてもらったこともあって、結構がっつり喋ったんですけど、やっぱり会えなくなると思うと寂しくて。今日とってもお会いできるのを楽しみにしていて。皆さんもきっと私以上に太田さんに会いたかったと思うんですよ。
 
太田:そうですか? 会ったってね、つまらないですよ。単なるオヤジだから。
 
難波:太田さんは、理系で工学部の院まで出て、ケーキ屋を継ぐ…という。今後、理系のお仕事に行く可能性もあるんですか?
 
太田:やっぱし来たかぁ…
 
難波:あら、NGワードでしたか?
 
太田:いや、別にいいんですよ。まだ就職先が決まってない、無職なんですね、ワタクシ(笑)。それで、51歳になってここから就職するのが楽しくてね。どこが入れてくれて、どこが弾くのかと。楽しみに生きてます。なんでこんな前向きな人生やってるのかっていうと、今まで嫌で嫌でたまらなかったところにいて、ここから初めて自分の自由が手に入るんだと思ったら楽しくて楽しくて。じゃあなんで嫌なことやっていたんだって言うと、ハッキリ言って家業だからなんです。だからやってきました。「家業でも潰して無くしてしまってそれで悲しくないのか?」って言われますが、悲しいと思うことはないですね。だって、前を見ていけばいいんだもん。人生うしろ見て鑑みるのなんて簡単ですよ。前を見る方が難しいけど、楽しいじゃないですか。無限の可能性があるんだから。死ぬまで生きりゃいいんだから。そう考えていけばいいわけですね。だから、「工学部系のことやりますか?」って、僕が工学部系のことをやっていたのは遥か前です。30年以上前の話なんで。今の知識じゃ追いつかないです。過去の知識にこだわったってしょうがないですね。
 
難波:今、やりたいことってなんですか? 仕事にかかわらず、これからの太田さんの人生で。洋菓子店があってできなかったけど、「これやりたい!」みたいな。
 
太田:これからやりたいこと…やりたいことというか、恩返ししないといけないですね。皆さんに。今までこうやって自分を支えてくれていた業者、業界、その方々に恩返しの想いを込めて今、動いています。そして今後もそういった世界にいると思います。そして皆さまのお口を汚すことになるかもしれません。
 
難波:わぁ! じゃあどこかでまた食べられるかも…?
 
太田:はい。
 
難波:その情報はどこで知ることができるんですか? あ、じゃあメールください。Twitterで発信するので。
 
太田:発信されちゃうじゃない、それはダメだ。内緒!
 
難波:え? じゃあ皆さん内緒のうちに食べるということですか?
 
太田:もう皆さん食べてますよ、悪いですけど。今になったからバラしますけど、言っちゃおうかな。
 
難波:言っちゃってください!
 
太田:アイスクリーム作りました、ケンタッキー・フライドチキンのお菓子も作りました、ヤマザキパンのお菓子も作ってました。全部、一通り作ってます。コンビニの半分以上のお菓子を作っていたこともありました。設計図面を引きました。そういうことばっかりやってきたんで、もう飽きちゃったかな、と。だんだん自分が何をやっているのかわからなくなってきてしまって。昨日まで長野県の実家にいたんです。そこでお祭りがあったんで行ってきたんですけど、親戚みんなに言われました。「なんで辞めた?」と(笑)。
 
難波:そうですよね…。だって、売れていて、人気で、キャリアもあって、名も知れていて。まあ、その建物の老朽化以外はやめる要素はない…
 
太田:あるあるあるあるある! 自分が辞めたいだけ(笑)。
 
難波:それはいちばん大きいですね!(笑) そう言われちゃうと…そっかぁ。
 
太田:身も蓋もない奴でしょ、本当に。
 
難波:でも、その太田さんが作るお菓子は本当に美味しくて、繊細で、美しくて。みんな好きで買い求めていたわけじゃないですか。その記憶ってとっても良いですね。太田さんの意思とは裏腹かも知れないですけど。
 
太田:僕自身が、どれほど売れてどれだけの人が食べてっていうのは全然、考えたことがなかったんですね。辞めてみて初めてここまで言われて。でも自分はまだ作れる人間なので。だから場所と時間と貸してくれれば、「いつでも皆さんの前で復活できますよ」というのが自分の中のポリシーですよね。
 
難波:誰か1億円くらい積んでください(笑)。
 
太田:1億じゃやだ! もっともっと!(笑)
 
難波:じゃあ5億くらい。クラウドファンディング…
 
太田:クラウドファンディングするとロクでもないことになるんで。皆さんに何かものを配りましょうってなると、それは辛いんで…
 
難波:じゃあ50億くらいって言っておきますか?
 
