ロフトプロジェクトがおくる新店舗「ROCK CAFE LOFT is your room」が3月20日に遂にオープンした。「ロックを喋る」をキーワードとしたこの新店は、アナログレコードを高性能スピーカーで聴きながら、その曲についてナビゲーターとお客さんが語り合うというスタイルの音楽空間を目指している。イメージとしては60年代〜70年代に若者達が集ったロック喫茶/ジャズ喫茶だが、ただ懐古的に音楽を聴くのではなく、ロックが持っているスピリットそのものをお客さんと一緒に共有していきたいと思っている。
かつてイーグルスは「スピリットは1969年以来切らしている」と歌ったが、本当にロックのスピリットは失われてしまったのか? この新しい音楽空間に是非一度訪れて確認して欲しい。今回はオープニングから約1週間の模様を簡単にレポートしてみたいと思う。
「あの時代、なぜロックが必要とされたのか?」(3/20)
ナビゲーター:PANTA(頭脳警察)
オープン初日のナビゲーターは頭脳警察のPANTA。頭脳警察、PANTA&HAL時代からロフトにはずっと出演しているPANTAのオープニングは、ロックの熱い時代を振りかえるのに相応しいものだろう。記念すべき最初の曲として選んだのは自身のアルバム『クリスタルナハト』から「終宴 THE END」。オープニングにこの曲をかける所がPANTA氏らしい(笑)。この日のために数十枚のアナログレコードを用意し、前半は自身の音楽に影響を与えた曲、後半は他のアーティストに提供した曲を聴くという構成で進行していった。
まずは十代の頃、頭脳警察結成前に相棒のトシの部屋で聴いていたというMC5(後のパンクロックに多大な影響を与えたバンド)のアルバム『Kick Out The Jams』を爆音で再生。当時はまだ政治的な意識は全くなかったというPANTA氏だが、1968年にシカゴの政治集会で収録されたというこのアルバムの「兄弟たち、俺は革命を見たいんだ」というMCを聴いて「この叫びは頭脳警察と同じだ!」と思ったそうだ。
続いてPANTA氏が選んだのはミュージカル『HAIR』のサウンドトラックアルバム。1967年にニューヨークで初演された『HAIR』は、ベトナム戦争が泥沼状態だった暗い時代にヒッピー達の交流を描いた作品だが、1969年には日本版が東横劇場で上演され、PANTA氏が生まれて初めてミュージカルを観たのがこの作品だった。「長髪(HAIR)というのは徴兵を拒否する、自由の象徴だった」というPANTA氏の解説の後、「I GOT LIFE」「HAIR」などがプレイされた。
そして時代は1970年、いよいよ頭脳警察が始動する。当時、友人から薦められて読んだ本の中にあった上野勝輝の「世界革命戦争宣言」に衝撃を受け、頭脳警察のライブでこのテキストをアジテーションしながら演奏した曲がファーストアルバム『頭脳警察1』の冒頭に収められ、すぐに発売禁止になったのはあまりにも有名な話だ。PANTA氏は「自分は『君たちにベトナムの仲間を好き勝手に殺す権利があるのなら、我々にも君たちを好き勝手に殺す権利がある』という宣言を、イデオロギーではなくヒューマニズムとして受け取っていた」と語り、この曲をターンテーブルに乗せた。アルバムは30年後にようやくCDで再発されたのだが、当事者や熱いファンと一緒にこの曲を大音量で聴く体験は、ライブとはまた違った感動があった。
イベント後半では、頭脳警察の「まるでランボー」とその原曲(ブリジット・フォンテーヌ)とを聴き比べたり、PANTA氏が提供した「白いヨット」(杏里)、「BE COOL」(ビートたけし)などをレコードで聴いたりしながら、最後は内田裕也版「コミック雑誌なんかいらない」をかけて客席も一緒に合唱してイベントは盛況の内に終わった。なお、この日のお客さんの数が69人(ロック)だったのは偶然のいたずらだったと言えるだろう。(梅)
「徹底比較二人の天才、加藤和彦と大瀧詠一」(3/21)
ナビゲーター:牧村憲一
オープン2日目は音楽プロデューサーの牧村憲一がナビゲーターを務めた。牧村氏は、シュガー・ベイブ、大貫妙子、加藤和彦、フリッパーズ・ギターなど数多くのプロデュースを手がけてきた人物だが、ロフトとも深い縁があり、デビュー前の竹内まりやが参加したアルバム『ロフト・セッションズ』をプロデュースしている。
