思いの丈を全部ステージに載っけて血の通ったライブを届けたい
──「エバーグリーン」のジャケットには運動場の水飲み場の写真が象徴的に使われていますが、誰しもが幼少あるいは思春期の記憶の奥底にある風景のように感じますね。
倉島:セツナブルースターの楽曲に落とし込まれてきた景色の象徴のようにも感じるのではないかと。あれは僕が撮った某小学校の水飲み場の写真なんですけど、ああいう幼少期、思春期に培われたものや景色がセツナブルースターの楽曲の中に溶け込んでいるように思えるし、「エバーグリーン」のジャケットにはこれだろうと選んだのがあの写真でした。
──この「エバーグリーン」を足がかりとして、今後またセツナブルースターの新曲を期待しても良さそうですか。
倉島:(力強く)はい。もちろんこれからもバンドをやり続けますので。今度の新宿ロフトでのライブもそうですが、ここで終わりじゃ面白くないですから。今回は新旧大勢の方々のバックアップのおかげでライブ開催まで漕ぎ着けることができそうなんですが、これは変な意味じゃなく、各方面からお世話になりっぱなしで担がれてステージに上がるようなスタンスは、バンドとして本望ではないんです。やっぱり自分たちでしっかり企画して、ちゃんと計画を立てながら実行していかないといけない。どこまで自分たちだけの手でやっていけるかわかりませんけど、ひとまず次のステップ…それがシングルをもう1枚出すのか、EPサイズの音源になるのかはわかりませんけど、作品としてもうちょっとボリュームのあるものを出したいですし、それに伴ってワンマン・ライブもやりたいですし、われわれのスケジュール的にツアーはまだ難しいかもしれないけど、今の生活の中でできる範囲のことを精一杯やりたいと考えているところです。
──先ほど「レコーディングしてない楽曲もまだたくさんある」という話がありましたが、過去に書いた曲よりも今書き上げる新曲を優先して発表したい気持ちが強いですか。
倉島:強いです。昔書いた曲が楽曲的に悪いわけではないんですけど、そのレコーディングされていない曲というのはセツナブルースターの活動休止前夜に書かれたものが多いので、バンドとして一番迷いのあった時期だからなのか、いま唄ってみるとあまり味がしない、みたいなところがあるんです。その一方でとてもフレッシュに感じる曲もあるので、そうした曲は織り交ぜつつも、今後はまっさらな新曲を多めにして作品を発表していきたいです。
──活動休止前夜に感じていたもやもやしたもの、消化不良的なものとは結局何だったと思いますか。
倉島:それが何だったのかはわかりませんが、生活が大変だったというのが一番の実感でした。どう足掻いてもライブでお客さんが増えない焦りもあったし、それまで自分たちがやり続けてきたことに自信を持てなくなっていたのかもしれません。それで無理して売れ線を意識したわけではないけれども、作る曲が作為的になった部分はあっただろうし、バンドに向かう意識が空回りするようになってしまいました。
──そうした迷いが吹っ切れたのはいつ頃でしたか。やはり故郷に戻られてから?
倉島:そうですね。セツナブルースターとして最後にリリースしたのが『イツカ・トワ・セツナ』というアルバムで、それ以降、活動休止まで2年のあいだに書いた曲が10曲くらいあるんです。それが今の自分としてはちょっと微妙なのかな……。曲によっては自分たちらしくないと感じる楽曲もあるので。
──身の丈に合っていない感じがするとか?
倉島:そんな感じです。今はもう完全に吹っ切れているので、自分たちがもともとやりたかった音楽って何なんだろう? と考えられるし、それ以前に僕自身が本来やりたかった音楽とは何だったんだろう? という自分自身への問いがわりと明確になっていますね。音の感触としてはたとえばグランジっぽいことをやりたかったのかなとも思うし、その一方でボーカリストとしてはもっとフォーキーな歌を唄いたいとも思うし、その辺をハイブリッドした感じの曲を作れたらいいのかなと思っています。
▲2023年(写真:山﨑穂高)
──話を伺っていると、故郷の地に足を着けた今の環境がやはり好作用を及ぼしている気がしますね。時流に惑わされず、生活と音楽を共存させたバランスが倉島さんの本来やりたかった表現の基軸を支えているようにも感じます。
倉島:長野へ戻ってきた頃は所帯じみた曲にならないか心配だったんですけど、そこは少し気に留めました(笑)。でもそれがセツナブルースターの楽曲となれば3人の見解と言うか、メンバーが考えるセツナブルースターらしさみたいなものに相違はないし、今回の「エバーグリーン」も島田と宮下が「いいじゃん!」と言ってくれたので、それが一番嬉しかったし、自信にもなりました。この先、どこまでやれるかはわかりませんけど、まずはアルバムを完成させて、長野と東京でワンマンをできるくらいまで頑張りたいです。
──今はバンドとソロの両輪が相互作用する楽しみがありますか。
倉島:自分では両輪あることを特に意識してないんです。弾き語りもそれほどハイペースでやっているわけではないんですけど、バンドが休止してから個人の演奏活動を止めたくなかったし、そこで自分なりにやれたのが弾き語りだったんです。バンドが忙しくなればソロ活動は若干トーンダウンするでしょうけど、今は双方の活動が作用を及ぼしているところはあるでしょうね。ステージでの佇まいや見せ方はソロとバンドでは違いますけど、その違いを理解できたことよって双方の佇まいや見せ方もより良くなるんでしょうし。
写真:山﨑穂高
──最後に、新宿ロフトでのライブへお越しくださる方々へ一言いただけますか。
倉島:テンション上げていきます(笑)。実を言うと、ライブを目前に控えて今かなり緊張しているんですよ。でもそれ以上にもの凄く楽しみで。久しぶりのセツナブルースターを都内でがっつり観ていただけるのは今までずっと願っていたことだったし、ずっとやりたいやりたいと言い続けてきたことでした。いろんな人たちのバックアップがあって、今回こうしてやり遂げることができそうなんですが、人の手を借りていてばかりじゃダメだし、自分たちの意志と気持ちでイベントの内容を組み立てることにして……ここまで来るのにいろんな段取りがけっこう大変だったんですけど、そうした思いも含めて全部ステージに載っけて、「エバーグリーン」という新曲と共に血の通ったライブを届けたいです。月並みですが、観に来てくれた人たちにしっかり楽しんでもらえるような1日にしたいですね。