太田:お金積んだぐらいじゃ動かないですよ!
 
難波:でも、いつか食べられる機会があると良いなって、みんな思いますよね?
 
会場:(賛同)
 
難波:じゃあ、その時を待って。太田さん、まだまだ喋りたいんですけど、前半の出番終了で。また後半お願いします。では、駒込アルプスの太田シェフでした!
 
太田:ありがとうございました!
 
難波:皆さんお話がお上手で、簡単に「こんな流れで…」と言っただけですけど、ほぼ私は座っているだけというくらい勝手に喋ってくださるので、とっても楽しいです(笑)。
 

『目黒・ドゥー』のマスターが登場!「クロックムッシュ発祥のお店」

 
ドゥー再現クロックムッシ・らんぶる再現ミルクセーキ.jpg
ドゥー再現クロックムッシュ&らんぶる再現ミルクセーキ
 
難波:4番目の方をお呼びします。『目黒・ドゥー』の嵯峨さん。お願いします。
 
嵯峨:よろしくお願いします。
 
難波:嵯峨さん、こういうイベントに初出演と伺いました。今日はありがとうございます!
 
嵯峨:お呼びいただきましてありがとうござます。ピン芸人と講談師の後かぁ、と思っておりますが(笑)。私は無口なもんで。
 
難波:嵯峨さんは、この物静かな、ダンディな感じが売りなので。ゆっくり喋りましょうね。私もちょっと休憩させていただきます。パワフルな2人が続いてしまったので…(笑)。
 
嵯峨:参りましたね。
 
難波:では『ドゥー』の自己紹介をお願いいたします。
 
嵯峨:目黒の駅前にあります、『ドゥー』という小さな店ですが、地元で47年間やっております。落ちつける店ですので、皆さん目黒にお越しの際は是非お寄り下さい。お待ちしております。
 
難波:目黒は喫茶店が少ないので、『ドゥー』さんが心の拠り所ですよね、皆さん。
 
嵯峨:そうですね。儲からないけど、周りがいなくなってくれたんで、何とか続いております(笑)。
 
会場:(爆笑)
 
難波:サラッとすごいこと仰いましたね。
 
嵯峨:昔はね、雑誌の記者さんがいらした時に「目黒は何で喫茶店が多いんですか?」とびっくりしていたんですけどね。
 
難波:そんなにあったんですか?
 
嵯峨:それが、じっと耐えている間に、ひとつ減り、ふたつ減り…(笑)。
 
難波:なんか嵯峨さんのキャラクターを表すような、物静かな感じが良いですね。今日、クロックムッシュを阿佐ヶ谷ロフトAさんが作ってくださったので、是非、召し上がってください。
 
嵯峨:今、食べて良いんですか?
 
難波:どうぞどうぞ。目黒の『ドゥー』は「クロックムッシュ発祥のお店」と言われていて。嵯峨さんの先代の方が、パリの舞台俳優をされていて、パリのお友達に作ってもらった味が忘れられなくて、日本に持ち込んで出したのが最初と言われています。どうですか? ロフトさんのクロックムッシュは。
 
嵯峨:人に作ってもらっても美味しいですね!
 
難波:よかったです。今日はお店をお休みして…
 
嵯峨:そうです。
 
難波:ああ、ありがとうございます! 私はお店に行ってる歴はとっても長いんですけど、嵯峨さんとお会いするようになったのはここ3年くらい…
 
嵯峨:身分を隠していらっしゃってね。
 
難波:そんなことは全くないです!(笑) 私は実家が五反田なので、目黒が近くてよく行っていました。「ああ、いつもダンディでかっこいいけど、無口だから、私なんかが話しかけちゃいけないのだ」とここ3年まで、ちょっと恐れ多くて話せなかったんです。
 
嵯峨:それはね、『ヘッケルン』のマスターにね、慣れちゃったらね(笑)。楽屋でも圧倒されてますからね。ただ頷くだけです、こっちは。聞き上手って言われましたから。
 
難波:そうなんです。森さんが喋り倒して、嵯峨さんが全部を受け止める、最強のカップルみたいになっていましたね。
 
嵯峨:喫茶店がダメになったら漫才やろうかなって思ってます(笑)。
 
難波:この間、森さんが『ドゥー』にいらしたんですってね。
 
嵯峨:そうなんですよ。びっくりしちゃいましてね。しれ〜っと奥様とカウンターに並んでお座りになって。私はあまりお客様の顔をジロジロ見ないようにしているのですけど、声をかけられたんですね。「このお店、長いんですか?」って。それで、「ハイ!?」と顔を見たら、森さんがしれ〜っといらして。「森さんじゃないですか!」「バレた?」なんて言ってね。それからもう喋りっぱなし(笑)。
 
