できるだけいい音をいい形で残しておくのが一番の願望
──この『想像しよう』のレコ発のことは覚えていますか。
マモル:よく覚えないけど、家にあるDATを聴き返して一番良かったのは今回入れたライブ音源だったんだよね。音のバランスとか演奏が一番良かった。本当はもうちょっと入れたかったんだけど、CDの容量的に時間切れで。だけどこの3曲だけでも演奏はいいし、歌も面白いね。「死んだ奴の事は誰も悪くは言わないさ」なんて特に面白い。
──3曲とも今のマモルさんならまず書かないであろう、ちょっと内向的な歌詞ですよね。
マモル:うん。でも今の自分が聴いても面白い。岩島君のコーラスもいい。「誤解」はグレイトリッチーズの曲なんだよ(1990年4月発表の2ndアルバム『LIFE!』に収録)。それをちょっとブルース・テイストを強めたバージョンとして当時はやってた。これは貴重なライブテイクだと思う。グレリチの時よりも自分のやりたかったようなバージョンに仕上がってる。やっぱりベースとギターが特別に上手だったんで、こういう曲ができたんだよね。
──そうしたシェルターでのライブ音源、『想像しよう』や『R&R HERO』(1998年11月発表)といった初期のDAViESの楽曲を聴き直してどんなことを感じますか。今ならあんな歌詞は書けないのか、あるいは書かないのか。
マモル:書けないってことはないだろうけど、時代背景もあるよね。パソコンも今ほど普及してなかったし、スマホもまだなかった頃だから。
──確かに。インターネットが今ほど普及していたら「想像しよう」のような楽曲は生まれなかったでしょうし。
マモル:そうだね。でも今や還暦を過ぎた自分でも30代半ばだった頃の曲を面白いというか個性的だなと感じるし、興味を持ってくれたら『想像しよう』を中古盤で探して聴いてみてほしい(笑)。
──2年後の2027年10月28日に同じくシェルターで『想像しよう』リリース30周年記念全曲再現ライブをやったら面白いんじゃないかと思うのですが。
マモル:最近はシェルターでやってないからね。『リーブリロー追悼ライブ』も最後にやったのは荻窪のトップビートクラブだし。またブリローをやるならレッドクロスでやってくれと言われそうだしね。
──時代背景の変遷はありつつも、『ヒットパレード』に収録されていた30年近く前の楽曲群が『ヒットパレード・デラックス』に収録されてもなお不滅のナンバーとして聴き継がれるのは普遍的な何かを内包しているからこそですよね。
マモル:そうなのかな。まあ、「死んだ奴の事は誰も悪くは言わないさ」くらい曲も歌詞も捻くれた個性的な歌があってもいいのかもね。自分でも面白いと思うしさ。
──2年前に発表した『PRIVATE TAPES 1995-1998』然り、今のマモルさんは自身の原点を回顧しながら次の着地点を目指すモードなのかなとも思うのですが。
マモル:自然な流れなんだと思う。グレリチが解散して以降、DAViESを結成してから今日に至る自分を俯瞰できたのはたまたまそういう流れだったんじゃないかな。カセット音源を出した頃はいっぱいいっぱいだったし、『想像しよう』や『R&R HERO』の時もいっぱいいっぱいなのは変わらなかった。サウンドの作り方も歌詞も悪戦苦闘してさ。
──ロフトレコードからリリースした二作は、まだデジタル録音ではなかったんですか。
マモル:『想像しよう』の時はADAT(エーダット)っていう、ビデオテープに8トラックのデジタル録音を可能にしたMTRを使った。『R&R HERO』は当時ロフトレコードにいた畠山(亮)君に無理を言って、新宿御苑にあったスタジオでアナログで録ったね。オープンリールで録るテープは凄く高いから、元アンジーの岡本(雅彦)君のスタジオで中古のテープを安く手に入れた。岡本君のところで1本=1,000円だかにしてくれるっていうんで買い占めて。1本につき10分くらいしか録れないんだけど。
──『R&R HERO』をアナログで録ったのは『想像しよう』の音がいまいちと感じたからですか。
マモル:いや、ただ単にアナログで録りたかっただけ。
──レコーディングにお金をかけられるなら、今でもアナログのテープレコーダーで録りたいですか。
マモル:そりゃもちろん録りたいよ。リズムトラックをオープンで録って、それをプロツールスに突っ込んでミックス作業だけデジタルでやれば効率としては一番いいんだろうね。やっぱり録音自体はアナログでやりたいってミュージシャンならみんな思うんじゃないかな。場所とお金と時間さえあれば僕も絶対にやってみたい。だけどテープを回して止めるのは自分じゃできないからね(笑)。
──グレイトリッチーズの結成から40年以上創作活動を続けるマモルさんからすると、レコーディングの手法は手軽で効率的になったもののダイナミズムに欠けるという側面もあるのでは?
マモル:宅録は便利だし、現実的にはこれしかないので、この手法をより極めていくしかないよね。僕の場合は新曲を発表するのが仕事…というより趣味に近い。これはもうライブだけじゃダメなんだよ。新曲を発表し続けないとなんか生きてる感じがしない。新曲を作ってライブをやるのがセットなんだね。それはソロになってカセットテープを作り始めた頃から思ってて、やっぱり音を残したいんだよ。自分がいつか死んでも音は残るわけだから。だからできるだけいい音をいい形で残しておきたい。それが自分にとって一番の願望かな。