とても豊かなチームでした
――これだけ多くのドラマが起きる作品ですが、撮影時に印象に残っていることはありますか。
前原:クライマックスは不思議な空気の中で撮ったというのもあって印象的です。
――不思議な空気というのは。
前原:時間的にもそうですし、エネルギー的な面でも何度も出来ないシーンだなと感じました。大事なシーンだという意識をチーム全体で持ってくれていたので、僕らはそれに甘える形で一球入魂で臨むことが出来ました。
――今作のチームはどんなチームでしたか。
前原:面白いチームでした。普段は映画を作っていらっしゃらない方もこの映画を作りたいという思いで入ってくれていて、一見するとアンバランスなチームに見えるかもしれません。もちろん映画をたくさんやってこられたベテランの方もいて、映画以外からこられた方も凄く必死にやっていてベテランの方はそれに応えるように指導している、とても豊かなチームでした。
――拓也の環境に似ていますね。
前原:渡邉監督が拓也なのでそういうチームになったのかもしれません。おかげさまで明るい現場でした。ずっと楽しいだけではなく、シーンごとの空気の共有はちゃんとしてくださって本当にありがたかったです。
――拓也は脚本家でもあり、本作のテーマからも言葉の大切さ・難しさを感じました。前原さんご自身が普段言葉に対して意識されている事、気を付けている事はありますか。
前原:ライターさんを前に言うことではないんですが、僕は言葉をそこまで信頼していないんです。もちろん言葉のことを軽んじているわけではありません。言葉は凄く難しいなと思っていて、その時の熱を100%伝えることは不可能に近いと思っています。だからこそ映画やドラマを何回も観たくなるんだと思います。「ありがとうございます。」という言葉でもその時の気持ちの熱を伝えるのは凄く難しいじゃないですか。そうかと思えば、使う言語が違う海外の方に気持ちが伝わることもある。なので、思っていることを素直に表現することの方が大事だと思っています。そのうえで言葉に思いが乗っていたら素敵ですね。僕は言ってはいけないことを言ってしまうところがあるので、正確には自分が出す言葉を信用し過ぎないようにしようと思っているということですね。
――拓也に声をかけるとしたらどんなことを言いますか。
前原:渦中に居る時は聞いても頭で理解が出来ないという状況だと思うので、すぐには何も言わないです。経験しないとわからないこともあるので、そのことに気づけたんだろうなと分かったときに「頑張ろう、これから。」と声をかけると思います。
――ここまで深く脚本から一緒に作り上げた作品だとなかなか客観的にというのは難しいと思いますが、映画ファンとして観たときにどんな作品でしたか。
前原:ありきたりな日常はこの作品の中にある気がしています。この中で起こったことは誰しもがなりえることで、多くの人が感じたことのある感情が描かれていると思いました。
――そうですね。
前原:そして、好き嫌いが分かれる作品だなとも思いました。ですが、いい映画は賛否が別れるものだと思っています。この映画はそういった心に何かが残る作品になっていると思います。
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