難波:他のお店でもあんな感じなんですね。
 
嵯峨:私、もうマスターの前で直立不動です。ただ頷いているだけ。
 
難波:先ほど仰ってて面白かったのが、身分を隠していらっしゃったのが水戸黄門様みたいで、全国の純喫茶を回って成敗しているのでは? と言う…
 
嵯峨:あの調子で全国の喫茶店を回って、悪い喫茶店があったら成敗するという…
 
難波:その時、森さんは何を召し上がったんですか?
 
嵯峨:『ドゥー』のブレンドを飲んでいただいて。帰りに、「美味しかったよ!」と声を掛けて頂いてね。こっちはもう最敬礼です(笑)。
 
難波:でも嵯峨さんも他の店に沢山行かれていた時期があったじゃないですか。
 
嵯峨:僕、病気しましてね。店を1ヶ月半ほど休んだんですよ。普段、自分のお店を開けているときは、なかなか他のお店に行くことができないんですね。だから、その機会に神田の『エース』と、『ヘッケルン』の森さんのところには絶対に行かなきゃいけないと思って。客で行くと森さんはそんなに喋ってなかったね(笑)。
 
難波:今日は存分に友好を深めて、ふたりで肩組んで帰るくらいの…
 
嵯峨:そうですね。手を繋いでスキップして帰ります。
 
難波:嵯峨さん、こんなダンディなのに喋るとこんなにユニークで。嵯峨さんが『ドゥー』に入ったきっかけというのが…
 
嵯峨:学生の時に銀座の大きい喫茶店でバイトしてたんですけど、その時はコーヒーが嫌いだったんです。昔ですからね、大きな寸胴に50杯ぶんいっぺんに落とすんですね。それをオーダーが入るたびに鍋に入れて、ガス入れて…だから旨くないじゃないですか。それで、『ドゥー』が二十歳の頃にできて。行ってみたらコーヒーをサイフォンで淹れていて。出てきたコーヒーが透き通っているんですね。薄いんじゃないんです。透き通っていて透明感がある。飲んでみたら…美味しいんです。「コレだよ!」と思って。それで、『ドゥー』でアルバイトを始めました。それで、大学を卒業して、普通に就職したんですけれども、協調性がないもので2年で逃げ出しまして。なんか一人でできること…って考えて、「そうだ、また『ドゥー』に戻ってちょっと修行させてもらって、独立して自分で店をやろう」そういう志しでおりました。その「ちょっとの修行」をまだしております。もう40年以上、修行の身です(笑)。
 
難波:素晴らしい。
 
嵯峨:目標は、『ヘッケルン』の森マスターです。あそこになるのは大変でしょう!
 
難波:あと80年くらいやんないとダメですね(笑)。みなさんのお話を10分で区切るのは本当に勿体なさすぎるんですけども、後半がっつり喋っていただきますので、一度こちらで…また後ほど。
 
嵯峨:はい、ありがとうございました。
 
難波:楽屋で森さんと喋っていてください。
 
嵯峨:いや、もう森さんと目を合わせないようにします(笑)。
 
難波:嵯峨さんがこんな喋ってくださる機会って、結構レアですよね。ありがとうございました!
 

『神田・エース』のマスター登場!名物「のりトースト」誕生秘話。

 
 
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エース清水兄弟
 
難波:それでは、前半の最後、5人目のマスターをお呼びしたいと思います。『神田・エース』から、清水さん。お願いします!
 
清水:よろしくお願いします。
 
難波:なんか、もう、自分のお父さんにあったような感じ(笑)。
 
清水:難波さんとはもう15年くらいの仲で、いちばん長いと思います。自分の娘だと思ってずっと付き合ってきました。今日は皆さま、大勢の方に来て頂いて、本当にありがとうございます。
 
