若い2人が引っ張ってくれるのでおじさんたちも頑張らないと
──『Gerato』も今作『残夜の汀線』もバラエティ豊かですが、趣はだいぶ違いますよね。今作、ポップだし、勢いや疾走感があるし、唄えるし。そこにオールディックの独特なムードが貫かれてる。例えば、明るいのか暗いのかわからないような曲がオールディックにはあって、それが今作にとても感じる。明るいけど妙にシリアス。
伊藤雄和(Vocal, Mandolin):芸風が固まってきたんじゃないですかね。
──ホントそうだと思います。演奏もダイナミックになって。
スージー:演奏は新メンバーによるところが大きいです。ベースのグルーヴとか。
鹿児島:あんまり淡々としたベースを弾かないから。
スージー:そこはデカいよね。ウネリも出せるし。ベースが面白いことやってくれて、アコーディオンが乗っかっていって。こっちがそこに乗っかるみたいな。だから2人の存在は大きいです。おじさんたちも頑張らないと。若い2人に引っ張られて、若い2人が引っ張ってくれてます。
──最初に作った曲は? あと軸になった曲はありますか? やっぱアルバムのタイトルチューン「残夜の汀線」かな。
スージー:最初に出来たのは朋ちゃんが唄う「ゆらゆら」だよね。
伊藤:最初に手を着けたのは「ゆらゆら」。最初から朋ちゃんが唄うのを想定してました。「残夜の汀線」は最後だったかな。歌詞を準備してなかったんで、レコーディングの初日と2日目だけはスタジオに行って、そこから1週間、俺は行かなくて良くて。その間に歌詞を毎日延々と書いてました。
──レコーディングに入ってから1週間?
伊藤:はい。全曲。
──えぇー! 「残夜の汀線」だけじゃなく、全曲?
伊藤:はい。曲はあったんですよ。でも歌詞はプリプロまでまったく出来てなくて。
スージー:仮歌で唄ってましたね。
伊藤:仮歌で、なんとなく出てきた歌詞とか誰かの歌詞とかを適当に面白おかしく唄って。
──もう一回聞くけど、1週間で全11曲の歌詞を書いたんですか?
伊藤:そうですって(笑)。あ、9曲だったかな。
──凄い。周りは焦らなかった?
スージー:だいたいいつもそんな感じですから。
──大変ですね(笑)。
伊藤:最初、仮歌では適当な歌詞をつけて唄うんですけど、ふざけた歌詞なんですよ。そういう歌詞がしっくりくることもあるんですが、今回は、「残夜の汀線」なんかも唄ってるうちにふざけた歌詞に違和感というか。邪魔になってきちゃったんですよね。
──より自然体になったっていうことでしょうか?
伊藤:そうなんでしょうね。なんかね、疲れちゃうんですよ、ふざけるのって。
スージー:「残夜の汀線」は曲調が明るくはないからね。
スージー(Electric Guitar, Acoustic Guitar, Gut Guitar, Maccaferri Guitar, Chorus)
四條未来(5 String Banjo)
──「残夜の汀線」の歌詞はスケール感があって同時にリアリティもある。音に反映されて出てきた言葉ですか?
伊藤:それはありますね。
──自然に出てくる感じ? 自分の中から引っ張り出す感じ?
伊藤:引っ張ったかな? 引っ張ったら出てきたのかな? 引っ張ってはいないかも。いや、引っ張り出したか。
──引っ張ったって言葉にこだわらなくても…(笑)。「残夜の汀線」はレゲエで、間奏で途中からウワーッと音が集まってくるとこがあって、生きてる! って感じで凄くいいです。アコーディオンがメインにきてるのも凄くいい。
朋子:ありがとうございます。
──イキイキとしつつ、何が起きるかわからない不穏さがあるんですよね。
順堂:やったことない曲調なんだけど、ポリス風だよね。
スージー:そうそう。
──なるほど。でも音数の多さが良かった。いい感じの雑多感。
順堂:抜きと射しが。ダブ的な。
──そうそう。静と動。レゲエ、スパニッシュ、アイリッシュパンク…。バラエティあるアルバムなんだけど、バラエティをどう意識したのか……。例えば『Gerato』は、こんなことやったら面白いだろう、こんなことやったらびっくりするだろう、そういう発想があったと思うんですよ。でも今作はそれとは違いますよね。
四條未来(5 String Banjo):『Gerato』は90年代のバンドのような曲を、ウッドベースやアコースティックの楽器でやったら面白いかなっていう。メタルをウッドベースでやったらどうなるだろう? とか。ちょっと実験的なことをやろうって意識でしたね。今回はそういうのは全く考えずに。なんていうか、ストレートに作ってみようって。やっぱりベースがエレキになったのはデカいですね。昔の話になりますが、最初の頃はバンド自体にラスティックって意識があって、対バンもそういうバンドが多くて。そうすると他と差をつけたいって、工夫していろんなことやってたんです。ライブでは生楽器が聴こえないって言われて、はみ出してでも聴かせたいって余計な音も出してました。今はライブもレコーディングも環境が良くなって、アコースティックの楽器もちゃんと音を出してもらえるんで。奇をてらった感じはなくなり、曲、音楽にストレートに向かってる感じです。
──うん。ストレートですよね。
四條:僕はアンダーグラウンドのものばかり聴いてきたので。より多くの人に聴いてもらうにはどうすべきか、だんだんと考えるようになって、雑音になりがちの音はカットしていって、そうやって今回に辿り着いたかなって、個人的には思ってます。