石井麻木さんの写真絵本『ただいま、おかえり。3.11からのあのこたち』(世界文化社)が出版された。2011年から毎月11日、必ず東北へ通い続けている。触れ合い、話し、泣き、そして笑い合い、変わり果てた景色と前へ踏み出していく景色、手付かずの景色とも、向き合っている。そんな日々を過ごした麻木さんだから写せる写真。写心。12年間の多くの写真から選び抜いた写真と、一文字一文字に想いを込めた言葉。
『ただいま、おかえり。3.11からのあのこたち』には、あの日からの子どもたちがいて、子どもたちの笑顔は眩しく未来を感じる。忘れてはいけないこと、大切にしなければいけないこと、未来に繋いでいかなければならないことを、語り掛けてくるようだ。写真集とは違った表情の写真絵本。ぜひ手にとってほしい。
そして写真展『3.11からの手紙/音の声』が今年も3月11日(土)からスタート。福島県から始まり全国各地を廻る予定の写真展は、『ただいま、おかえり。3.11からのあのこたち』のパネル展も併せて開催される。私も東北の人の笑顔に会いに行こう、必ず。(interview:遠藤妙子)
12年。今年はあのとき生まれた子たちが小学校を卒業する年
──今月(取材時は2月)も11日は東北に?
石井:はい! 行きました。福島に。
──泊まりですか?
石井:いえ、日帰りです。いつも車で朝早く向かって夜中に帰ってきます。
──「泊まっていけ」って言われるでしょう?(笑)
石井:言われます。「ごはん食べてお風呂入って泊まってけ」って(笑)。
──ひと言では言えないと思いますが、東北に毎月通っていて変化を感じますか?
石井:感じます。顕著なのは子どもたちの成長ですね。急に背が伸びてたり、声変わりしていたり。親戚のおばちゃんみたいな気持ちです(笑)。
──あ、そういう意味で、この『ただいま、おかえり。3.11からのあのこたち』の最後のほうに出てくる中学生たち、びっくりしました。もちろん私は会ったことないんだけど、大きくなったねー! って思ったりした(笑)。
石井:私もびっくりしました。こんなに大きくなったー! って。毎月通っていてもびっくりします(笑)。震災当時は2歳か3歳だった子どもたちがこんなに大きくなってるんですよね。
──通い続けて、見続けているから写せる写真ばかりですよね。麻木さんだから写せる写心。
石井:そう感じていただけて嬉しいです。実際、当時8歳とか9歳だった子が成人式を迎えて、成人する姿を見ることができてとても感慨深かったです。今年はあのとき生まれた子が小学校を卒業する年なんです。12年。小学校卒業の年齢なら命や死というものも理解でき始める年ですし、そういう子たちにわかりやすいように、そして震災を経験していない方たちや、もっと年下の震災を知らない子どもたちにも向けて。『ただいま、おかえり。3.11からのあのこたち』はそういう気持ちも込めています。
──写真絵本を出そうと思ったのは、成長していく子どもたちを見て?
石井:そうですね。最初のきっかけは去年の3月に出版社(世界文化社)の編集者の方にお話をいただいて。その方と一年間かけて、二人三脚で作りました。その編集者さんは写真展『3.11からの手紙/音の声』を毎年何度も見に来てくださっていて。2021年に小学校の校舎全体を会場にしたときなど、とても感銘を受けてくださっていて。
──旧杉並区立杉並第四小学校が会場で、凄く良かったですよね! 会場と調和していて。
石井:そうなんですよ! 校庭でサッカーをしている声が聞こえて、その子どもたちの声や笑い声も会場の校舎に響いてきて。編集者さんもとても良かったと言ってくださって。絵本を作っていく上で、そのイメージもあったんです。
──日常とつながってるっていう?
石井:そうです。
──震災に遭っていない私たちの日常ともつながっているし……。
石井:そして震災に遭われた方たちも、もちろん日常は続いているんですよね。
──そうですね。麻木さんの写真からとても伝わります。
石井:あと今年出版したいと思ったのは、今年は13回忌という大事な年なんです。風化してきてしまっているというのも事実なので、この年に出せたらと。自分ができる範囲で伝えていきたいという想いで、12年分を、今の自分が自分として表現できる形で、想いや願いを全て詰め込んで作らせていただきました。
──「写真絵本」という表現のスタイルがとても素敵です。以前、2014年と2017年に写真本『3.11からの手紙/音の声』を出しましたが、ドキュメンタリーという感じの写真本でしたよね。『3.11からの手紙/音の声』と『ただいま、おかえり。3.11からのあのこたち』、同じ写真、同じ言葉もあるけど見え方は違いますね。
石井:はい。同じでも違うんですよね。伝え方、表現の仕方で変わってくる。2017年に出した『3.11からの手紙/音の声』は6年分をまとめたもので、今回の『ただいま、おかえり。3.11からのあのこたち』は12年分っていう月日の違いもあるんですけど、絵本っていう媒体は初めてでした。写真もことばも自分で。最初に出したものもそうなんですけど、やっぱり2冊の表現の仕方は違っていて、なんていうか今回はもうちょっとこう……、短い言葉と大きめの写真で、子どもたちにもわかりやすく届けたいって。震災を知らない世代の子どもたちへ届けたい、繋げていかなきゃっていう気持ちはずっとあったので、写真絵本という表現に行き着きました。
──『3.11からの手紙/音の声』は感情が溢れ出ていると感じました。写真の日付も書いてあって、その生々しさであったり。
石井:確かにそうですね。今回の『ただいま、おかえり。3.11からのあのこたち』は敢えて日にちと場所を外したんです。作りたかったのは教科書じゃなくて報道の本でもなくて、写真絵本だったので。絵本ってやっぱり想像力が一番大事だと思って。説明し過ぎず、余白を残しつつ、ちゃんと自分の言葉と写真で事実を伝えながらもできるだけやわらかく伝えたいと思いました。
──『ただいま、おかえり。3.11からのあのこたち』は、削って削って、でも大きく大きく見せる。
石井:そうですね。一番難しいやり方に敢えて挑戦しました。
──ドキュメンタリー的な『3.11からの手紙/音の声』は言ってしまえば逆で。たくさんの写真と具体的な言葉で、ワーッてあるものをギュッと凝縮して見せる。
石井:ワーッとしてギュッと(笑)。そうですね、本当にそうです。両方とも、広く見れば同じことを伝えてるんですけど、でも表現の仕方次第でこんなにも違うんだと。私にとってはどちらも大事です。