『PRIVATE TAPES 1995-1998』という秀作の復刻再発があったものの、純然たるオリジナル作品のフィジカルリリースは『いかすぜライブハウス』以来約3年ぶり。それも今回のフォーマットはキャリア初の7インチシングル盤、曲調はホーンアレンジを施したゴキゲンなスカナンバーという新機軸。MAMORU & The DAViESを牽引する炎のパブロッカー、ワタナベマモルが遂に従前の通りフルスロットルで稼動する。渾身の新曲「命の次にロックンロール」には「命はカッコイイ/何より輝いてる/どんな命もカッコイイ」「ノーウォー・ノーモア・ウォー」という混沌とした世相を反映したような歌詞が並ぶが、軽快かつ爽快なサウンドにのせた歌を聴けば、それがストレートなメッセージソングや反戦歌とは似て非なるものであることがわかるだろう。マモル自身は決して大仰なことを言ってやりたいわけではなく、ただ楽しく暮らしていたいだけなのにこのやるせなさは何なんだ?! とあくまで自分の生活圏内で七転八倒しながら生きていることをスケッチして歌にしているだけなのだ。憤懣やるかたない思いをそのまま歌にするほどワタナベマモルは無粋じゃない。自身を"ヘタレのパンクロッカー"とおどけながらロックンロールの真髄と醍醐味を軽妙洒脱に伝える。今年でグレイトリッチーズ結成から40年、年の瀬には還暦を迎える彼の本質は相も変わらず、3分に満たない3コードのロックンロールへの愛情は尽きることがない。ぶっきらぼうで武骨だが、その愚直なスタンスこそ"何より輝いてる"。コロナ禍のピークを経て、魂のロックンローラーによる怒涛の逆襲がここから始まる。(Interview:椎名宗之 / Photo:齋藤真理)
不特定多数の人たちが等しく楽しめるのがロックンロール
──前回のインタビューでお話しされていた、カバー・アルバムと言うか洋楽の替え歌アルバムの話ができるのかなと楽しみにしていたのですが…。
マモル:カバー・アルバムはデモを録り始めてたし、完成させようと思ってたんだけど、コロナが長引いちゃってさ。そうこうしてるうちに「命の次にロックンロール」という新曲ができて、それを出したら次は新しいアルバムを作ろうと思うようになった。だから順番としてカバー・アルバムはそのあとかな。
──先日の『リーブリロー追悼ライブ』(2023年4月7日、荻窪 TOP BEAT CLUB)で披露されていた「Boom Boom」の日本語カバーもとても良かったので、ぜひ完成に漕ぎ着けていただきたいですね。
マモル:「Boom Boom」、僕の嫌いな蜂の歌ね(笑)。コロナがこれだけ長引かなければカバー・アルバムを先に完成させてたと思うけど、先にシングルを出してから新しくオリジナル・アルバムを作りたくなってね。まあ、アルバムを作るにもまだ曲が足りてないんだけど。
──「命の次にロックンロール」が生まれたのは、ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻がやはり契機として大きかったですか。
マモル:そうだね。それがきっかけと言うか、僕の場合、何か物事が起きるとすぐに曲を作りたくなる。原発事故の後に「夢の原子力」を書いたり、コロナ禍で「いかすぜライブハウス」を書いたみたいにね。作らなきゃって言うよりも作りたくなっちゃう。居ても立っても居られないと言うか、寝ても覚めてもずっとやるせない気持ちでいる。だけど声高に叫んでもどうにもならないというジレンマがあって、自分の中で消化できない。それで結局、曲を作っちゃう。不思議と歌詞もメロディも出てきちゃう。義務感と言うより作りたい、消化させたいという願望だね。「夢の原子力」の頃からずっとそんな感じ。
──スカのリズムとアレンジを全面的に配した曲というのは新機軸ですね。
