美しいパリの街を舞台に、悲しみから乗り越えようとする青年と少女の心の機微を優しく紡いだ『アマンダと僕』が、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか大ヒット上映中。
ミカエル・アース監督作の日本初公開を記念して『アマンダと僕』のトークショーを6/28(金)と7/1(月)に開催。6/28(金)にはフランスにゆかりの深いエッセイストの猫沢エミ、7/1(月)には朝日新聞の全面広告やパンフレットにも寄稿している「上を向いて歩こう」の坂本九の長女でありシンガーソングライターの大島花子が登場。それぞれの思い出などを交えながら、本作についてのトークイベントとなった。
猫沢エミ
日時 6月28日(金)21:30~21:50
上映会場 YEBISU GARDEN CINEMA(渋谷区恵比寿4-20-2 恵比寿ガーデンプレイス内)
”実在の”ダヴィッドとアマンダの存在とフランスの法律
本作は24歳のこれから自分の将来と向き合っていこうとしている青年・ダヴィッドが家族の死に直面し、残された姪・アマンダと共に、これからの人生を一緒に過ごしていこうとする過程が描かれている。猫沢さんは「静かな感動が残る。どうしてもフランス映画というと花の都、夢の街というイメージがあるけれど、この作品はそういう表層的な部分ではなく、人間味のあるパリという街のリアルが描かれていると思いました」と語る。
そして、本作のトークに登壇すると決めた直後からご自身のフランス人のパートナーに、本作の中で抱えるフランスの社会問題について細かく質問したという。「実は私のパートナーも、彼の姉が亡くなって、ダヴィッドと同じような境遇で、一時期、姪と甥を引き取り育てていました。この映画の中では、リヨン駅近くの素敵なアパートに住む、モードおばさんが登場しますよね。住んでいる場所から推測するに彼女はダヴィッドとは違って、今までの生活の中でもちゃんとした資産や蓄えのある人なんだと思います。そう思うと、どちらかと言えば彼女の方が後見人に適任かと思うのですが、年金受給者は、後見人の資格を剥奪されるんですね。なりたくても後見人にはなれない。だからアマンダにはダヴィッドしかいない。フランスでは18歳になるまでの子供が一人でいてはいけないという決まりもあります」アマンダが一人外でダヴィッドのお迎えを待つ冒頭のシーン、その後アマンダの母・サンドリーヌが異様な剣幕でダヴィッドを怒ったのには、あまつさえ片親であるのに、子供を一人にしたとなると、一緒に住むことも難しくなってしまう可能性があるという法的な理由もあったそうだ。
大人らしさ、子供らしさの押しつけがない
猫沢さんに特に気に入ったシーンについても伺った。「ロンドンに二人で行くシーンの中で、岸に打ちあがったクジラを見に行く場面、あそこでの二人の対話は本当に素晴らしかったと思う。アマンダがそれまでに抱えていた、所在ない気持ち、独りにされてしまうのではないかという恐怖がなくなった瞬間であり、ダヴィッドにとっては、アマンダを”姉の娘”ではなく、"自身の娘”として愛してゆこうと決めた瞬間でした。交わした言葉の中で18歳まで一緒にいられるという安心が、アマンダに将来のヴィジョンと希望を持たせたんだと思います」とお気に入りのシーンの中に見えた希望について話した。さらに本作が描くダヴィッドとアマンダという2人のキャラクターについて「ダヴィッドはとてもステレオタイプなフランス人、それに対してアマンダは7歳ですが「おじさんといたい!」などしっかり主張することが出来るんですね。子供をいつまで経っても子供として見るのではなく、大人と対等に向き合うことが出来る人物として描いている。私もそうですけど、大人って実際はいざ30歳すぎて、40歳すぎてみると、自分の思ってたような大人じゃないなって思うと思うんです。『アマンダと僕』は固定概念の大人らしさ、子供らしさの押しつけがない映画だと思うし、今のフランスの男性像、女性像も現れていると思います」猫沢さんの細かい解説付きトークに会場も頷きっぱなしの30分でした。
