LOFT創設者・平野悠 本人が身を乗り出して“音楽を語る”このイベント。ROCK CAFE LOFTで開催している〈音楽航路〉シリーズ! 12月5日(水)に第3回を迎えました。
前回に続き、聞き手・DJは、LOFT現社長・加藤梅造。そして今回のゲストは、翻訳・音楽評論家の室矢憲治さん。2010年代も折り返し終盤に差しかかり、2020年もすぐそば。“愛の夏”=〈サマー・オブ・ラブ〉と呼ばれたあの頃は1967年。もう、すでに51年もの時間が過ぎ去っています。
が、今でもタイダイ・カラーを背中の向こうに、ぐるぐると渦巻かせてみせるのがムロケンさん。父親の仕事の関係でNYに在住。日本では、植草甚一さんや片岡義男さんと共に『ワンダーランド』(のちの『宝島』)を創刊した後、アメリカを放浪することになります。そして。飛び立った先での体験談が、どの話を取っても面白い……。ゆっくりと、チャーミングな話し方にも魅せられました。
室矢「今日は『Bohemian Rhapsody』じゃない、僕たちの“ボヘミアン・ラプソディ”をやりたいなと思って来ました。本当に旬の。このキラメキっていうのを、ボン、とひとつで伝えるのは大事。今日は僕の中のベスト・マイ・フェバリッツをみんなの前で聴かせたのでとても幸せでした。このトキメキが来年に向かって響き渡っていきますように。よろしくでーす!」
トークは当時のNYシーンを中心に広がります。ビートルズのアメリカ公演から始まり、リッキー・リー・ジョーンズ→バーズ→エリック・アンダーソン→ルー・リード→トーキング・ヘッズ→レナード・コーエン→...…。室矢さんによる12曲のセレクトとそれぞれの解説。ここでは、そのトークの一部を公開できることになりました。必読です!
ライトストーンでいっぱいの58's シェイスタジアム
室矢「一番、大きなことっていうのは。この新しい熱情の中でビートルズは、僕らは伝えたいことがあるよ、って話したこと。南部で黒人と白人の席が違うってなんでそんなことするの? おかしいじゃん、同じ人間じゃん。そう言ったのが、ラリー・ケインとラジオを伝って、流れていったんだけど。その瞬間に扉が開いて、人種差別の壁がビートルズによって飛んだ。それに、みんなどうして黒人音楽を聴かないの? もっと良い音楽があるじゃん! これが、アメリカの若者たちをターンオンしたんだっていうふうに思います」
室矢「58年にジャイアンツはサンフラシスコに行って、ロジャースはブルックリンに行って、ニューヨークの野球ファンたちにとっては、空白の場所になっちゃったんだけど。そこに、ニューヨークメッツができてホームスタジアムとなった、シェイスタジアム」
──ザ・ビートルズの映画『EIGHT DAYS A WEEK』よりシェイスタジアムの公演を再生。
室矢「そこでなんと、5万6千5百人集まったという画期的な出来事があって。それがビートルズの公演。ただ、PAシステムなんてもう、いい加減だから。音なんかみんなが、ぎゃーって言うと聞こえなくなるし。僕が覚えているのは、ポラロイドのフラッシュバルドをみんなが一斉にたいたから、ライトストーンみたいに見えて、盛り上がったこと。なんか、これは僕らの儀式なんだろうな、と思っていました」
室矢「これが1965年8月15日だったんですけど。僕はこの2週間後に、ニューポートフォークフェスティバルに行きました。フォークからロックに切り替えて、みんなからブーイングを浴びるようにして、ロックの流れを変えちゃったボブ・ディランのコンサート。夏のわずか2週間のうちに、ビートルズとボブディランの洗礼を受けて、青春変わってしまいました、みたいな感じ」
「How did you know?」(どうしておめぇ知ってんだよ?)