マモル:MAMORU & The DAViESでスカをやるのは初めて。スカやロックステディはずっと好きで、何年も前から自分でもやってみたかったんだけど、勝手がわからないからやってこなかった。でも「命の次にロックンロール」をテレコに吹き込んでるときにこれはスカっぽいなと思ってね。ちょうどスカをやれるタイミングが合ったと言うのかな。
──命をテーマにした重さをスカのアレンジが軽くしているようにも思えますね。
マモル:まあ、僕の曲はだいたい軽いからね。テーマが重くても曲にしちゃえば全部軽くなる。軽くやりたいんだろうね。コロナにせよ戦争にせよ、僕一人の力じゃどうにもならないし、それをただそのまま唄っても重くなるだけだから。それに僕がやりたいのはロックンロールだからさ。ストレートに「戦争反対!」と重く唄われても僕はキツいし、そりゃもちろん戦争には反対だけど、それを重い唄にしなくてもいいんじゃない? とも思ってしまう。
──たとえばジョンとヨーコの『Sometime in New York City』に収録された政治色の強い曲にはげんなりしてしまうということですか。
マモル:ジョン・レノンは英詞だし、歌詞が頭に入ってこないからね。別に反戦の歌がイヤなわけじゃなくて、日本語だとちょっと直接的すぎると言うかさ。でも(忌野)清志郎さんがカバーした「明日なき世界」(註:オリジナルはP.F.スローン、日本語詞は高石ともやと忌野清志郎)は格好いいと思った。そういうのは感覚だね。格好いいか格好よくないかっていうのは。メッセージが重くても曲が良ければOKなこともあるし、その人の声でポップに聞こえることもあるし。あとは聴く人の考え、判断だからね。
──ヘヴィな内容ほどユーモアを交えつつ軽妙に伝えたいというマモルさんなりの信条があるのかなと思いましたが。
マモル:どうかな。より普遍的な曲を書きたい、届けたいという気持ちはあると思う。たとえば「戦争反対!」というテーマがあったとして、その集会で唄うためだけの曲なら一定の層に向けた歌詞になるだろうけど、僕の歌は特定の人たちに向けたものではないから。どこかに偏ることなくどこにでも向けちゃえ! って思いながら昔から曲を書いてるし、それが自分なりの決まりなんだね。ライブにしても不特定多数に向けてやってるつもりだし、熱心なお客さんにも初めて見るお客さんにも同じように楽しめるようにやりたい。コアな層に向けたマニアックなライブもできるだろうけど、そういうのは自分じゃあまり好まない。不特定多数の人たちが誰でも等しく楽しめるのがロックンロールだという考えが根底にあるから。
音楽としっかり向き合うという意味でレコードはいい
──新機軸なのはスカの曲調ばかりではなく、7インチのアナログ盤というフォーマットでリリースするのも初なんですよね。
マモル:うん。ただ単に7インチを作りたかっただけなんだけど、これもタイミングが合ってね。コストのことをいろいろと調べてみたら、いけるかなという感じで。スカって雰囲気的に7インチが合うし、DJとかやってる人たちに買ってもらえたら面白いかなって。いつもラジオに呼んでくれる大貫憲章さんにもずっと言われてたんだよ。「マモル、いつアナログ作るんだよ?」って(笑)。
──昨今のアナログレコードの再ブームについて、マモルさんはどう見ていますか。僕は個人的に新作のレコードがどれも値が張ることに違和感を覚えてしまうのですが。
マモル:そうだね。このあいだ清志郎さんのトリビュート・ライブ(2023年4月9日に神田 THE SHOJIMARUで行なわれた『キセキ&ジャングルのキヨシロー2023』のこと)に出てさ、ライブ自体は楽しくやらせてもらったんだけど、RCサクセションの『Baby a Go Go』がLPで出たでしょ? あれが15,000円くらいするんだよ(註:税込で14,850円)。もちろんLP以外に付属物がいろいろ入るんだろうけど。そのライブでもMCで言っちゃったもんね、「『Baby a Go Go』のレコード、高いよね?」ってポロッと(笑)。結局ね、ブームとは言われてるけど買う人が少ないんだよ。買うのがマニアだから15,000円くらいで何とかなるわけでさ。