3月21日は偶然にも加藤和彦の誕生日(1947年)と大滝詠一『ア・ロング・バケイション』の発売日(1981年)ということで、この二人の作品を聴き比べるという牧村氏ならではのユニークなテーマでこの日のイベントが開催された。大滝詠一の曲をサイダーのCMに起用した経緯や、幻に終わった加藤和彦のザ・フォーク・クルセダーズ再結成の秘話など、非常に興味深い話に来場者も大満足の一夜となった。(梅)
「『エッジィな男 ムッシュかまやつ』を聴く」(3/22)
ナビゲーター:サエキけんぞう
そして3日目はミュージシャンのサエキけんぞう。サエキ氏は23年前、ロフトプラスワンができた当初より「サエキけんぞうのコアトーク」という音楽トークイベントを開催してきたが、サエキ氏の「情報量が膨大になった音楽を語る必要性を感じてコアトークを始めた」という言葉が、今回平野がこのロックカフェを作るきっかけになっている。
この日は、亡くなってほぼ1周年となるムッシュかまやつ(かまやつひろし)をスパイダース時代から振りかえるというまさにコアな内容だった。途中、ムッシュの御子息であるTAROかまやつ氏や長年にわたってムッシュのバックでベースをプレイした石井ジロー氏も飛び入りし、ムッシュかまやつ氏の温かい人柄を感じることができるトークも聞けたのは、来た人だけの特典だったと言えよう。(梅)
「こんな曲を撮りながら生きてきた。」(3/23)
ナビゲーター:菊池茂夫(写真家)
1980年後半から90年頭にかけてのバンドブームど真ん中で活動していた身としては当時の新宿LOFTの最低で最高な空気感と深夜パブタイムのぐちゃぐちゃ感を知っている人を中心にナビゲーターのブッキングをしていて、その第一弾にお願いしたのが写真家の菊池茂夫。
テーマは「こんな曲を撮りながら生きてきた」で、菊池氏が写真家としての歴史に沿った選曲はKENZIやCOBRAなどLOFTと所縁のあるバンドから柳ジョージまで。途中「増子くんの許可を貰った」と言う説明の後に流れたのは怒髪天のデモ曲バージョン! こういう音源は本当にこの場所にいないと聴けないものだ。「まだまだかけたい曲がある」ということなので、第二弾も是非お願いします!(SHON)
「アナログ爆音で聴くエンケン〜遠藤賢司研究会(エンケンケン)」(3/24)
ナビゲーター:湯浅学、サミー前田
この日は、湯浅学とサミー前田の両氏が、昨年10月に惜しまれながら他界した遠藤賢司の膨大な歴史を、デビューシングル「ほんとだよ」(1969年)から順番に辿るというクロニクル的な内容で行われた。残された音源の中から最も音のいいレコード盤(同じレコードでもプレス時期によって音質に差がある)で再生するという湯浅氏ならではの選曲で、時に未公開映像なども挟みながら、なんと6時間以上にわたってエンケンの音源を聴きまくった。フォーク的なイメージから徐々にロック的色彩を帯び、テクノやニューウェーヴを経て、やがて純音楽という地平に至るエンケンの大宇宙の一端を体験できる濃厚な夜となった。(梅)
「RCサクセション19thシングル『NAUGHTY BOY』リリース30周年記念!〜やんちゃ坊主と遊ぶ夜〜」(3/25)
ナビゲーター:今井智子 ゲスト:アサミカヨコ DJ:小野島大
ロフトプラスワンで「居酒屋ロック」という音楽トークイベントをシリーズ開催している音楽評論家の今井智子さんは、ある意味最も新店舗のコンセプトに合う方だと思い、最初にオファーを出した。すると今井氏から「3月25日はちょうど30年前にRCサクセションの『NAUGHTY BOY』が発売された日だから」ということで、今回の素晴らしいイベントが決定した。「NAUGHTY BOY」とはやんちゃ坊主という意味で、これは清志郎が海外でのレコーディング中にたまたまそう呼ばれたのを気に入って付けたタイトルだそうだ。
このシングルの発売後、RCサクセションは反戦・反核をテーマにした『カバーズ』の歌詞の内容がレコード会社の親会社(東芝)から問題視されて、アルバムが発売中止になるのだが、こうした社会を巻き込むような大事件もやんちゃ坊主の清志郎ならではの出来事だったと思う。そんな時期にリリースされた名曲「NAUGHTY BOY」を当時のシングル盤で聴くというのは、個人的にも非常に感慨深い体験となった。(梅)