演奏の間違いをあえて直さない良さもある
──タイトルトラックの「ヒットパレード」だけソングデータが見つからず、AI音声分離ソフトを使って2トラックの音源からドラム、ギター、ベース、ボーカル(コーラス)を分離させたものを今回使ったそうですね。
マモル:そうなんだよ。いくら探しても「ヒットパレード」のデータが出てこないので、それだけEQして使おうかと思ったんだけど、ダメ元でAI音声分離ソフトを使ってみた。試しにデータを突っ込んでみたら、ドラム、ギター、ベース、ボーカルの4つに分かれたんだよね。苦肉の策でやってみたら上手くいった。
──そうした文明の利器は使いようなんでしょうけど、できすぎなのはちょっと怖くないですか。
マモル:まあ、普段使いはしないよね。だけど凄くキレイに抜けるもんなんだよ。不思議なんだけどさ。ボーカルだって2つ選べるんだよ。リバーブのあるのとないのと。
──マモルさんは一貫してオーセンティックなロックンロールを体現しつつも宅録を導入するのが早かったし、実験性に富むものへの関心が高いんでしょうね。頑固な一方で面白いものを受け入れる柔軟さがある。
マモル:でもAIに関しては苦肉の策だよ。何台ものハードディスクを何時間探しても出てこなかったんだから、たぶんデータを移行する時に間違って捨てちゃったんだろうね。僕の場合、そういう管理ミスがよくあるんだよ。
──今回、ボーナストラックとして収録された「オンボロ列車」のように発掘された音源もありますね。
マモル:「オンボロ列車」はなんで収録しなかったのかな? ドラムもちゃんと入ってて、途中まで録ってあったということは入れようとはしていたんだろうね。
──元の『ヒットパレード』を持っている人も、その「オンボロ列車」と「天才きどり~アコースティック・バージョン~」という未発表音源を聴ける楽しみがありますね。
マモル:「オンボロ列車」はもともとロフトレコードから出した『想像しよう』(1997年10月発表)に入れた曲。「天才きどり」は未発表曲で、デモ音源を『8月4日B級劇場』の7インチのB面に入れた。『ヒットパレード・デラックス』に入れたのは、トラックからアコギだけ使ってハーモニカを適当に入れたバージョン。
──『ヒットパレード・デラックス』に先行して『8月4日B級劇場』の7インチシングルレコードをタイトル通り8月4日にリリースして、『命の次にロックンロール』以降、アナログ盤の発売が続きますね。
マモル:ここ数年、“7インチレコード出したい病”みたいでね。やっぱりレコードが好きなんだよ。テスト盤を確認するのも楽しい。
──「天才きどり」のバージョン違いを7インチとCDに振り分けたのはマモルさんならではのサービス精神なんでしょうね。
マモル:CDに「天才きどり」のアコースティック・バージョンを入れたのは、MAGIC TONE RECORDSのA&Rの川戸(良徳)君が「いつか弾き語りのレコードを作ってください」なんて言うものだから、ちょっとその予行練習として(笑)。全部アコースティックだけのアルバムっていうのも面白いだろうね。歌とギター、ハーモニカだけで全曲を構成して、全部一発録りで。CDに入れた「天才きどり」はハーモニカが一発録りで、ちょっと間違えてるんだけどまあいいやってそのままにした。直そうかなと思ったけど、そういうもんじゃないなと思い直してね。いい加減ってことじゃなく、いいんだよこういうことで、っていうかさ。
──若い頃ならそういう細かい部分が気になったものだけど、年齢を重ねて大事なのはそういうことじゃないだろうと。
マモル:聴いてる人はそんなことどうでもいいだろうし、自分も気持ちよく聴いてるうちに「これでいいんじゃない?」みたいな。そもそもハーモニカなんて吹き直したところでどうなの? って楽器だし、やり直さない良さってあるんだよね。今の技術ならいくらでもやり直せるけど、あえてそうしない良さもある。
──われわれロフトのスタッフとしては、「冗談だろ」「死んだ奴の事は誰も悪くは言わないさ」「誤解」という下北沢シェルターのライブ音源がボーナストラックとして収録されていることに感謝なのですが、どれもお世辞抜きで素晴らしいテイクですね。
マモル:そうなんだよ。どれも凄くいい。自分でもびっくりした。
──調べたら、1997年10月28日にシェルターで行なわれた『想像しよう』のレコ発ワンマンでした。
マモル:そうそう。当時はDATを持ってたんで、それで定期的にライブを録ってもらってた。そこにリバーブやコンプをちょっと入れて保管してたんだよね。そういう保存の仕方もあって音のバランスもいいんだけど、このライブ音源は何より演奏が凄い。
──そうなんですよね。『想像しよう』の頃のDAViESが凄まじいスキルを兼ね備えていたバンドだということが如実に伝わる演奏で。
マモル:ベースが岩島(篤)君、ギターが小島(史郎)君という、1996年から98年にかけての初期の面子だね。こんな凄い人たちと一緒にバンドをやってたんだなって思ったよ。いま聴くと、「死んだ奴の事は誰も悪くは言わないさ」だけ鍵盤が入ってるかな?