PANTAが茂に託した6篇の歌詞
──こうして役者が揃い踏みした新生・仲野茂バンドは2023年7月に始動。同年12月10日にはPANTAさんの地元である所沢MOJOで初ワンマンも行ない、現在までコンスタントにライブ活動を展開していますが、SDRやLTD EXHAUSTのようにあえてバンド名は命名しないのですか。
茂:下山が入った時点でバンド名を考えようという計画があったんだよ。ファンクラブを作って公募してみるか? とか考えたりして。だけどバンド名って考えるのが大変じゃない? 歳を食うと余計大変。で、茂バンドのマネジメントをやってもらうことになった、頭脳警察のマネージャーの田原(章雄)に「バンド名はどうしたらいいですかね?」と訊いたら「仲野茂バンドでいいんじゃないですか?」って言われて。もう今さらナントカファイヤーズって歳でもねぇだろ、ってことで(笑)。
──かれこれ10年以上続いているLTD EXHAUSTIIとはどういった棲み分けをしているんですか。
茂:LTDは最初、バッタもんの亜無亜危異だった。そのうち本家の亜無亜危異が動き出したもんだから「俺たちはどうする?」ってことになって、そこでよーかいがめっちゃ動いた。あいつが頑張って曲を作るようになって、それが凄くLTDらしいんだよね。だから今のLTDはほぼほぼよーかいのバンドになってる。今やアルバム(『天然記念物』、2024年1月発表)まで出しちゃって面白い。茂バンドはLTDと比べて俺のパーソナルな部分を出せるバンドだね。
──新生・茂バンド始動にあたり、『遠くで火事をみていた』(1993年11月発表)、『大東亜のいびき』(1994年6月発表)、『窮鼠』(1995年5月発表)の三作をメンバーに聴き込んでもらったんですよね。
茂:うん。その三作から選んでライブで唄ってる。あとはルースターズの「Fool For You」やアンジーの「天井裏から愛を込めて」とかをカバーしてる。それとPANTAが遺してくれた歌詞があるから、それを骨組みにして新曲も作る。
──PANTAさんが生前、茂さんのために書き残した歌詞が存在することは田原さんから伺っていたのですが、その話を詳しく聞かせてください。そもそも茂さんがPANTAさんに歌詞を依頼したということですか。
茂:いや、歌詞というよりもアルバムを一緒に作りたかった。プロデュースっていうよりは共同制作者みたいな感じで参加してほしくて、それでPANTAに曲を書いてくれないかと頼んだわけ。
田原:時系列で話すと、2023年6月4日にPANTAさんと茂さんが双方のマネジメント同席で食事をしたんです。その時に茂さんから自分の新しいアルバムを作りたいからPANTAさんに曲を頼めないかな? という話が出て、PANTAさんが快諾したんです。その後、さっき話に出たYouTubeラジオの収録があって、その場でPANTAさん所有のGPAのヘルメットを茂さんに形見で渡したのが6月6日。その8日後の6月14日にPANTAさんの最期のライブとなった『夕刊フジ・ロック 5th Anniversary “Thanks”』が行なわれて、それを経た6月23日に「これを茂に渡してくれ」とPANTAさんから託されたのが6篇の詞だったんです。
──PANTAさんが旅立つ2週間前ですね。
茂:俺はPANTAの書くメロディが好きだったからできれば曲も作ってほしかったし、身体が元気だったらレコーディングにも参加してほしかった。そこは残念だったけど、6篇も歌詞を書いてくれたわけだから。
──それらの歌詞は茂さんを当て書きしたものなんですよね?
茂:当て書きもあるし、茂がこんな感じの歌を唄ったらいいんじゃない? って思いで書かれた詞もあった。
──そもそもPANTAさんと柴山俊之さんに出演してもらうために『THE COVER』という企画を1987年5月から新宿LOFTで始めた茂さんにしてみれば、中学生の頃から憧れていたボーカリストに歌詞を6篇も提供してもらえるとは大事件ですよね。
茂:まさにね。この歳になって改めて感じるけど、PANTAと柴山さんは俺にとって別格なんだよ。だから『THE COVER』も最初はROCK BANDがバックバンドをやるからPANTAと柴山さんに頭脳警察とサンハウスを唄ってくださいとお願いした企画だったんだけど、「今はやりたくない」ってきっぱりと断られて(笑)。でも打ち合わせの席でPANTAと柴山さんがそれぞれ十代の頃に好きだったシャンソンやブルースの話で盛り上がって、そういう曲をカバーする趣旨になったことで『THE COVER』が広がりを見せたのは面白かった。渋公でやれるようになって(忌野)清志郎やムッシュ(かまやつひろし)、ジョニー・サンダースが出てくれたりしてさ。
──『THE COVER』が頭脳警察とサンハウスの楽曲を蘇生させるだけのイベントだったら、20年以上続く一大企画にはならなかったでしょうね。
茂:だろうね。ボーカリストとして憧れるのはダントツで柴山さんなんだけど、ミュージシャンとして最高に憧れるのはやっぱりPANTAなんだよね。柴山さんのフロントマンとしての資質はずば抜けてるからライブのパフォーマンスが凄い上に存在そのものが圧倒的なんだけど、PANTAはいち音楽家としてリスペクトしかない。