De-LAX時代に苦楽を共にした宙也(ボーカル)と榊原秀樹(ギター)、KiLLKiLLSやRaglaiaなどの活動で知られるERY(ベース)、スリルラウンジやEphraimなどでも活躍するムカイレイコ(ドラムス)が2019年に始動させた極東ファロスキッカー(以下、ファロキ)が、待望のフルアルバム『META浪漫SONIC』を自身で新設したレーベル"極東RECORD"よりリリースした。硬軟織り交ぜた渾身の全13曲が精選された本作を宙也自ら「過去最高傑作」と珍しく豪語するのも深く頷ける完膚無きまでの傑作であり、メンバー各自がアルバムの完成に大きな手応えを感じ、軽い始まりだったはずのファロキが今や精神的支柱となっていることが4人全員によるこのロングインタビューを読めばわかるはずだ。宙也のように40年以上のキャリアを誇り、すでに揺るぎない世界観を確立した唄い手であり言葉の魔術師がそれまでの禁じ手を打ち破り、新たな試みに絶えず挑むスタンスも素晴らしい。それと呼応するように楽器隊の面々も著しく記名性の高いプレイとセンスをまざまざと見せつけながら、比類なき名ボーカリストの至宝と言うべき歌を際立たせ、極めて純度の高いロックンロールを構築している。活動歴わずか5年にしてなぜこれほどまでのマスターピースを完成させることができたのか。関東甲信などでは記録的に遅い梅雨入りとなった2024年6月某日、高円寺北口のリハーサル・スタジオでメンバー4人に話を聞いた。(interview:椎名宗之)
これが最後かもしれないと渾身の思いで歌詞を書き上げた
──フルアルバムを作る構想はいつ頃からあったんですか。
秀樹:さすがにもう避けて通れないなと(笑)。これまで『PHALLUS KICKER』(2020年春発表)、『LOVE FROM FAR EAST』(2022年7月発表)とミニアルバムを2枚出してきて、極東ファロスキッカーなるものはどんなバンドなのかを一つの形としてそろそろ残さなきゃいけないんじゃないかとはここ数年考えていました。その結果、コロナも明けたこのタイミングで取り掛かろうと自分たちを奮い立たせて。
宙也:もうフルを作る段階なの? って感じはちょっとあったけどね。コロナもあったし、結成からもう5年も経つの? っていう感覚だったので。
レイコ:せいぜい2年くらいしか経ってない感じだったし。
秀樹:まだ自分ちの狭い庭で遊んでいて、やっと今になって外へ出始めましたみたいな感覚ではあるんですよね。個人的にはもうワンクッション置いてからフルでもいいかなと思っていたんですけど、タイミング的にはこれで良かった気がします。
──2022年の春に宙也さんがアルコール依存症のために入院したことも大きかったですか。バンドの顔役がいつまでも万全の体調で活動できないのかもしれないという危機感に直面したことがフルアルバムの制作に取り掛かる一つの契機になったのではないかと思うのですが。
秀樹:ああ、それは大きかったかもしれない。
宙也:個人的には生死に関わることだったし、その経験がアルバム制作に向かう上で大なり小なり影を落としているのは確か。これが最後かもしれないと、渾身の思いで歌詞を書いたから。いま思えば、入院先のベッドで『LOVE FROM FAR EAST』のジャケットをチェックしたりしたね。そのときはこのままのペースでバンドをやれるのか不安だったし、ライブのスケジュールは増える一方だったので体調を持ち直すのがキツかった。でもこの2年間ずっと治療に励んできたし、フルアルバムの作詞とレコーディングを完了させてやっと自分自身の復活、再生を果たすんだと考えていたし、そこで新たなスタートを切りたかった。
レイコ:「Godspeed U」のMVは、宙也さんが救急車に搬送される映像が頭に入っているんですよ。たまたまその現場に諸沢さん(極東ファロスキッカーのMVを数多く手がけている諸沢利彦)がいて、宙也さんがライブハウスで倒れて運ばれるまでの映像を押さえていたんです。その映像をいつか使いたいと話していて、宙也さんが入院から1年経ってアルコール依存症を告白したのでMVとして発表したんです。
──フルアルバムの収録曲ですが、資料によるとその多くをライブでこなしてからレコーディングに臨んだとのことですが。
ERY:事前にライブでやっていたのはおよそ半分ですね。「À Bout de Souffle」、「デウスエクスマキナ」、「ゲシュタルト崩壊」、「無限デシベル」、「ろくでなしピエロ」、「Sweet FREQ」、「美神オルフェ」をまっさらな新曲として録りました。「愛 Misery」は初期からあった曲です。
──冒頭の「À Bout de Souffle」はジャジーなラウンジ・ミュージックにフランス語の囁きが重なる小粋な小品ですが、こうしたスマートなイントロダクションはプロデューサーである秀樹さんの采配ですか。
秀樹:宙也さんが、何かSEみたいなものを頭に付けたいと急に言い出して(笑)。
ERY:レコーディングが全部終わって、スタジオの帰り道でしたよね。
──タイトルをゴダールの『勝手にしやがれ』から引用したのは?
秀樹:「極東ファロスキッカーのテーマ」のベースをモチーフに、ちょっと違う解釈で跳ねる感じにしたらジャズっぽくなったので。それをワンコードにするとゴダールっぽいかなと。
──喋っているのはERYさんですか?
ERY:いや、Mandah(マンダ)さんというフランス生まれの音楽ジャーナリストです。『VISUAL MUSIC JAPAN』というWEBメディアでファロキのインタビューをしてくれた方で。
宙也:街の雑踏から何がしかの音が聴こえてくるという設定は秀樹のアイディアで、「何か聴こえる…」というフランス語をMandahに喋ってもらって。
秀樹:ジャケ写の撮影をしたときのヘアメイクがフランスの方で、フランス語で録ってもらいましょうよと宙也さんに話したら、Mandahにお願いしてくれたんです。ボイスメールで録った声をこちらで編集しました。