難波:『エース』を知らない方はいないんじゃないかというくらい、純喫茶界のレジェンドですけれども、簡単に自己紹介をお願いします。
 
清水:神田の西口から出て、2、3分のところにあります。開店が昭和46年(1971年)。この年は、銀座にマクドナルドの1号店が出店しました。当時、マクドナルドのコーヒーの値段が120円でした。それで、うちもそのくらいでやろうとスタートしまして。コーヒーにプラスで何か他に負けないものを出したいという想いがありまして。私が中学生の頃、母親がお弁当を作ってくれていて、その時に「ご飯からパンに置き換えたらどうなのか?」と。試行錯誤してやりましたら、この名物「のりトースト」がですね、思いもよらぬ展開になりまして。お店の前に30人から40人くらい並んじゃうんですね。これじゃ、コーヒー専門店として、お店の方が疎かになっちゃうんですよ。それで、店内で飲食される方のみに提供しようというように営業方針を変えまして。この(2019年)8月がきますと48年になるんですよ。
 
難波:長いですね。
 
清水:長いですかね? まあそういう感じで始まりまして。お店をやる前はサラリーマンを10年くらいやっていたんですけど、父親が本当にコーヒーが好きで。その父から、弟と二人で脱サラしてお店をやってくれないか? と相談されまして。
 
難波:清水さんは本当にフットワークがすごく軽くて、とてもアクティブじゃないですか。メキシコとか、そういうところも旅されてたんですよね。
 
清水:そうですね。メキシコに行ったのが、ちょうど、会社を退職した時。ひとりで船旅をしまして、アメリカ・ロサンゼルスに到着して、14間の船旅です。一人旅の、貧乏旅行。メキシコまで、バスで1週間かけてメキシコに入りまして。自分はラテン音楽が好きで、「本場のラテン音楽が聞きたい!」ということで行って来ました。それが1ヶ月半くらいの旅でしたね。それで、帰ってきて「お店をやろう」ということに決まりまして。各国の珍しいコーヒーを集めて、サイフォンで淹れる…という営業方針で現在に至っております。
 
難波:海外旅行は、お店を開くにあたって活きてるということですね。
 
清水:そうですね。最近はけっこう、海外の方に来て頂くことも多くて。
 
難波:清水さん、英語喋れるんですか?
 
清水:片言の英語ですけどね。最近、多いのは台湾の方。それからシンガポールの方、ヨーロッパの方、メキシコの方とかは珍しいですね。「“のりトースト”が気になるので来ました」という方が多いです。
 
難波:外国の方は、あんまり、海苔を食べる文化があるかはわからないんですけど…
 
清水:そうですね。最近は日本食ブームで海苔を使うことがけっこうありますので、外国の方も馴染みがあって、皆さん抵抗なく注文されます。
 
難波:どういった反応をされるんですか?
 
清水:「日本人は黒い紙を食べてるんじゃないかという話を聞いたことがあったけど、これは美味しいですね」と言ってもらえます(笑)。パンにお醤油とバターと海苔という、非常にシンプルな食材でですね、手軽に食べてもらえるものを。神田はサラリーマンの街なので。コーヒーとセットでワンコインで11:30まで提供しようということで。
 
難波:コーヒーもおかわり自由ですもんね。
 
清水:最近は海外からのお客さんが多くて、土曜日はほとんど満席になる状況なんですね。
 
 
エース.jpg
神田・エース
 
難波:清水さんは、穏やかで商売上手なので、「のりトースト」の話を聞くと、そういうビジネス秘話みたいなのをきけるんじゃないかといつも思ってて。アイディアがすごいですよね、店内にあるメニューの文字とかも全部、ご自分で書かれているじゃないですか。
 
清水:そうですね。店内にあるマッチとか旗とかも自分で手作りしてまして。今まで旗は1,000個くらいいきましたかね。
 
難波:今日ここで「のりトースト」を頼んだ方には旗が付いてきますからね。マッチは2品以上、注文した方に抽選で当たりますから…
 
清水:今日、こんなに人が来るって知ってたら100個くらい用意してきたんだけどね(笑)。
 
難波:マスターの腕はコーヒーを淹れるためにあるので、そんなにマッチを作らせるわけにはいかないでしょう!(笑)
 
清水:お店に来た方には、旗でもマッチでも差し上げますんで、仰ってくださいね。
 
難波:500円のセットにそれをつけちゃったら元取れないんじゃないですか?
 
清水:私は儲けようと思ってやってませんから。喜んでもらって、楽しんでもらえて、思い出に残って、「また来たいな」と思ってもらえればいいなと、やっていますので。利益を重視したら、続けられないね!
 
難波:そういう考えに惹かれて、お客さんがどんどん来てくれるから、続けられるんですね。
 
清水:そうですね。
 
難波:清水さんも、マスター皆さん優しくて、いつも助かっています。それでは清水さん、後半もバンバン喋ってくださいね。ありがとうございました!
 
<イベントレポート後半へ続きます>
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