大島花子
日時 7月1日(月)21:00~21:20
上映会場 シネスイッチ銀座(中央区銀座4丁目4-5 旗ビル)
同じ痛みを分かち合い、寄り添ってくれる存在がいるということ
国民的歌謡曲『上を向いて歩こう』の坂本九さんの長女であり、自身もシンガーソングライターとして活躍する大島花子さん。映画の感想を問われると、「ある日突然、親を亡くすアマンダの辛い経験が自身と重なりましたが、ただそれだけではなくて、希望を感じる映画」と語った。続けて、「普通は悲劇をドラマチックに描きがちだと思うのですが、悲劇から日常に戻っていく過程がすごくリアルで、“あー!わかる!”と共感することがたくさんありました。例えば、ダヴィッドが亡くなった姉の歯ブラシを捨てようとしたことについてアマンダが怒るシーン。私も父の髪の毛がついたままのブラシをたまに見て、悲しいけれど、変わっていない日常をみて安心していました。感じ方は人それぞれだと思いますが、私はアマンダが怒った気持ちがよくわかりました」と自身の経験を語った。
事件が起きた翌朝、アマンダとダヴィッドがただただ街を散歩するシーンが印象に残ったという大島さん。「何もしないけど、ただ一緒に歩いてくれる人の存在に救われることがある。私も一人で歩いていたつもりで、きっと家族や友達の誰かが近くに寄り添ってくれていたんだろうなと思います」と語った。父・坂本九さんが事故で亡くなった当時、11歳だったという大島さん。「いったい何が起きたのかは子どもなりに理解していたのですが、なぜか何もわからないフリをしていました。これは後から知ったのですが、8歳の妹も同じくわからないフリをして、子どもらしさを演じていたそうです。現実を認めたくないという気持ちがあったのだと思います」と語った。
『上を向いて歩こう』の歌詞と『アマンダと僕』に重なるもの
坂本九さんが遺した、国民的歌謡曲『上を向いて歩こう』について、「リズム感もあるし、楽し気なメロディだけど、これが“究極に悲しいときの歌”だというのは、大人になってから気づいたんです。作詞した永六輔さんは、生前に“これは、誰かを励ます曲ではなく て、泣きたいけど涙をこらえる少年の表情を思い浮かべて描いんたんだ“と語ってくれました。少年でも大人でも、泣きたい気持ちをこらえて前に進んでいかなければならないことが、日々あるように」と語った。
この曲が今もなお愛され続ける理由について、「私自身、やりきれない想いで夜道を歩いていたときに、ふと自然と自分の口からこの歌がでてきたんです。大人になった一歩だなと思いました(笑)。私のライブで毎回歌うのですが、一緒に歌ってくれるお客さんたちがいて、いつもとても励まされています。震災後にこの曲を聞いてくれる人々もいたことも嬉しかった。人間が哀しみとともに歩く姿を描いた歌ですが、アマンダとダヴィッドの日常が進んでいく姿と重なりますよね。哀しみに終わりはないけれど、一緒に手をつないで歩いていく。彼らにはきっと素敵な未来が待っているだろうなと思いました」と語った。
Live Info.
映画『アマンダと僕』
シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA ほか絶賛上映中
監督・脚本:ミカエル・アース 共同脚本:モード・アムリーヌ 撮影監督:セバスチャン・ブシュマン 音楽:アントン・サンコ 出演:ヴァンサン・ラコスト、イゾール・ミュルトリエ、ステイシー・マーティン、オフェリア・コルブ、マリアンヌ・バスレー、ジョナタン・コーエン、グレタ・スカッキ 2018 年/フランス/107 分/ビスタ/原題:AMANDA 提供:ビターズ・エンド、朝日新聞社、ポニーキャニオン 配給:ビターズ・エンド © 2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA bitters.co.jp/amanda/