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INTERVIEW

トップインタビュー石井麻木(写真家)- 20年間一貫した、心と心で被写体と向き合う"写心"の眼差し

20年間一貫した、心と心で被写体と向き合う“写心”の眼差し

2022.09.23

 石井麻木さんの個展『20年の眼』が東京に続き、9月29日(木)から大阪で開催。さらに仙台での開催も決定した。
 私は麻木さんの写真を、東日本大震災の後の写真展『3.11からの手紙/音の声』で初めて見た。東北を被災地としてではなく、人々が生活し生きる場所として写す麻木さんの眼差しを感じる写真に、胸を打たれた。
 そしてポートレートや風景写真、ライブ写真などの作品を集めた『20年の眼』が、ニコンプラザ東京THE GALLERYに続き、9月29日(木)からニコンプラザ大阪THE GALLERY、10月19日(水)から仙台三越 定禅寺通り館1階 光の広場で開催。
 カメラを手にして20年。20年の中で出会った人々、出会った景色。そこにある光と影。麻木さんの作品からは、「光」と「影」とは「明るい」と「暗い」だけではない様々な表情があり、「光」と「影」は呼応しているのだと気づかされる。人間もそうかもしれない。麻木さんの眼差しは、心に向かい心を包み、様々な表情の瞬間を捉える。
 撮りおろしやスライドショーで見られるカンボジアの写真も含めた、20年間から厳選された作品たち。麻木さんの眼は何を見てきたのか。どう見てきたのか。活動と共にその眼差しを探る。(interview:遠藤妙子)
 ※記事内の写真はすべて石井麻木さんの撮影によるものです(トップページのメイン写真は除く)。

“写真”とはその時々の心が写る“写心”

──今回の個展は『20年の眼』というタイトルにあるように、写真家になって20年を記念しての個展ですか?

石井:はい。写し始めて20年になるんですけど、10年目までは毎年1回、個展を開催していたんです。でも2011年に東日本大震災が起きてから毎月東北を写させていただくようになり、東北の現状を伝える写真展を毎年行ないたく、その年からこちらの個展は5年に1回にしました。ちょうど今年(2022年)が5年に1回の年と20年目の年が重なったんです。

──麻木さんの東日本大震災以降の東北の写真やライブ写真は『3.11からの手紙/音の声』で見てましたが、今回のようなポートレートや風景の写真は初めて見ました。私は写真の知識はないんですが、麻木さんの写真だぁ! って思ったんですね。東北の写真もライブ写真も風景の写真も繋がっているというか、貫かれているものを感じて。

石井:嬉しいです。

──麻木さんは写真を写心って言っていますが、どういうきっかけか改めて教えてください。

石井:カメラを仕事として始める前の17歳のときに両親が離婚して。父親が家を出たんですけど、Nikonのカメラを置いていったんです。私はそのカメラを持って学校を一週間休んで一人旅に出ました。いろんな場所で写真を撮って、後で現像して見たら、うわぁ、寂しい…って感じる写真ばかりで。そのときの私は見るものすべて寂しかったんでしょうね。写真ってこんなに心が写るんだって思って。その後、人を写させていただくようになって、笑顔で写したら笑ってるような写真になって。その時々の心が写るんだって。それで写心って言葉が自分の中から出てきたんです。

──意識しなくても自分の心が写る。写真の面白さなんでしょうね。

石井:そうなんです。その前は絵を描いていて、でも17歳という多感な時期にカメラを手にしてからは写真ばっかり。絵はゼロから自分で創るものだけど、写真は在るものがないと写せない。撮りたいものが存在しないと写せないですよね。それが人でも風景でも何か物でも。そこで、いかに自分らしく写すというか……。自分はどう見えているか。その世界をどう見つめているのか。自分の目線で、自分の眼差しでっていう。そういう面白さですね。

──そこなんですよ! 目線、眼差し、それは麻木さんの独自のもので。だからどの写真を見ても麻木さんの写真だってわかるというか、伝わるというか。

石井:わー、嬉しいです。

──麻木さんの眼差しって、被写体を尊重している感じがとてもするんです。被写体が人であるならもちろんのこと、風景であっても。あ、風景こそ尊重するものかな。とにかく被写体を尊重している。

石井:はい! そうなんです! そうありたいと思ってます。ライブであれポートレートであれスナップであれ、向き合わないと撮れないし、尊敬して尊重していないと向き合えないし、写せないと思っていて。心と心、そういう関係性で撮らせていただいています。そこを大事にしたいっていうのが凄くあって。

──だから自然体でありのままが写っているんでしょうね。そのありのままこそ被写体を尊重しているっていう麻木さんのスタンスの現れで。

石井:風景も…、風景こそ誰が撮っても同じって思われるかもしれないけど、やっぱり違うんです。どこを切り取るか、どの瞬間を切り取るかで全然違ってくる。風景写真を今回初めて見たって方が多くて。ライブ写真や東北の写真は多くの方が見てくださってるんですけど。原点を知ってもらえたのは凄く嬉しい。

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──今回の展示の中で最初に撮影したのが、街の路地を背景とした「黒猫とおじいさん」。どこの街なんですか?

石井:パリです。黒猫と、その向こうにおじいさんがいて。とても惹きつけられて。

──両側に建物があって真ん中の路地に猫とその向こうにおじいさん。片側の建物に日が当たっていて片側は当たってない。いいですよねぇ。

石井:夕暮れ前だったと思います。たまたまちょっと遠くに猫がいて、その先のほうにおじいさんがいて。猫とおじいさんはお互い知らない同士で、気づいてない感じで。

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──あとステキな写真が、女性が、顔は見えないんだけど出かけていこうとしてるところかな。タイトルが「羽の色」。

石井:片平里菜ちゃんです。誰もがきっと見えない羽を持っていて、飛ぶも飛ばないも自分次第だと思うんですけど、私にはこのとき、里菜ちゃんに、凄い、ホントに、羽が見えたんですよ。かっこいいし美しい。

──なんか、「行くぞ」って心の声が聞こえてくるように感じました。でも里菜さんは下を向いているし、写真を見た人によって印象は違うかもしれない。

石井:そういうのがいいんです。人それぞれでイメージが沸くような。

LIVE INFOライブ情報

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THE GALLERY 企画展
石井麻木写真展 “20年の眼”
Maki Ishii Photo Exhibition “20years”
2022年9月29日(木)~10月12日(水)※日曜休館
10:30~18:30(最終日は15:00まで)
※詳細はこちら
 

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追加開催決定!
石井麻木写真展 “20年の眼”
Maki Ishii Photo Exhibition “20years”
2022年10月19日(水)~10月25日(火)
10:00~19:00(最終日は18:00まで)
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