宙也(vo:アレルギー、LOOPUS、ex-De-LAX)、榊原秀樹(gt:VERUTEUX、Let's Go MAKOTOØ'S、HIDEKI & HARD PUCHERS、ex-De-LAX)、ERY(ba:KiLLKiLLS、Raglaia)、ムカイレイコ(ds:スリルラウンジ)という腕利き揃いが結集したファロキこと極東ファロスキッカー。新型コロナウイルスの世界的感染拡大の影響で思うようにライブ活動が展開できない状況が依然続いているが、アクシデントを逆手に取って創作活動に打ち込み、短期間のうちに良質な作品を世に放ち続けている。最新作『LOVE FROM FAR EAST』に収録された精鋭の5曲を聴けば、楽曲のクオリティが如実に上がっていること、バンドの表現力と一体感が一段と増していることが窺え、今のファロキがいかに良い状態を保っているかが分かるだろう。メンバー各自が熟練のバンドマンであるにもかかわらず、積み上げてきた歴史やスキルや評価などまるでお構いなしに今一緒に鳴らしたい音を鳴らす、やりたいことを一心不乱にやる姿がただひたすら純粋で爽快で瑞々しい。9月某日、都内近郊でのライブに向けたリハーサルを終えた直後のメンバー4人に話を聞いた。(interview:椎名宗之)
作品のクオリティはどんどん上がっている
──2019年7月の初ライブ以降、2020年春に初音源『PHALLUS KICKER』、2021年12月にDVD『PHALLUS KICKER_DVD 2021』、そして今年は2nd EP『LOVE FROM FAR EAST』と、年に一作リリースを順調に続けているのはバンドがすこぶる好調な証なのでは?
秀樹:このバンドが楽しいからなのはもちろんなんですけど、コロナの影響もありますね。策を練りつつライブをブッキングしていくのがままならないのなら、創作活動に活路を見いだして前へ転がしていくしかないかなと。バンドは本来、ライブをやりながら作品づくりをしていくものだけど、なかなかコロナが収束しないので。ただ、作品のクオリティがどんどん上がっていくのが自分では面白いなと思って。
──ファロキ以外にもVERUTEUXやHIDEKI & HARD PUCHERS、Let's Go MAKOTOØ'Sを並行して続けている秀樹さんの止まらぬ創作意欲が凄いですね。
秀樹:いや、アイディアのないところを泣きながら振り絞ってますよ(笑)。
ERY:でも、ライブごとに必ず新曲が出来上がってますからね。
秀樹:新曲作りを自分に課しているわけじゃないけど、ライブを告知するにも何かしらのトピックがあったほうがいいじゃないですか。
──打てば響くで、秀樹さんが作ってきた曲に宙也さんが歌詞を入れるペースが早いからこそライブのたびに新曲を披露できるわけですよね?
秀樹:そうなんですよ。宙也さんとはDe-LAXの頃から30年以上の付き合いになるけど、今は思うように会えない時期だからなのか、共作するのが凄く新鮮なんです。
宙也:秀樹の創作意欲が凄いのは、「今のうちにどんどん詞を書いてもらわないと、この人(宙也のこと)そのうち死んじゃうんじゃないか?」と思ってるからだと思うよ(笑)。
──春先に入院もされましたしね。今はお元気そうですけど。
秀樹:そう、宙也さんが入院したことでファロキのリリースが遅れたんですよ(笑)。だから決して順調に続けてこれたわけじゃないんです。ファーストもコロナ禍になってすぐレコーディングしたけど、コロナがこの先どうなるか分からないから様子見でリリースしたし。今もずっと模索しながら続けている感じですね。
──メンバー各自のSNSやYouTubeのコメント動画を見る限り、4人がとても楽しくバンドをやっているのが伝わってくるし、それが原動力なのかなと感じるのですが。
ERY:この前、ファロキの結成当初のライブ映像がYouTubeにアップされたんですけど、もう3年も経ったんだなと思って。今もずっとフレッシュな気持ちでやれてますね。それは思うようにライブをやれていないからかもしれないけど。
レイコ:3年も経った気がしないし、まだ始めたばかりの気でいるし、まだまだ必死です(笑)。
──ファロキは全般的にBPM高め、テンポの早い曲が多いですしね。
宙也:俺らの年齢にしては早い曲が多いかもね(笑)。
レイコ:テンポは中途半端に早いのが多いんです(笑)。もっと早いともっとラクなんですよ。BPMが170くらいの8ビートが多いので、ある意味ハードなんです。「Dead Road」とかあの辺の曲は最初しんどかったですね。でもしっかり刻みたいし、抜いてごまかしはしたくないので。
ERY:私が他でやってるバンドはBPMがもっと早いんです。220、230とかが多いので。それに比べてファロキは落ち着いて弾くイメージですね。攻めの姿勢はもちろんあるけど、ワーッと勢いだけで行くと言うよりは情緒みたいなものがファロキにはあると思っていて、そういうプレイを意識していますね。
