「空に」の中尾の歌詞に対する高田の妥協なきこだわり
── 一曲ずつ聞かせてください。中尾さんの作詞、高田さんの作曲による「空に」は曲先だったんですか。
高田:曲先です。
──歌詞は天国の南野さんへ捧げたものですよね。
中尾:はい。その前にあった別の曲も南野さんに向けた歌詞だったんですけど、それは自分の中で今一つしっくりこなくて。歌詞がちょっとわかりづらいと言うか、格好つけすぎたと言うか。それを経て書いた「空に」は自分なりに落とし前を付けられたかなと思っています。
──「空に」はだいぶストレートに南野さんに対する思いをぶつけているように感じますが。
中尾:これはね、言わせてくださいよ。今回は初めての経験をいろいろして、高田さんからのシゴキも受けたんですよ(笑)。
高田:いやいやいや(笑)。
中尾:僕は歌詞を書く上で、メロディに対する字数の一文字一文字をあまり意識してこなかったんです。高田さんはこの「空に」に関してはその部分をかなりこだわっていたんですよ。
高田:ああ、確かに。
中尾:「そこは一文字多い」とか。
──吉田拓郎的な字余りを認めなかったと。
高田:曲によっては字余りでもいいんですけど、「空に」に限ってはちょっと違うかなと思って。
中尾:その前に、高田さんは曲だけで8曲作ってきたんですよ。その中でこの「空に」は思い入れが別格にあったと思うんですけど。
──「空に」は悠然かつ雄大なメロディが特徴で、従来の4-STiCKSのイメージを覆す曲調ですよね。そこは意図的に?
高田:大らかな感じと言うか、自分の感情を素直に出せるようなメロディがいいなと思ったんです。あと、あまりややこしいコードは使わないようにしようと。ストレートにA→B→Eみたいな。
──「空に」が今の4-STiCKSを端的に象徴する楽曲であるがゆえに1曲目に選んだんですか。いわゆるリード・チューン的な位置付けと言うか。
高田:曲順の話をみんなでしたときに、柳沼さんは「ハレルヤベイベ」で始まるのがいいんじゃないかと話していたんです。でも中尾君は「一発目は『空に』がいいんじゃないですか?」ということで。
──中尾さんは、南野さんへ捧げる歌詞を付けるなら「空に」のメロディが良いと感じて選んだんですか。
中尾:いや、そういうわけでもないです。次はこの曲に歌詞を書いてみないか? と柳沼さんと高田さんから提案を受けて、書き進めるうちに「なるほど、これは高田さんが思い入れのあるメロディなんだな」と感じて。でもさっきも言った通り字余りや字足らずを指摘されて、この部分は7文字、ここは8文字みたいに言葉数を決めて歌詞を考えたんです。そういう今までやったことのないことに取り組むと、シンプルな言葉にならざるを得ないんです。縛られれば縛られるほど自分の本心が顕になって、偽らざる気持ちが出てくるんだなと。それは初めての経験で面白かったですね。
高田:「空に」が自分でも思い入れのある曲だったのは確かだし、字数が違うと聴こえ方が変わるんです。ちょっと神経質になっていた時期でもあるんですけど。
──「空に」はお世辞抜きで素晴らしい歌詞だし、「面白いこと なんかやろうや」という部分はいかにも南野さんが言いそうな言葉なので、中尾さんが南野さんと面識がなかったのが尚のこと意外なんですよね。
高田:会ったことはあるんだっけ?
中尾:ないんですよ。ただ記憶にないだけなのかもしれないけど。だけど柳沼さんと高田さんから南野さんの武勇伝や「魂の人だった」とかいろんな話をよく聞いているので、今やすっかりよく会っていた気でいます(笑)。それに、親友だったペテカンの本田誠人が3年前に亡くなって、僕の中で南野さんのイメージが誠人とちょっと重なる部分もあるんです。そんな思いで「空に」の歌詞を書きました。
──高田さんの今の曲作りは、変わらず「信吾ならこれをどう唄うだろう?」と考えながら作ることが多いですか。
高田:そうですね。南野が唄う曲を作る経験しかなかったので。「空に」は中尾君に当てるつもりで作ってはいないかな。もっと前からあった曲なので。
中尾:ああ、そうなんですか。南野さんがいた頃からあった曲?
高田:いや、柳沼さんが唄える曲があったらいいなと思って書いたんだけど、柳沼さんに聴かせたらピンとこなかった曲(笑)。
──中尾さんが唄うべく、曲のほうが唄い手を待っていたのかもしれませんね。
中尾:4-STiCKSの曲の中でもIn the Soupに通じる部分がある曲ですよね。
──In the Soupで言うと「青春とは」を想起させるところもありますし。
中尾:確かに。壮大な感じがあるし、僕の歌もハマってると思います。