“明らかにB面”という曲を作る楽しさ
──下北沢にあるFlowers Loftのライブフロアには“NO WAR”というプレートが飾ってあって、それは一介のライブハウスでもこの時代に毅然としたスタンスを提示しようという表れなんです。「命の次にロックンロール」にも“ノーウォー・ノーモア・ウォー”という歌詞があって、こうした時代に敢えて投げかけるべき必然性のあるフレーズだと思うんですよね。
マモル:そうかもね。でもそれもまた自分なりの感覚って言うかさ。サビだからしつこく繰り返してるだけで、僕の中では「Johnny B. Goode」の“Go, Go! Go Johnny, Go, Go!”みたいなものだからね。
──B面の「ヘタレのパンクロッカー」はタイトルからしてユーモアに溢れた実にマモルさんらしい軽快な曲で、この曲があることでA面とのバランスが取れているようにも思えますね。
マモル:レコードでしか味わえない楽しみっていうのがあってさ、それがB面なんだよ。B面を作れる楽しみ、醍醐味ってあるでしょ? うわ、これ明らかにB面曲だな…っていう(笑)。せっかく自分でレコードを作るチャンスがあるなら、“明らかにB面”って曲をちゃんと作りたくてね。
──つまりちょっとハズした感じと言うか、二軍的なニュアンスですよね。そういう曲を作るのは難しくないですか。
マモル:僕は得意だね。B面っぽい曲はすぐできる。しかもこういうB面の曲はアルバムには入らない。そういう定めなんだね。それに則って次のアルバムに「ヘタレのパンクロッカー」は入れないだろうけど、だからこそ7インチシングルのB面っぽい曲を作るのが楽しい。「ヘタレのパンクロッカー」も心の中でゲラゲラ笑いながら作ったね(笑)。
──今回はA面、B面共に若林一也さんのアルトサックスが音の要になっていますね。
マモル:そうだね。A面がラッパのアレンジだったのでB面もサックスを入れちゃえ! ってことで吹いてもらったんだけど、「ヘタレのパンクロッカー」は結果的にX・レイ・スペックスっていうメンバーにサックスがいるパンクバンドみたいになっちゃってね。それでさらにB面っぽくなっちゃって、ダブルパンチのB面効果を生んだと言うか(笑)。
──80年代のニューウェイブって、メンバーにサックスがいるバンドがなぜか多かったですよね。
マモル:確かに。あれは何だったんだろう? ニューウェイブの音とは全然合わないのに。それもホーン・セクションじゃなくサックスだけっていうのがショボくていいんだよね(笑)。
──「命の次にロックンロール」のホーン・アレンジもシングルならではということなんですか。
マモル:うん。「命の次にロックンロール」のサックスのパートもライブではギターでやってるから。今回はシングルなので、よりスカっぽくしようと思ってサックスを入れてみた。だから今回の「命の次にロックンロール」はあくまでシングル・バージョンで、アルバムに入れるときはバンドでやってるアレンジに近い形にしようかなと思ってる。最初からそういう構想があったね。せっかくシングルを作るんだから、A面もB面もシングルならではのことをやりたかった。僕はそういうくだらないことを考えるのが大好きなんだよ(笑)。
──サックスの若林さんが在籍していたFOOLSですが、昨年10月に新宿ロフトで開催された『THE FOOLS FILM & SESSION〜『THE FOOLS 愚か者たちの歌』初公開!ライブ!〜』にはマモルさんも出演していましたね。マモルさんとFOOLSの繋がりを知らない人もいると思うので、あらためて聞かせていただけますか。
マモル:東京へ出てきてバンドを始めようとしてた頃、宝島から出てたバンドカタログみたいな本をモリクン(グレイトリッチーズの最初のボーカリスト / ex-ポテトチップス / 現モリクン&ボケッツ)と読んでたらFOOLSってバンドがいて、そのヘンな名前が妙に気になってね。渋谷の屋根裏までライブを見に行くことにした。細かいことは覚えてないけど(伊藤)耕さんの歌が鮮烈で、そうこうしてるうちに『Weed War』ってファースト・アルバムが出て、友達のサミー前田くんがFOOLSの手伝いをしてるってことで距離が近づいたと言うか。それ以前にパンクロックやパブロック、RCサクセションなんかも好きだったけど、それはどれもレコードで聴いてた音楽で、アンダーグラウンドなバンドでリアルに音楽的な影響を受けたのはFOOLSが最初だった。グレリチを始めたばかりの頃はモリクンと「どういう音楽にしようか?」とか話したり、ライブも経験がないから手探りでね。最初の頃はライブの構成を考えて紙に書いて、「ここでこういうMCをしよう」とか決めてたんだよ。
──マジメだったんですね(笑)。
マモル:最初だけね。でもそれじゃつまんねえなってモリクンとも話してた頃にFOOLSを見て、ああ、これだ! と思った。次のライブからはもっと適当にやろう、FOOLSみたいにやろうって実際にライブをやったら凄く楽しかった。僕らがバンドを始める上で適当にやる楽しさっていうのをFOOLSが教えてくれたね。音楽的なことはよくわからなかったけど、ストーンズっぽいとは思った。ファッション的なことじゃなく、持ってる音楽の質がストーンズっぽかった。そんなこんなで、グレリチがメジャーデビューした頃にゲストでFOOLSにライブをしてもらったり付き合いがあった。