精力的なライブ活動で、普遍的なロックンロールをかき鳴らすthe myeahns(マヤーンズ)。バンドのボーカリストであり、楽曲の作詞作曲を手掛けているのが逸見亮太だ。
11月27日には待望のニューシングル『ワイルドワン』をDECKRECからリリースし、1年ぶりとなる東名阪ツアーも開催中。今回は、新境地を迎えたthe myeahnsの音楽について語ってもらった。(Interview:池守りぜね)
音楽のきっかけは父の部屋で観た映画
──このたびは新曲リリース、the myeahnsにとってイベントが目白押しですが、音楽活動のきっかけは何でしたか?
逸見:ぼくが中学の頃なんですけど父ちゃんが大林宣彦監督作品好きで、『青春デンデケデケデケ』(1992年公開)を一週間くらい毎晩観ていたんですよ。あるとき、近所に住んでいた従弟が家に遊びに来たことがあって、そのときも暗い部屋から劇中歌の『パイプライン』(ザ・ベンチャーズ)が聞こえてきた。それに触発されたのか、従弟がギターを始めたんです。
──お父さんの映画がきっかけで、先に従弟のほうが音楽に目覚めたのですね。
逸見:当時はまだ中学生で携帯電話を持っている子が少なくて、ずっと親に「携帯が欲しい」って言っていた。そうしたら父ちゃんから「従弟はギターを弾くのが上手くなっているぞ。『パイプライン』が弾けるようになったら携帯を買ってやる」って言われたんです。そこから、頑張ってギターの練習をしました。『ダイアモンド・ヘッド』とかベンチャーズの曲を練習しました。その後、従弟と友達とでベンチャーズのコピーバンドをやりましたね。
──最初はボーカルではなくて、ギターだったのですね。
逸見:最初は誰も歌ったりしなかったです。そこからしばらくは、音楽から離れてしまってギターも弾かなくなった。でも姉ちゃんとカラオケに行ったときに、姉ちゃんがTHE BLUE HEARTSの『リンダリンダ』を歌ったんですよ。あの曲は、「ドブネズミみたいに~」って歌い出すじゃないですか。その一文で「なんだ、この曲は!」って衝撃を受けた。しかもサビが「リンダリンダ~」っていう歌詞になる。ヒロトさんの歌詞に感銘を受けて、「どうしてこの歌詞になるのだろう」って、歌詞の研究をしました。そうしたら、なんだかわからないけれど、わかった気がしたんですよ。泥臭さの美しさみたいなことが。
──言葉ではなくて、まさにロックンロールですよね。
逸見:そこからTHE BLUE HEARTSも聴くようになって、コピーバンドもやりました。メンバーは、ベンチャーズのコピーをやっていた仲間とまた集まってやりました。THE BLUE HEARTSの歌をコピーするようになってからは、ギターではなくハンドマイクで歌っていました。
──バンド活動はずっとされていたのですか?
逸見:従弟がドラムを始めたので、高校生くらいでまたバンドを組んだりしました。文化祭で友達にライブを観てもらったりしていました。それも活動していたのは高校の期間だけですね。バンド活動ができそうって思って、大学に進学したんです。自由な時間がいっぱいあるんだろうなって思って、学校終ったら家にすぐ帰って曲作りをしていました。でも音楽サークルには入っていなかったですね。
──大学時代のメンバーは、the myeahnsに残っていますか?
逸見:いないですね。まだ音楽をやっているメンバーはいるんですけれど。でも大学時代に対バンしていた仲間が、茂木くん(茂木左・ドラム)だったり、Quatch(かっち・キーボード)だったりしますけど。
──そこからthe myeahnsの前身となるテクマクマヤーンズが結成されるのですね。
逸見:そうですね。前のバンドが終わって新しくバンドを組もうと思ってメンバーを集めたのがテクマクです。テクマク時代から数えると10年以上経ちます。このメンバーがいるからぼくも曲を書き続けたいし、ずっとやっていこうって思いました。
バンドのメンバーチェンジを経て生まれ変わったthe myeahns
──結成時からのメンバーだった斎藤さん(齊藤雄介)は、今年5月、下北沢BASEMENTBARにて行なわれたワンマンライブ『THIS WILL BE OUR YEAR』をもってバンドを脱退されました。ここから現在のギターである世良さん(世良ジーノ)が加入されるまでのいきさつを教えてください。
逸見:最初は正式メンバーという形ではなくて、一旦サポートでやってみてという感じでした。とりあえず一回、音を合わせてみて「世良くんは良いギタリストだな」って感じていました。だんだんライブを重ねるにつれて、世良くんも楽しそうに見えた。世良くんは滋賀県在住だったけれど、上京できるのが9月くらいになりそうだった。そのタイミングで正式にメンバーとしてギターをやってくれないかっていうふうには伝えていました。正式メンバーとしてやってほしかったので。
──ロックバンドにとってギターは重要なポジションだと思うのですが、世良さんの音はどうでしたか?