──MAMORU & The DAViESの『命の次にロックンロール / ヘタレのパンクロッカー』は1,600円+税という低価格設定ですね。
マモル:製造費と売る枚数を考えるとこれが限度でね。仲間のスタッフには1,600円じゃ安いくらいだから2,000円にしましょうと言われたんだけど、僕はもっと値段を抑えたかった。最初は1,500円にしたかったけど、ダウンロードカードを付けて100円アップした。ブームになってみんながアナログを作ること自体は凄くいいことだと思うし、あとはコストが下がればいいよね。僕自身、家ではほとんどレコードしか聴かないし。
──ああ、やはりそうですか。
マモル:実を言うと、しばらくレコードプレーヤーを持ってなかったんだよ。でも自分でレコードを出すことに決めて、プレーヤーを久しぶりに買ってさ。それから毎日レコードを聴いてるんだけど、CDやサブスクと違ってレコードはちゃんと聴かなきゃいけないでしょ? 片面が終わるまで15分くらい集中して聴かなきゃいけない。あれがとてもいい。音楽としっかり向き合うという意味でレコードはいいよね。
──でも考えてみれば、グレイトリッチーズがナゴムレコードから初音源を出したのは当然アナログでしたよね。
マモル:最初はソノシートだったね(『パワーアップ』、1983年12月発表)。
──マモルさんの世代からすると、CDからMD、配信とメディアの変遷を辿ってきて、結局またレコードに立ち返るというのは進化なのか退化なのかよくわからない部分はありませんか。
マモル:その思いもあるけど、自分もずっとレコードから離れてたから。CDが出始めた頃は音もキレイで便利じゃん、レコードは面倒くせえなとか思ってたくらいだし。だけどこういうサブスクが全盛の時代になってレコードが再び脚光を浴びて、その価値に気づくのはわかるよね。レコードなんて重くてかさばるし、ツアーに持っていくのも不便なんだけどさ(笑)。
──マモルさんは自分でジャケットのイラストも描くし、単純にジャケットが大きいレコードは相性が良いのでは?
マモル:パッケージとしての魅力は凄くあるよね。予算をかけられるならLPだって作りたいくらいなんだけど。まあ、レコードを作る工程はCDとまた違って面白かったね。東洋化成(日本屈指のアナログレコードプレスメーカー)からアセテート盤というテスト盤が送られてきて、それを聴いてチェックしてさ。僕の場合、音の細かいことはわからないので「おお、レコードの音だ!」と感激してOK(笑)。昔は東洋化成でもカッティングの立ち会いができたらしいんだよ。自宅のプレーヤーで聴く音と立派なスタジオのスピーカーで聴く音では全然違うから、ホントは現場に立ち会ってもっと音を吟味しなくちゃいけなかったんだろうけど、今はコロナで立ち会えないみたいでね。そう言えば昔、キャプテンレコードでグレリチのレコード(『GREATFUL PANTS』、1988年6月発表)を出すときに埼玉のプレス工場へ行ってカッティングに立ち会ったなあと思い出して。どこそこのレーベルのカッティングエンジニアの腕がいいとか、ドイツのノイマン社製のカッティングマシンがいいとか聞くけど、そういうのはもう僕の範疇じゃないから(笑)。こだわり出したらキリがないしさ。
──その辺りは山下達郎さんにお任せして(笑)。
マモル:デジタルで録音した音をアナログで聴くのはそれぞれの再生環境が違うから何とも言えないけど、アナログしかなかった時代の録音はレコードで聴いたほうがいいね。レコードで商品化するのが前提で作られた音なわけだから。それは自分でレコードプレーヤーを買い直して思ったな。