各自の持つ楽器こそが最大の武器
──「コードネーム:SlimGenie」はここ最近のライブで1曲目を飾ることが多いですが、終盤に曲調が二転三転する構成となっています。ああいうユニークな楽曲はリハーサルで試行錯誤の末に生まれるものなんですか。
レイコ:「〜SlimGenie」は完全に秀樹君の頭の中で組み上げられたものですね。
ERY:私たちが軸になってセッションみたいな感じで作ることはほとんどなくて、「〜SlimGenie」も秀樹さんがデモの段階であそこまで作り込んであったんです。
──秀樹さんの持ち寄った曲に宙也さんが詞を付けて、それにERYさんとレイコさんが肉付けしていくのがファロキの基本構造?
秀樹:それが基本の流れです。ただ、ERYとレイコさんによるプラスαの素材が凄くあるし、それを補強するとどうなるのかという楽しみが常にあるんです。みんな引き出しが多いし、こちらの意図してなかった違うアプローチの解釈をしてくれることが面白い結果に繋がることがよくあるので。まさにバンドマジックと言うか。
宙也:もう5年も一緒にやっているからね。ERYとレイコが演奏するのをかなり想定していると言うか、細かいフレーズまで入れたデモを秀樹が作ってくるんだよ。「ゲシュタルト崩壊」のスネアとか、見事にハマったなあと感じるものも多い。
──“SlimGenie”とは察するに、全世界を股にかけるアンドロイドのスパイみたいな存在なのでしょうか。
宙也:そう捉えてもらってもいいし、どう解釈してもらっても構わない。
──「愛のプロレタリア」の主人公と相通ずるものがありますよね。
ERY:そうですね。「ボクは元スパイ 国際的なプレイボーイ」という台詞もありましたし。
宙也:結成当時に秀樹と申し合わせをしたわけではないんだけど、昭和のハードボイルド・スパイ活劇みたいなものをバンドのコンセプトの一つにするのが面白いんじゃないかと思って。「〜SlimGenie」に関して言うと、サイコビリーという楽曲的な切り口にスパイ活劇みたいな言葉を掛け合わせたら面白くなるかもしれないと考えた。クランプスみたいなサイコビリーはゴシックやエログロと相性がいいし、スパイ物の世界観と親和性が高いんだよね。
──軽快な旋律が特徴の「デウスエクスマキナ」は本作のリード・チューンを担うべく作れたものですか。
秀樹:アルバムのキラー・チューンが欲しかったのと、この手のメロディラインはあまり作ってなかったなと思って。あと、ERYのコーラスを活かす曲を増やしたかった。今回はそういう男性と女性の絡みをポイントの一つに置きたくて、「デウスエクスマキナ」はその狙いが凄くハマったなと自分でも感じています。
──「〜SlimGenie」のハミングに始まり、今回はERYさんのコーラスが全編にわたって重要なポイントになっていますね。「極東ファロスキッカーのテーマ」のカウントもそうですか?
ERY:あれはレイコさんです。最初はサンプリング音声が使われていたんですけど、レイコさんが生でカウントしたほうが良くない? って話になって最後に急遽録ったんですよ。
──レイコさんの声は他にもあるんですか。
レイコ:あのカウントだけです。
ERY:歌メロのコーラスは全部私です。もともとコーラスとして入っていた部分もありましたけど、レコーディングしていくうちに「ここも唄いたい」とどんどん足していっちゃって。
秀樹:歌のお姉さんとして大活躍してもらいました(笑)。
──「デウスエクスマキナ」はわがFlowers LoftでMVの撮影までしていただきまして。しかもARBのキースさんが半裸で新宿LOFTのフロアを駆け回る謎のシーンまで挿入されていますが(笑)、老若男女が薔薇を抱えて疾走する演出が終始施されていますよね。
宙也:あの演出もストーリーも全部、諸沢さんによるもの。それから互いにアイディアを出し合って、いろんな世代の多種多様な人たちが出てきて、中にはノンバイナリージェンダーもいることにした。諸沢さんの最初のコンテには本物の戦場の画も描いてあったんだけど、歌に出てくる戦場とは都会なんじゃないかという意見を秀樹が出して、都会の雑踏に佇む4人を描くことになった。各自の持つ楽器こそが最大の武器であるという意味を込めて。
──ガザの空爆を想起させる歌詞もあるし、2024年という現在を象徴する意味でも「デウスエクスマキナ」は本作の中で特別な位置に値する楽曲ですね。
レイコ:「デウスエクスマキナ」ができるまで、段階的に何曲かできてきてライブでもやっていたんですけど、フルアルバムを作ろうとするタイミングではメインとなる曲が今一つないよねという話だったんです。それからほんの数カ月で「デウスエクスマキナ」も含めた推しとなるような曲が秀樹君から送られてきて、キタ! と思いました。
秀樹:ERYは「ろくでなしピエロ」が一推しだったけどね(笑)。