3人が気に入るようなボーカリストでありたい
──皆さんそれぞれファロキとは別のバンドを続けていますが、ファロキと他のバンドとの一番の相違点はどんなところですか。
レイコ:私は全然違いますね。新曲もファロキの場合は秀樹さんから送られてきたデモを聴いて、スタジオで一度合わせただけでライブでやってみたりとか。それが凄く面白い。それに比べて、スリルラウンジはスタジオでジャムって曲作りをしていくんです。誰かが弾き始めて「それいいね」と音をどんどん被せていって、形になってきたら歌詞を載せるやり方なので全然違う。
秀樹:それが一番理想的な曲作りのあるべき姿だよね。
レイコ:ファロキは秀樹さんのデモという土台があった上で私とERYが「こんな感じかな?」と色付けをして、それに宙也さんが歌詞を載せるんですけど、歌詞の世界観と曲のキャチーさが上手くハマるんですよね。その2人の連携プレイはさすがだと思うし、おそらく秀樹さんにはあらかじめ曲の完成図が見えているんだろうし、私やERYのプレイはこう来るだろうという読みもあると思うので、新曲のリハは凄く緊張するんです。でもその緊張を含めて曲作りは面白い。
ERY:音楽業界全体の中では私はもう若手じゃないですけど、このバンドにいると一番の若造、まだまだヒヨッコという立ち位置なので(笑)、ライブでもちょっと尖った部分ややんちゃさを私が担うのかなとは思っていますね。
Photo by Yoan Clochon
──宙也さんはどうですか。アレルギーやDe-LAX、LOOPUSと比べて歌の艶やかさがファロキでは格段に増している印象を受けますけど。
宙也:男性度と女性度のバランスみたいなものは全然計算していないけど、そういうのはサウンドによって出てくるものだし、自分としては音に身を任せているだけだからね。ただ、バンドが違えば曲作りも歌詞の作風も自ずと変わるよね。本来はバンドごとに分けたくないし、公私も分けられるものじゃないと思っているし、流れに身を任せていたらこうなったという自然な形が理想なんだけど、そのバンドのメンバーがボーカリストをどう思っているのか、どう唄って欲しいのかに左右されるところはある。同じバンドのメンバーには俺のファンでいて欲しいし、そういうバンドは絶対に格好いい。だからこの3人が気に入るようなボーカリストでありたい、みんなに納得してもらえるような歌詞を作りたいと常に意識してる。あと、男女平等という意識はもちろんありつつ、男のほうが立場は上だという昭和的価値観が拭えないときがたまにあるけど、世代や性別の違うメンバーと一緒にもの作りをするとその辺りを気に留めなくちゃいけないことも出てくるし、還暦を過ぎたあともそうした経験ができるのは良かったと思う。
──秀樹さんという理解者の存在も大きいですよね。さっきレイコさんが話していたように、宙也さんの魅力を熟知している秀樹さんが宙也さんを当て書きした曲だからこそ、他のバンドにはない良さが如実に表れている気がします。
秀樹:アレルギーやLOOPUSとは違う宙也さんの側面と言うか、もっと格好良く面白く魅せる方法論を自分なりにいつも考えるし、宙也さんに寄り添うことが大事なんだろうと思いますね。他のバンドとの一番の相違点を言えば、ボーカリストによって在り方が全然違います。VERUTEUXはほったらかしでいいんですよ。こっちがどんなボールを投げてもKen1くんらしく、VERUTEUXらしくなるので。それに対して宙也さんには圧倒的なイメージが確固としてあって、それをどう抽出してポップにキャッチーに魅せるか、普段は投げないボールを投げるとどう返してくるかを考えるし、後ろにいる僕ら3人のアンサンブルが織りなす魅力とはどんなものなんだろうというところからファロキは入っていったので、最初は全くの手探りでした。最初からコンセプトやサウンドのイメージが明確だったらもっとラクだったんですけどね。
──曲作りよりも先にアー写の撮影を優先させたバンドですからね(笑)。
秀樹:そうそう。このヴィジュアルに合う格好いいロックを作らなきゃと考えていた矢先にコロナになっちゃって(笑)。
──でも、3年も経てばファロキらしさが自ずと出てきたんじゃないですか。
秀樹:そうですね、いわゆる“節”が。ファロキ節というのが何となく見えてきた。
──個人的にはあでやかさ、なまめかしさといったセクシュアルなムードがファロキらしさなのかなと感じていますが。
宙也:それは秀樹のプロデュース能力と、レイコとERYのグルーヴの賜物だね。俺が他のバンドと一番違うと感じるのは、ファロキでは自分がプロデュースされているところかな。秀樹のプロデュースが的確で、長けているんだと思う。