今春、無期限の活動休止(彼らなりの表現では"活動禁止")となった亜無亜危異のボーカル、仲野茂が新生・仲野茂バンドを昨年から始動させ、そのお披露目盤となる『仲野茂バンド 粋』を12月22日に行なわれるライブから発売する。46年のキャリアを誇る日本のロック界きっての唄い手が不完全復活を果たした亜無亜危異を再び封印したのはなぜか。新たな茂バンドの編成を綺羅星の如き名だたるバンドマンで固めたのはなぜか。30年前にバブル崩壊で迷走する日本の行方を憂いた茂バンドの楽曲を現代に蘇生させる意図は何なのか。そして、頭脳警察のPANTAが亡くなる直前に茂のために提供した歌詞とはどんなものなのか。十代の頃から憧れていたPANTAからロック屋の本懐を継承した稀代のボーカリストがその心中を激白する。(Interview:椎名宗之)
いつまでもガキでいるのはかったるい
──まず、活動がすこぶる順調に見えていた亜無亜危異が今年の3月に“活動禁止”となったのはなぜだったのでしょう?
茂:事務所の問題がきっかけだけど、理由はいろいろあった。入場無料でやった『価格破壊GIG』(2022年8月28日、東京キネマ倶楽部)あたりでつまずいたと俺は思ってるんだけどさ。まあ正直、亜無亜危異をやり続けることに疲れてきたのはあったと思う。最初は久しぶりの再結成で動員も多かったけど、亜無亜危異が存在し続けるのが当たり前になって動員が減ってきたのも大きい。それに今の亜無亜危異のポジションがどこか中途半端な感じもあったし、(藤沼)伸一が作る作為的な歌を唄うには人が良すぎるっていうか(笑)。でも結局、そういう作為的なものって長続きしないんだよ。
──とはいえ『パンクロックの奴隷』(2018年9月5日発表)も『パンク修理』(2020年5月27日発表)も現代にアップデートしたバンドの最新形を捉えた充実作だったし、このまま続いていくものとばかり思っていたのですが。
茂:もう歳なんだよ、ぶっちゃけ。求められる亜無亜危異とのズレ感っていうかさ、バンドやってるのは64なのにターゲットは20代っていう40年の開きはいくら何でも無理がある(笑)。
──茂さんが歌詞を書かなくなったことは遠因としてありましたか。
茂:それは今に始まったことじゃないから(笑)。まああれだよ、18の頃から始めたバンドを同じように延々とやるのは大変なんだよ。KISSですら一度メイクを取ってるのにさ(笑)。あと、亜無亜危異とTHE ROCK BANDのツーマン(2022年12月18日、代官山UNIT)みたいなのもやり口として良くなかったのかもしれない。やっぱり年齢的にはROCK BANDのほうが歌の世界観は合ってるんだよ。亜無亜危異をやる時に変わらずガキでいなきゃいけないみたいなのもかったるいし、単純に飽きちゃったっていうのが一番わかりいいかな。年に一度ガキを演じるっていうのなら面白かったのかもしれない。
──亜無亜危異の活動禁止が決まって、じゃあ次は仲野茂バンドを本格的にやろうという流れに?
茂:そうだね。作為的な今の亜無亜危異よりちょっとメロウな感じもある茂バンドの歌、歌ものっぽい感じを俺自身また唄いたかった。そういう布石はLTD EXHAUSTⅡの時もあってさ。茂バンドで曲を書いてた野島健太郎が3年前に亡くなって、別れ方があまり良くなかったんだけどショックでね。それで改めて茂バンドの曲を自分で聴いてみて、野島の追悼を兼ねて「ニュアンサー」とかをLTDでやってみようと思ったんだよ。一度チャレンジしてみたんだけど、LTDに茂バンドの歌はなぜか合わなかった。そのモヤモヤがずっとあった。
▲左から、竹内理恵(Sax, Fl)、仲野茂(Vo)、下山淳(Gt)、梶浦雅弘(Dr)、岡本雅彦(Ba)
──新生・仲野茂バンドは茂さんを筆頭に、下山淳さん(ギター|ex.ザ・ルースターズ)、岡本雅彦さん(ベース|ex.アンジー)、梶浦雅弘さん(ドラム|ex.ザ・モッズ)、竹内理恵さん(サックス|頭脳警察)という鉄壁の布陣が揃いました。その経緯を聞かせてください。
茂:梶浦から『ベーシックロックフェス』(2018年7月7日・8日、The Voodoo Lounge)に誘われた時にやった“天神亜無亜危異”が母体になってる。それに梶浦と岡本ちゃんが参加しててさ。最初はギターを汽笛と犬の湯田(剛章)やCaptain Hookの(清野)セイジにやってもらってたんだけど、転がる時はうまく転がるものでね。岡本ちゃんとROCK'N'ROLL GYPSIESのクアトロのワンマンを行く約束をしてたのよ。でも俺は痛風になって行けなかったんだけど(笑)、GYPSIESのライブを観た岡本ちゃんが電話をくれて「下山さん、酒をやめたみたいで、今のギター凄くいいですよ」なんて言うわけ。
──ただ、茂さんと下山さんはアコギなSSで一悶着ありましたよね。
茂:そうそう。改装したてのLOFT HEAVENでな(2018年7月17日)。
──酒を飲んでいた下山さんの演奏があまりにぐだぐだで、激昂した茂さんが楽屋のドアを勢い任せに蹴り破ったという(笑)。
茂:あの時はLOFTの従業員の心の叫びが聞こえたよ。「真新しいドアを蹴るくらいなら下山さんを殴ってください!」って(笑)。