LUCYがシーナの歌を大事にしてくれる
──そんなシーナさんの誕生日である11月23日には、昨年に続き今年もわが新宿ロフトでシーナ&ロケッツの初ステージから45年目突入を祝う特別なライブを開催していただいて有難い限りです。
鮎川:こちらこそ、今年もありがとうございます。
──LUCYさんは以前、ロケッツの特別なライブにのみ参加するスタンスだったと思いますが、今年の『HIGHWAY 47 REVISITED! TOUR 2022』には全面的に参加されていますね。
LUCY:特に何も決めてないんですよ。お父さんから唄ってくれとか正式にオファーがあったわけでもないし、唄える日は唄ってくれと言われてるだけなんです。
鮎川:義務でバンドをやるようにLUCYが思うたら大変やし、そもそも無理に唄うもんでもないしね。僕と奈良と川嶋で回れる所は回ったりしよったけど、たとえば「CRY CRY CRY」やらを唄いたいなとか思うても男が唄うとしっくり来んし、LUCYが唄ってくれると嬉しい。パンクやし、大事にしてくれるんよ、シーナの歌を。僕が無理やりこの曲を聴けとかこれを好きになれとか言うんじゃなしに好いてくれるし、しかもちゃんとあるんよね、流儀が。
──流儀ですか。
鮎川:そう、ロックの流儀。それをちゃんと分かっとるんよ。「え? どういうこと?」とか絶対言わんのよ。「ああ、そうなったん?」みたいな感じで、音楽が始まったら音楽を作る側にすぐ入れる。「何回数えたら唄うんやったっけ?」とかそんな次元じゃなく、僕の望みの音楽を同じ波長でやってくれる。そもそもLUCYはロケッツのレコーディングのときにシーナのお腹におったり、子どもの頃からいつも楽屋におったしね。それにLUCYの声は赤ちゃんのときからレコーディングでいっぱい入っとるんよ。「マイク持って唄う〜!」とか言うて(笑)。それはまずレコードにはならんのだけど、「PRETTY LITTLE BOY」をレコーディングしたときにまだ1歳ちょっとの彼女の泣き声が入ったこともあったね。
──奈良さんはLUCYさんというボーカリストをどう評価していますか。
奈良:最高じゃないですか。唄い始めた頃と比べてまだ成長しとるし、伸びしろが凄いですよ。存在感が同世代のボーカリストの中でも桁外れですよね。
──LUCYさんはロケッツのレパートリーをほぼ唄えるんですか。
LUCY:唄えます。私が幼稚園の頃、お父さんが全部テープに入れてくれたので。確か13本くらいまであったと思うんですけど。お父さんたちはツアーが多くて、家にいないことも多かったんです。そんなときは若いバンドマンが家に来て面倒を見てくれて、髪の毛がカラフルなパンク兄ちゃんたちが味噌汁とかを作ってくれたりして(笑)。でも私はお母さん子だったからいないのが凄い寂しくて、シナロケのテープをずっと聴いてました。お母さんが表紙の雑誌を抱きかかえながら寝たりして。とにかくお母さんが大好きで、見た目も大好きで。
──年々、容姿と声がお母様とそっくりになってきたように感じますが。
LUCY:そんなことないですよ。シーナのほうがもっと可愛いし、もっといろんな歌が唄えるし、シャウトができるし、表現力が凄いんです。私はシーナに比べてもっと男っぽいんじゃないかな。シーナは可愛いし激しいし、もっと本能的だと思います。
鮎川:ボーカリストとしてのシーナは、凄いリズム感を持っとったね。
LUCY:リズム感もいいし、音程もいいし。その二つを兼ね備えたボーカリストってなかなかいないんですよ。バンドの轟音の中でリズム感と音程をキープして唄うのは本当に難しいことだし、それは骨太なロックの中でずっと唄ってきたからこそ鍛え上げられたものですよね。
──今はLUCYさんのリクエストでセットリストが決まることもあるんですか。
LUCY:「これ唄いたい」っていうのはありますよ。
鮎川:そういうのがもの凄く嬉しい。なんでも言うてくれっち思うし、そうやって過去の曲が2022年の今またここにあるっていうのが僕にとってはシビれることでね。毎回同じセットリストに飽きとるファンもいるやろうけど、初めてシナロケを聴いてくれる人のためにも「レモンティ」や「ユー・メイ・ドリーム」は絶対やりたいし、他にも「ハッピー・ハウス」はやっておきたいし、阿久悠さんから詞をもらった「ロックが好きなベイビー抱いて」も自慢の一曲だし…っていうのがライブではたくさんある。その合間にLUCYからひょっこり「『HELP ME』を唄いたい」と言われるのはとても嬉しいし、新たなチャレンジでもあるんよね。
LUCY:本当に新たなチャレンジなんです。「HELP ME」はシーナのソロ・アルバム(『いつだってビューティフル』)に入ってる曲で、プロデューサーの細野(晴臣)さんがアレンジをけっこういじって面白い音がいっぱい入ってる打ち込みっぽい曲で、それをバンドでどうやるんだ? という楽しさがあるし、自ずと新しくなるんです。そういうチャレンジはどんどんやっています。
鮎川:ロフトのセットリストはまだ何も考えてないけど、シーナのバースディにふさわしい選曲で臨みたいね。それと僕らは最新の音を狙いたいと思いつつもヴィンテージ・サウンドにこだわっとるし、ロックの時代を生き抜いてきた僕のレスポールとマーシャルから出る音、それも直に出る音をぜひ堪能してほしい。50年経ってもまだ元気にしてる楽器の持つ音色をぜひロフトで聴いてほしいね。
LUCY:ギターの音は本当に最高なんです。私もいろんなバンドのライブを見に行きますけど、ギターの音の細さにびっくりするんですよ。アンプ直でこんなにいい音を鳴らすギターをもっとたくさんの人たちに聴いてほしいです。
奈良:アンプ直はごまかしが効かないから難しいんですよ。
──オーバーダブなど小細工皆無の『ASAP』のようなアルバムを録って出しで堂々とリリースできるのは、鮎川さんも奈良さんもごまかしの効かないステージを50年以上やり続けてきた生粋のバンドマンだからなんでしょうね。
鮎川:いつだって出たとこ勝負やし、吐いた息は戻らないという思いでやっとるから。ライブって本来そういうもんやし、こんな音もあるんだぜっちうのを聴いてほしい。前はみんなこんな音を出しよったのに、なんかこう、今は窮屈な音が多いし。泣き言を言う歌も多いし。