実話を基にした痛切な青春姿を描いた『ありきたりな言葉じゃなくて』。誰しもが思い当たるその行為・言葉、観客自身の過去も見つめ直すきっかけになる作品になっている。日常と地続きになっている物語はどのように紡がれていったのか主演を務めた前原滉に本作への思いを聞いた。
[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)
僕の意見を真摯に受け止めてくださった
――『ありきたりな言葉じゃなくて』出演のお声がけが来た際のお気持ちを伺えますか。
前原滉:実は一度お断りしているんです。
――それは何故ですか。
前原:作品の内容と言うより、当時の僕の状態的に主演を受ける覚悟みたいなものが持てなくて、主演というものを背負いきれないと思ったんです。主演でも演じるという面では同じですが作品の背負い方・覚悟の決め方は違うものがあると思ったんです。100%すべてが整っていない状況で受けるというのが相手に失礼なんじゃないかと思い、一度お断りしました。
――その心境から主演を受けることにしたのは何故ですか。
前原:その後も誘ってくださって、その想いに背中を押していただきお受けすることにしました。「脚本も一緒に作り上げていきたい。」と言っていただいたのも大きかったですね。話の大元から関わるというチャレンジを役者がすることはなかなかないので、そこまで考えてくださるのかとありがたかったです。
――脚本にも携わられたんですね。
前原:僕の意見を真摯に受け止めてくださったので、とてもありがたかったです。
――意見・希望はどのような部分に反映されましたか。
前原:膨大な時間をかけて話し合ったので、どこが変わったかはいまでは分からなくなっています。ラストは特にこだわって、途中からは小西桜子さんも入ってくださって3人で話し合いました。もちろん栗田智也さんが書かれた原案と実体験が基にはなっていますが、映画にするうえで設定など変わっています。実は栗田さんはあまり藤田拓也に似てなくて、渡邉崇監督の方が似ているんです。
――そうなんですね。
前原:栗田さんの書いたものに渡邉監督の手が入って、そこに前原滉という「やいやい」いう人が入ってきた形ですね。実話を基にしている作品なので栗田さんにも起きたことの心情などを伺いながら進めていきました。クライマックスのシーンをどうするかという相談にものっていただけて、凄く良い距離感で居てくださいました。
共演者のみなさんが整えてくださった
――藤田拓也というキャラクターについてはどういう印象を持たれましたか。
前原:僕と似ている部分が多くあるなと思いました。誰しも持っている特別になりたいという気持ちと自分が普通なんだと分かっていることに気づきながらも素直に受け入れられない気持ちはとてもわかります。なので、僕は彼のことが嫌いになれないんです。拓也というキャラクターは好き嫌いが強烈に分かれていて、試写を見た方で拓也に対して怒っている方も居ました。そういった賛否が分かれる部分は面白いなと思っています。
――作中でも支えてくれる方も居るので、魅力を感じる方もいるんでしょうね。私もどこか嫌いになれないです。りえという女性に対してはどんな印象を持たれましたか。
前原:分からない部分が多いですね。ですが一歩引いて、前原滉として見ると共感できる部分もあります。演じられた小西さんはとても大変だろうなと思いながらそばで見ていました。何を足掛かりにしていいか、行動の真意を繋げるのは大変だったと思います。
――今作は周りの人との関係性も見どころだなと思っています。現場ではどのような空気感でしたか。
前原:とても居心地のいい現場でした。母親役の山下容莉枝さんとか父親役の酒向芳さんは無理をしなくても親子になれる空気感を出してくださいました。内田慈さんも役柄と同じく先輩で居てくれて安心感がありました。素晴らしい役者のみなさんがそういう空気にしてくださっていたのでありがたかったです。現場は共演者のみなさんが整えてくださったので、甘えますという感じでした。
――小西さんとお芝居にあたって相談されことはありましたか。
前原:お芝居をこうしようという話はあまりしていなくて、渡邉監督を交えてそれぞれのキャラについて話すことが多くかったです。小西さんの中にりえというキャラクターがしっかりとあったので、りえの目線で見たもの感じたものをしっかりと考えながら言葉を紡いでくださいました。
――共演をされて小西さんにはどういった印象を持たれましたか。
前原:小西さんは一見フワっとしているけど芯がしっかりとあるかたです。普段はそこが見えないというミステリアスさも魅力で、そうかと思えば抜けている部分もあり、面白い女優さんだなという印象です。
――個性的な俳優・女優も多い作品ですが現場はいかがでしたか。
前原:ワークショップのチームは特に個性的でした。あそこだけ空気が違いました。いい意味で穏やかで、みなさん面白い方たちでした。
――あそこが変に浮いていないの凄いですね。現場はどんな雰囲気でしたか。
前原:個性派のみなさんがぶっこんでくるシーンでした。僕も元々はそっち側の俳優なので、アドリブで差し込みたくなる気持ちも分かります。現場ではみなさんのそういう部分に助けられた部分もありますが、笑っちゃうからやめて欲しいなと言うこともあったり。でもとても楽しい現場でした。そういったみなさんのおかげでシリアスなシーンを撮っている時でも楽しい空気が流れていました。
――拓也は分かりやすく天国から地獄に落とされる状況で、感情の振れ幅もとても大きいです。作中の気持ちを作られていったのですか。
前原:発散的にやったのかというとそういうことはなく、幸せなシーンとの落差で気持ちを作ったような気がします。日常だったものを失っていくという危機感、日常でなくなっていくことに対することへの不安を意識しながら演じました。そうやって気持ちを作っていけたのはプロデューサー役の池田良さんとか伊東京子先輩役の内田さんほか、みなさんが補完してくれている部分が大きいと思います。
――最後まで観ているのでわかります。みんないい人なんですよね。そこが逆にリアルだなと感じました。
前原:本当にいい人ばかりなんです。そういった部分は登場人物に対して愛情がある渡邉監督らしいなと思います。京子先輩みたいな人はなかなか居ないですよね。普通は見放してしまうと思います。
――この複雑な物語を良くこの時間でまとめきれたなとも思います。
前原:最初は長かったみたいです。長さを調整することが大変だったという話を聞きいています。