モッシュは男性だけの特権じゃない、女性でも華奢な人でも暴れたい人はいる
──最前列では暴れてて、後ろではサークルモッシュ。それぞれがそれぞれの楽しみ方で。
谷ぐち:そうそう。それぞれの場所でそれぞれの楽しみ方。狭いライブハウスでは難しいかもしれないけど。
──うんうん。でもバンドがひと言、こう、「そこ危ない」とか言ってくれれば……。
YUKARI:うちらぐらいの規模なら、バンドにちゃんとしたアティチュードや信念があったら、お客さんに伝わると思うんですよ。
──たとえば海外のフェミニストのパンクバンドで、ライブ始まる前に、女の子は前に来るようにアナウンスするバンドもいる。そういうふうにライブのやり方をその場でアナウンスするのはいいことですよね?
谷ぐち:いいと思いますよ。そういえば、FUGAZIの初来日を観に行ったとき、ライブ前に通訳をつけてアナウンスしていました。「お客さんがステージに上がるとシールドを抜いたり、マイクスタンドにぶつかって下手したら歯が折れたりするから危ない。やめてくれ」って、最低限のことを言っていただけ。「モッシュするな」とは言っていなかった。
YUKARI:そうそう。モッシュと暴力は違う。
谷ぐち:あれだけ暴力的な表現なのにケンカにならない。なりそうにはなるけど、みんなで止める。誰かが倒れたら、みんなで起こす。ダイビングは受け止めて、安全に着地させる。これこそがモッシュの醍醐味、素晴らしいところ。
写真:HBK!
写真:HBK!
YUKARI:でもね、自分がお客さんとしてぎゅうぎゅうのフロアにいるとき、もしかしたら痴漢に遇うかもって思ったりはしてる。夜道でつけられてないか気になるっていうのと同じレベルで。そんな思いをしてる人はたくさんいる。ただ、演者としての自分が痴漢に遇うとは思ってなかったんですよ。こういうことがあるんだって、頭ではわかってはいたけど、どこか他人事だったっていうか、見えてなかったっていうか…。
【註】2015年10月、京都METROで行なわれた『ボロフェスタスタ』で、Limited Express (has gone?) のライブ終了間際、YUKARIは痴漢の被害に遭う。後にYUKARIは痴漢撲滅ステッカーを制作。当時のブログ:ニーハオ!ジャーナル『【宣言】YUKARI』はこちら。
──それ以降、YUKARIちゃんは変化していったと思うけど…。
YUKARI:自分にあんなことがあって、お客さんや、若いミュージシャンたちには同じ目に遭ってほしくないってめっちゃ思った、今ももちろん思ってます。だからライブやりながらフロアは凄い見てて。なんかあったらライブ止めようって心に決めてる。わたしはモッシュより、痴漢のことを一番気にしていて……。
──モッシュが悪いんじゃなく、悪いのは痴漢であり暴力だし。YUKARIちゃんのツイート、とても印象的でした。(「モッシュやダイブと(性犯罪)痴漢は全く、ぜーーったい違う。絶対に!!」)
YUKARI:モッシュと痴漢行為は絶対に違います。わたしは女性がいやすい場を作りたいとメチャクチャ思ってるし、日々考えてます。ライブの途中で痴漢行為があったら、途中で演奏を止めようって決めていて。正直、何か事件があっても、突発的にアクションを起こすことって凄く難しいと思うんですよ。だからこそ、わたしは絶対になんか言おう、絶対に止めようって決めて心の準備してるんです。
──YUKARIちゃん自身がフロアに降りてモッシュの真ん中に突っ込んでいく。最高! って思うんだけど、モッシュしてるほぼ全員が男性の中、どういう気持ちで? 女性もモッシュしなよ! って気持ち?
YUKARI:来たいならおいでよって気持ちはあります。モッシュは男性だけの特権じゃないから。そこは気兼ねする必要はないんです。女性も子どももやりたければおいでー! って。実は、男性に対して、マッチョな人たちに対しても向けてる部分もあって。女性だって、華奢な人だって、暴れたい人はもちろんいるってことを知ってほしい。わたしは、自分のライブのときだけじゃなくて、お客さんとしてもかっこいいライブに対して昂ったら、前へ行って、モッシュにだって突っ込みます。ぶつかるし、ふっ飛ばされるし、痛いし、ケガするし。いいんですよ、それがライブだから。女がいるから思いきりモッシュできねぇー、とか言う奴がいたら、ごめんなさいねぇ、だってやりたいんだもん、みたいな感じで。