まだまだいい歌を唄い続けていきたい
──新生・茂バンドとしては、新曲よりもまずセルフカバー音源を年末に発表する予定と聞きました。昨年7月からのバンドの地固めが順調に進んでいるのが今日の話からも窺えます。
茂:徐々にバンドらしいまとまりが出てきたね。だからちょっと困ってる。どうおちゃらければいいのか? ってところで。
──ガス抜きする場面が欲しいと?
茂:ライブはもちろん面白いし、これだけの面子が集まれば自ずとちゃんとしてくるわけよ。でも俺の今のターゲットはSEKAI NO OWARIだから、本番前にラジオ体操をやるくらいのことをしたいわけ(笑)。ロックバンドが二枚目を気取ってどうすんの? って感じだし、下山にラジオ体操をやらせたほうが面白いに決まってるじゃん(笑)。
──だけど今の茂バンドでは茂さん自らメンバーの衣装をコーディネートしているそうですし、それくらい真剣に取り組んでいるバンドなんですよね。
茂:うん。だからこそ売りたいんだよ。ちゃんと売れるようにチャレンジしたいし、いま売れてる若いバンドの客にもアピールしたい。あのさ、シブいってダサいのよ、凄く。年寄りが集まってやることだから長続きしないかもしれないけど、せっかくやるならでかい花火をぶち上げてやりたいわけ。“元××××”だけどぶち上がってやる! みたいなさ。
──たとえば8cm CDとして発表された『大東亜のいびき』は「戦前としての今」が1994年当時のテーマでした。“新しい戦前”と言われる今の時代に「自制の王国」など当時の茂バンドの歌が奇妙にもリンクしてくるし、今回のセルフカバー音源に収録される「日本」「右向け右」「遠くで火事をみている」「プライド」といった楽曲がどれも全く色褪せていないことが驚異なんです。頭脳警察のように、時代との呼応を余儀なくされるのが仲野茂バンドの宿命なのかなと感じたりもして。
茂:梶浦が茂バンドの歌詞をいいと褒めてくれたのは嬉しかった。今は茂バンドのレパートリーを気持ち良く唄えてるし、古びてない感じはあるね。その感じも出したいし、俺が表現したいのはやっぱり昭和なんだよね。前時代を懐古するのがいいわけじゃないけど、昭和のDNAは平成生まれでも持ってるものだし、相通ずるところがあると思う。それと俺らより下の世代もそうだけど、「おっさん頑張れよ!」みたいな思いもある。「あの頃は良かった」じゃなく、今の日本が失ってしまった昭和感をたまには思い出してもいいんじゃねぇか? っていうかさ。これは俺の勝手な感想だけど、今の日本に世界中からこれだけ観光客が来るのは日本の昭和感がやっと世界に伝わったからだと思うんだ。
──戦後の高度経済成長期からバブル崩壊までに見られた文化や情景、意匠といったものが。
茂:京都みたいな古都ならではの情緒溢れる佇まいとかさ。あるいは、戦争とか悲惨な出来事もたくさんあったけどみんなで団結してどうにか乗り越えていこうとする気概っていうか。そういう貧しかったけど心は豊かだった昭和の日本が俺たちのDNAにはあるんじゃないかと思う。
──昭和のDNAはカバーにも見て取れますよね。今の茂バンドでは頭脳警察の「ふざけんじゃねえよ」などもカバーしていますが。
茂:いやあ、PANTAの歌は難しいよ。この前、『原田芳雄を唄う』ってイベントに原田喧太と出たんだけど、他人の歌は難しい。松田優作が作詞した「川向こうのラスト・デイ」って歌が原田芳雄のレパートリーにあるんだけど、優作がどんな思いでこの歌詞を書いたんだろう? と歌の背景を考えたら悩んじゃって、歳を食うってこういうことなのかなと思ってさ。歌なんてただ吐き出しゃいいと思ってたけど、この歳になって今さら歌で悩み出した(笑)。なんかさ、クソみたいな欲が出てきちゃったんだね。歌の上手い下手じゃなく、ちゃんと唄いたいっていう欲が。
──SDRによるじゃがたらの「タンゴ」は出色のカバーでしたが、あの時は歌の背景なんて考えなかったのでは?
茂:いや、あれはちゃんと考えたよ。(江戸)アケミと大江(慎也)の全盛時の歌はカラッカラに渇いてワードを飛ばしてて、ビチャビチャに湿った俺は到底勝てない。だから濡れに濡れてどう飛ばすかを常に意識してた。今さらなんだけどさ、俺って意外に歌が好きなんだよ。この歳になって藤圭子とか演歌のこぶしの凄さがわかってきたし、歌が好きだからこそちゃんと唄うことに悩むようになった。
──PANTAさんから託された宿題もあるし、当面はまだ楽隠居している場合じゃなさそうですね。
茂:仮に6篇の詞を元にしていろいろ実験的なことをやってみても、PANTAなら怒らずに喜んでくれる気がしてる。託された責任もあるけど、これは俺たちの宝物だからね。だからこそヒットさせたいんだよ。還暦を過ぎてもこれだけいろんなバンドをやってるとは思わなかったけど、いまだに各方面からライブに呼ばれるのは喜ばしいことだし、今は唄うのが純粋に楽しい。PANTAの歌でも茂バンドの歌でも、まだまだいい歌を唄い続けていきたいよ。