ポツンと孤独な歌詞、ポップだけど決して軽くないアルバム
──うん。今作の「満月とポイズン」や「さよならセニョリータ」は、今までだったら遊んでるタイプの曲ですよね。こんなことやっちゃって~って笑える曲。でも今回はそういう曲でありながら、アルバムの中で違和感なく治まってるっていうか。いい曲だなってうっかり思っちゃうんですよ(笑)。
伊藤:いい曲ですけどね(笑)。
順堂:遊んではいますけどね(笑)。
伊藤:馴染んでるってことですよね。
──そうそう。馴染んでるし、遊んでる曲を真面目にやってるなって。
スージー:あぁ、けっこう「さよならセニョリータ」は真面目にやっちゃってたかも。
──ボーカルはスペイン語みたいな唄い方で。
伊藤:空耳アワー的な(笑)。
──歌、上手くなりましたよね。
伊藤:そこで言う(笑)。
スージー:この曲で褒める(笑)。
伊藤:でも得意なものを見つけたって感じはします。
スージー:実際、真面目にやっちゃいましたね。メチャメチャ高いクラシックギターを借りてやっちゃいましたから。
──幅が広がったともいえるし、軸が定まって太くなったともいえるし。今までの雰囲気も出てるしね。1曲目の「消えて行く前に」は「いなくなったのは俺の方だったんだ」(2013年)に近いし、「エンドロール」は「いいえ、その逆です」(2012年)に近い。
スージー:近いですね。「いいえ、その逆です」と「エンドロール」の曲は俺で、単調なバラードが好きなんですよ。
──いいですよね~。私も好きです。あとスウィングの曲もあったり。
スージー:朋ちゃんが得意で。前のバンドでやってたんだよね。
朋子:スウィングとかカントリーっぽいものをやっていたんです。今回、曲を聴いて、めっちゃやりたい! めっちゃ合いそう! って思って。
スージー:朋ちゃんはシンセも弾いてるし。ジャズも好きだからね。イヤらしい音を弾いてます(笑)。
大川順堂(Drum, Chorus)
伊藤雄和(Vocal, Mandolin)
──で、1週間で書いた歌詞についてですが、どういうふうに作るんですか? 曲から呼ばれる感じ?
伊藤:呼ばれないですね、全然(笑)。世界観のイメージは浮かぶんですけど、そこから言葉が、しっくりくる言葉が全然降りてこない。だから探しに行くんです。夜の街を、聴きながら歩く。歩いてるとだんだん妄想が…。男なんて子どもの頃から妄想してますからね。(鹿児島に向けて)な。
鹿児島:え? 妄想って下ネタをですか?(笑)
──伊藤さんの歌詞ってどこか孤独じゃないですか。ポツンとしてる。今回の「消え行く前に」も以前の「いなくなったのは俺の方だったんだ」も、誰かが消え行くのか、自分が消え行くのか。ポツンと一人で立ってる感じで。
伊藤:あぁ、はい。もうこの世界観しか書けなくなってるのかもしれない。いやそんなことはないけど。
──深くて面白い歌詞だと思います。今作、バラードはないですね。どの曲もポップ。でも決して軽くないアルバムだと思うんですよ。
伊藤:なんででしょう。馴染んできたんでしょうかね。
──今日ここに来る前に「夜光虫」のMVがちょうどアップされて。川口潤監督のカッコイイMV。かなり孤独ですよね。
伊藤:実際、俺が駅前の通りで倒れてるシーンがあるんですけど、みんな心配もせず、スマホで普通に撮るし、俺の上を跨いでいく奴もいるし。都会はみんな冷たいですよ(笑)。
スージー:でも一人、おばさんが声をかけてきたよね。
伊藤:そうそう。「荷物とか何も持ってないけど大丈夫なの?」って。置き引きにあった酔っ払いだと思ったみたいです(笑)。
──撮影してるのは気づかれずに。
伊藤:歩道橋の上で撮ってるから。たぶんね、川口監督はわざとだね。俺が倒れてる時間をわざと長くしてた(笑)。
──MVを見て、去年亡くなった小説家の西村賢太さんを思い出しました。
伊藤:そうですか……。
──影響は受けてますよね?
伊藤:それが自分の曲に出てるかどうかはわからないけど、読んでたし好きでした。今も好きです。
──孤独も西村さんの世界観に通じるんじゃないかと。なんか、孤独を否定してないというか。
伊藤:でもあの人は本当に、いろいろ辛い思いをして生きていたと思います。俺はそこまで辛い思いをしてないですよ。
──あぁ、そういう歌詞、ありますね。どれだっけな…。
スージー:「エンドロール」ですね。
──そうそう。“世界を裏返すほど強くはなくて 誰も救えないほど弱くはなくて 僕はあの日のまま”。いいですよね~。やっぱポツンと孤独ですよね。
伊藤:やっぱりそういう世界観しか書けなくなったんですかね(笑)。
──でもとても自然で正直だと思います。
伊藤:そうなのかもしれないですね。
──妄想は現実に着地してると思うし。とにかく今作、私はとても好きです。
スージー:今作がダメなら引退します。
──えー、引退しないでください。
スージー:それほど自信作ってことです(笑)。