室矢「ニューヨークのフォークシーンでいうと、エリック・アンダーソン。歌詞に『ペチコートを落として僕のベットにおいでよ』っていうのがあって。でも、15歳の僕のボキャブラリーにはペチコートっていうのがなくて。ペチコートってなんだよ、って思っていました。そのあとにエリック・アンダーソンの歌に感動したレナード・コーエンが、『シュミーズを落として、デルタにキスして』っていう詞を書いて。日本では、中川五郎さんの『恋人よベッドのそばにおいで』とか。エリック・アンダーソンの歌詞は、そういうフォークの新しいエロチックな表現を含んでいて、シンガーソングライター・ブームに繋がっていく曲を作っていたんです」
室矢「で、僕は1965年にニューヨークのグリニッジビレッジで、エリック・アンダーソンが『トゥデイ・イズ・ザ・ハイウェイ』っていうアルバムを出すんで、それのお披露目コンサートに行きました。会場がなんかそわそわしていて落ち着かないな、と思っていたら。なんと、ビレッジから出ていった大スター、ボブ・ディランが、そこにいて。エリックも、先輩は僕をチェックしに来たのかな、みたいな感じでやりにくそうにしていました。後で会って話を聞いたら、『45分のセットを焦っちゃって、20分で演っちゃった』って言ってましたね。アメリカからやって来て、日本でもブームを作りました。『Blue River』って曲を聴いてください」
──Eric Andersen「Blue River」
室矢「そのエリック・アンダーソンのコンサートの時に、僕は初めて噂の人、ボブ・ディランを目撃したんだけど。トイレを出たら、ちょうどディランが入ってくるところ。手には大きな裸電球を持っていて。本で読んで、それが裸のランチ・ネイキッドランチだ、っていうことを聞いたことがあったから思わず『それはネイキッドランチ?』って聞いたら、ボブ・ディランが鼻を鳴らして『How did you know?』、どうしておめぇ知ってんだよ? みたいな話をしてて。でも、ちょっと怖い人だったから。それ以来、ディランとの付き合いは……」
会場「ハハハ(笑)」
室矢「その時に、ブロンド美女を二人、両側に抱えるように持っていて。そのあとに出たのが最初の2枚組アルバム『Blonde on Blonde』。もしかしたら、あの夜、『Blonde on Blonde』でいいことしたんじゃないかと、妄想が膨らんだのを覚えています(笑)」
ジャミング! マックス・カンザス・シティ
室矢「今日ここに来ている一人に僕は誘われて、マックス・カンザス・シティという、アンディ・ウォーホル一派が救っているニューヨーク堕落のメッカに行きました。そこに現れたのは、ビレッジの伝統で、第二のボブ・ディランと噂の高いフォークシンガーでした」
──Bruce Springsteen「New York City Serenade」
室矢「その時は7月の夜でした。そこにはスプリングスティーンがメインで出ていたんだけど。その下に、ウェイラーズ・ニューヨークシティ・ファーストパフォーマンスって出ていて。なんだこのウェイラーズっていうのは? って思っていたら、なんと! ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの最初のアメリカ公演、4日のうちの一晩でした! ちょうど、廊下で、けむ〜いアレをふかしながら、ギラギラした目でこっちを見ている人たちがいて。なんだかコワ〜イみたいなこと話していたら、スプリングスティーン・バンドの連中が『いいよいいよ。僕らのとこで吸ってればイイから』って言われて、話を聞き損ねました。あとで一生の不覚となりました。ガンつけたのはボブ・マーリーかピーター・トッシュかバニー・ウェイラーだったと思います」
会場「ハハハ(笑)」
室矢「えぇ、マックス・カンザス・シティというと。73年ぐらいっていうのは、ちょうどロック小屋・フィルモア・イーストをビル・グレアムが閉じちゃって。パンクたちが徐々に始まっていこうとしていた時でした」
室矢「73年には、デヴィッド・ボウイがラジオシティー・ミュージックホールに、ジギースターダストになって降臨しました。それから、アル・クーパーが蛇を使って怪しげなことをやっていました。宇宙人になる奴もいれば、サーカスになる奴もいれば、ヘロイン注射をステージの上で見せてくれる奴もいました」
室矢「そこに君臨していたのが、ウォーホル一派、この人です」
──Lou Reed「Walk on the Wild Side」
室矢「1977年。レゲエ・ブーム、そしてCBGBという、きったねぇ、マンハッタンの場末の小屋でパンクたちが産声をあげました。トーキング・ヘッズ、テレヴィジョン、パティ・スミス・グループ、ラモーンズ。いろんな連中が出てきて。キャンプという美学を書いたスーザン・ソンタグなんかも来て一緒に踊ったりしてました。『僕がゴッドファーザーだ』とルー・リードもウロウロしてました。その頃の話もまたゆっくりしたいですね」
イベント終了後。「アメリカにいる間に好きな女の子はいましたか?」なんて、拍子抜けな質問をする機会も貰えました。室矢さんは黙って、僕をじっと見てから「当時はみんな、いろいろとあってから、これが恋かも? って気づく感じ。フリーセックスの時代。そういう話もしたいなぁ」と、にっこりと笑顔。あの頃の晶文社界隈、ロック・ジャーナリズムの著書好きの自分としては、『宝島』の前身雑誌『ワンダーランド』に、ポール・ウィリアムス『アウトロー・ブルース』翻訳の話など……。聞きたい話はたくさん。是非、続けてイベントをやって頂きたいです!
次回の〈音楽航路〉も是非、お越しください。一緒に観にいきましょう。お待ちしています![text:指中晶夫(ネイキッドロフト)]
2018年12月5日(水)〈音楽航路 vol.3〉プレイリスト
1. Rickie Lee Jones『Subterranean Homesick Blues』
2. The Byrds『Mr. Tambourine Man』
3. Eric Andersen『Blue River』
4. Bruce Springsteen『New York City Serenade』
5. Lou Reed『Walk on the Wild Side』
6. Lou Reed『Sweet Jane』