バンドの在り方そのものを楽曲に投影した新曲「エバーグリーン」
写真:山﨑穂高
──今回の新宿ロフトでのライブに合わせて、2006年4月リリースの『イツカ・トワ・セツナ』以来となるスタジオ新録音音源「エバーグリーン」が10月5日(木)に配信シングルとしてリリースされます。6年振りの東京でのライブと17年振りの新曲発表をセットで考えていたわけですね。
倉島:そうです。当初から計画していました。
──新曲として何曲か候補がある中で「エバーグリーン」に絞ったのですか。
倉島:セツナブルースターとしての新曲を復活後に書き溜めたことはなくて、「エバーグリーン」は今回のライブに向けての書き下ろしです。久々のライブということで、迸る感情を一曲に絞って「エバーグリーン」だけ書き上げました。
──疾走感に溢れた小気味好いサウンドの中に憂いを帯びた旋律が滲んでいて、これぞセツナブルースターの真骨頂と言うか、バンドの真髄をギュッと凝縮したような一曲に仕上がりましたね。
倉島:そう言ってもらえるととても嬉しいです。セツナブルースターというバンドや今のメンバーの在り方を意識して、大きな意味で今回の新曲を「エバーグリーン」というタイトルにしたんです。バンドや自分たちに対して「色褪せたくないよね? 俺たち色褪せてるかな? どうかな?」と問いかけるイメージもありました。いつまでも瑞々しくありたいという願いを込めつつ。若い頃ではなく、この歳になってあえて「エバーグリーン」というタイトルの曲を完成できたのが良かったなと自分では思っています。
──しかも、一瞬という名の永遠、永遠という名の一瞬をテーマにしているのがニーチェの永劫回帰を彷彿とさせるし、時を経ても色褪せないもの=“エバーグリーン”を追い求め続けるのは若さゆえの青さを恥ずかしげもなく全力で唄ってきたセツナブルースターらしい命題でもあるし、楽曲自体がセツナブルースターというバンドそのもののように感じますね。
倉島:まさにおっしゃる通りです。バンドの在り方そのものを楽曲に投影した部分はありますね。“エバーグリーン”と呼ばれるものをテーマに曲を書きたい思いがずっとあって、それを形にするには今しかないと思って制作に着手しました。
──歌詞はだいぶ難航しましたか。
倉島:そうですね。言いたいことはあらかじめ決まっていたんですけど、どういう言い回しにしようか、言葉の端々で悩んだところはあります。あまりストレートに書きすぎると青くささが残ってしまうし、僕らももう40代なので、等身大の自分たちを落とし込みたいとも考えていましたし。
──不惑の境地に達して、誰しもが通過する青い季節特有の迷いや憂いを唄い上げていたセツナブルースターの楽曲を率直なところどう感じますか。気恥ずかしさを感じることなく、過去の自分たちもあるがままに受け止めているという感じでしょうか。
倉島:過去の曲をいま唄ったりすると、「当時はこんなことを考えていたんだな」と客観的に感じることが多くなりました。ただ、言うほど自分たちも変わってないと言いますか。活動休止してからそれぞれいろんな活動や仕事を経験してきたし、いろんな出会いと別れを繰り返してきたし、外面は一応大人をやってますけれども、中身や感性的な部分はそんなに当時と変わってないんです。10代、20代の頃のフレッシュさはないかもしれないけど、音楽を通じた表現、アウトプットの部分では今も同じあの頃のまま、全く劣化してないと感じています。あの頃の延長線上のまま40代になって等身大がちゃんとあるというイメージで、俯瞰して「少年季」を唄っています。
──新曲の「エバーグリーン」も等身大のキラキラした輝きがあるように感じます。それでもなおバンドと対峙する純真さ、音楽に懸けるひたむきさが発する輝きみたいなものが。
倉島:「エバーグリーン」をレコーディングして、最初にあがってきたラフミックスがわりとヴィンテージ感のある、どっしりしたシブい感じの仕上がりだったんです。きっとエンジニアさんが気を遣ってくださったと思うんですけど。でも今回に関してはもっとキラキラさせたくて、何カ所か直させてもらいました。深みのある青を若干明るくさせてもらったと言うか。
──デモのやり取りはネットでやるにしても、録りはどうしたんですか。長野に集まってレコーディングとか?
倉島:録りは東京へ行きました。宮下が別のバンドで使ったことのあるスタジオだったんですけど、そこの機材を下見したら面白い音が録れそうだなということで。実はKhakiもそのスタジオを使っているんです。
写真:山﨑穂高
──17年振りの新曲ということで、作曲とレコーディングにあたって気負いみたいなものはありませんでしたか。過去の自分たちのレパートリーに比肩するクオリティを保たなくてはならないというプレッシャーが絶えず付きまとっていたのではないかと思うのですが。
倉島:それは多少ありました。でも結局、作ってみないとわからないものなんですよね。何曲も書いて「これが一番いいかな」と判断するのも性に合わないし、自分が今アウトプットできる最大のものを形にすることしかできませんでした。タイトルは最初から「エバーグリーン」と決めていたので迷いはなかったんですけど。島田も宮下も負けず嫌いなので、きっと気持ちは同じだったと思います。過去の自分たちには絶対に負けたくないという気持ちは絶えずあったでしょうね。
──曲作りに関して、ソロとは違うスイッチが入ることがセツナブルースターの曲作りにはありますか。
倉島:ありますね。バンドじゃないと、この3人じゃないとできないことがあるし、3人でしか生み出せないサウンドを常に意識しながら曲を書いています。ソロの場合はアコースティック・ギター一本で完結するようなサウンドを心がけて作っていますけど、バンドだとアンサンブルを含めていろんなアレンジができますからね。
──赤坂マイナビBLITZでの実質的な復活ライブから6年、セツナブルースターとしての新曲を発表しなければという思いは絶えず頭の片隅にありましたか。
倉島:早く出したいと思っていました。セツナブルースターを改めて始動させるにあたって、やっと公式サイトやSNSを整備したんですけど、それまでの情報源は僕のブログ一本だけだったんです。そのブログにファンの方々からコメントをいただくんですけど、「新しい音源のリリースはないんですか?」としょっちゅう訊かれていたんです。それがずっと心苦しかったですし、「いつか必ず作りたいです」と返事をしながら何年も経ってしまったので、これでやっと約束を果たせたことになるので良かったと思っています。