逸見:彼のギターには、なにも心配はなかったんですよ。彼はCOWCITY CLUB BAND(2023年11月解散)というバンドをやっていたので、どういうプレイスタイルなのかなんとなくわかっていた。きっとthe myeahnsの音に合うだろうなって思ってて。メンバーと話したときも、「世良くんだったらやって欲しいね」という意見で一致していた。バンド的には、ウェルカムな感じでした。
──11月27日にニューシングル『ワイルドワン』がリリースされました。メンバーチェンジなどがありながらも、ツアーや新曲リリースをされた理由はありますか?
逸見:メンバーの脱退とは関係なく、11月に新曲をリリースしてツアーを回るというスケジュールが最初に決まっていて、やっぱり止まりたくなかった。ずっと動き続けなきゃって思ってました。
──『ワイルドワン』はトータル2分15秒で駆け抜けていく疾走感あふれるナンバーですね。「心からぼくらが笑える日まで」や「涙はいまはもういらない」という歌詞からも、再スタートを感じさせる内容ですよね。
逸見:確かに、『ワイルドワン』に関しては世良くんが入ったことで、新しいthe myeahnsのテーマソングを作るつもりで書きました。リリース自体は3月の時点で決めていたけれど、そのときにはまだ『ワイルドワン』は出来上がっていなかった。7月にDECKRECレーベルの25周年イベントがあって、出させてもらったんです。でも出演アーティストの中で、DECKRECからリリースをしていなかったのがthe myeahnsくらいだったんです。ライブ後、数日してからDECKRECからシングルをリリースしないかという話をネモトさんから頂いて。DECKRECのバンドを聴きあさっていたから、それまで用意していたストック曲ではなく『ワイルドワン』に差し替えたんです。
──ライブを意識した曲作りだったりしましたか?
逸見:ライブの盛り上がりはあまり気にしていなかったけれど、一番気持ちよく歌えるし解放できる曲ですね。
──世良さん加入後、ライブで変わったところはありますか?
逸見:あまり変わったことはないですね。もちろん使っているギターやアンプが違うので、音は変わっていると思うんですけど。世良くんは軽やかさの中に激しさも情熱もある気がします。でも音作りに関しては、世良くんに任せています。世良くんが出したい音で、the myeahnsにハマればいいなって思います。
ライブが一番やりたいことを解き放てる場所
──11月29日から東名阪3カ所でのツアーが始まっています。それぞれ対バンを迎えてのライブですが、ブッキングも自分たちでされているのですか?
逸見:自分たちが一緒にライブをやりたいと思っているバンドを誘っています。全部対バンしたことがあるバンド。自分たちが主催のツアーが1年ぶりだったりするので、久しぶりに会える人もいると思うし、今のthe myeahnsを見てもらえれば嬉しいです。
──ちなみに、逸見さんはライブ後やリリース時にはエゴサーチはされたりしますか?
逸見:見たり見なかったりですね。なんだかSNS見ていると、疲れちゃうときもあるので。でもやっぱり覗きに行ったり。
──メンバーがチェックしているって思うと、ファンの方も感想をSNSにポストされると思いますよ。
逸見:ライブ後の感想は見ていますね。みんな見てるよー、感想書いてねー(笑)。
──12月8日に日比谷公園大音楽堂で行なわれる「新宿ロフト歌舞伎町移転25周年記念特別興行『新宿ロフト野音フェアウェルパーティ〜さよなら、ありがとう野音』」の、ハーフタイムに出演されますよね。野音という大舞台でのライブへの意気込みはどうですか?
逸見:野音はずっと憧れだったので楽しみですね。演奏時間は短いですが、あの場所で歌えるんだって思うと嬉しいです。メンバーの茂木くん(茂木左・ドラム)が、ピーズや渋谷すばるさんのライブで叩いていたのを観ていたので、すごく羨ましかったです。
──今はサブスクリプションや動画配信などいろいろな表現手段がある中で、the myeahnsはずっとライブを行なっているじゃないですか。あえて地道なやり方を選んでいるのはどうしてですか。
逸見:ライブをやるのが好きなんですよね。お客さんが楽しそうにしている顔を見るのも好きだし。コロナ禍のときもthe myeahnsはライブをやっているほうでしたね。みんなでどうしたら良いのか考えながら、配信ライブをやっていた。いつも気持ちが止まらないように、常に動くようにしている。
──アルバムやシングルをリリースしてツアーに回るってある意味、バンドの原点じゃないですか。ずっとそのロックンロールを止めないやり方を貫いているのはすごいことですよね。
逸見:ぼくらはこの方法しか知らないっていうのがあると思う。逆にライブがないと不安になってしまう。自分がやりたいことができる場所にそれを見に来てくれるお客さんがいて、楽しいに決まってるじゃないですか。多分、ライブが一番やりたいことを解き放てる場所だと思う。バンドは大変なこともあるのかもしれないけれど、楽しいが絶対に勝つ。だからやめたくはないですね。