誰の心にも宇宙は存在する
──「春夢 April Cool」はT・レックスっぽいと言うかグラムロックっぽいと言うか、こうしたミッドテンポで爽快さを感じさせる曲は珍しいケースですね。
宙也:今のところね。
レイコ:誤解を恐れずに言うと、私にとっては休憩の曲ですね(笑)。めっちゃラク。
ERY:それほど力まずに弾ける曲ですね。いい感じにフレーズを聴かせられるし、8ビートが多い中でこの曲は少し動きもあって横ノリが出しやすい。
レイコ:華やかに楽しめる感じがあるよね。
秀樹:みんなの言う通り、楽しく明るくがテーマと言えばテーマだったのかな。宙也さんが唄いながらふざけている感じと言うか、ミック・ジャガーみたいに腰を振るイメージが歌のニュアンスとしてありました。その感じで唄ってもらえれば、この手の曲もファロキには絶対合うだろうと思って。
──「この世では会えないけど 春にはまたね」という歌詞がありますが、泉下の人に向けた歌なんでしょうか?
宙也:そこは自由に受け取ってもらえたらいいかな。桜の咲く頃に会えなかった人たちに思いを馳せて書き上げたラブソングです。
──まるで短編小説のような趣きや余韻を感じさせる歌詞ですね。
宙也:ロック界の太宰(治)と呼んでください(笑)。
秀樹:あらゆる表現は文学であると。われわれは音楽を使って文学の世界を表現している、それを“ファロキ文学”と名づけたいと思います(笑)。
宙也:若い頃は「歌詞が文学的ですね」と言われたり、ストレートなロックンロールと言われたり、ラブソングと評されるのがなんか嫌だった。他の人たちとは違う表現をしたいと絶えず考えていたし、ロックンロールって言葉が恥ずかしい時代だったから。でも今は大手を振ってロックンロールをやってるぜと言いたいし、自分なりのラブソングを唄っていきたい。ファロキは特にそんな感じだね。
Photo by Yoan Clochon
──「Godspeed U」は作品の大団円を飾るに相応しい壮大な世界観を感じさせる曲で、ファロキ流“My Way”みたいな雰囲気がありますね。
秀樹:まさに「My Way」のような曲を作るのがテーマでした。フランク・シナトラの「My Way」か、越路吹雪の「ラストダンスは私に」みたいなね。そのバンド・バージョン、パンク・バージョンをやりたいという構想から始まって。ストリングスはほぼ「My Way」ですけど(笑)。
──「サクラが泣いてる」という歌詞からも「春夢 April Cool」と同じ季節の歌だと分かりますね。
宙也:「Godspeed U」はコロナ禍じゃないと書けなかったかな。会いたい、触れたい、でも今それは叶わないという歌だから。今回の5曲はどれもコロナの時期だからこそ書けた曲と言えるかもしれない。その意味では、コロナはラブソングを書きたいという上で格好のシチュエーションでもあった。会いたくても会えないもどかしさ、埋めることのできない距離が常にあったからね。
──「Godspeed U」にも「宙のギンガ」という歌詞があるし、そもそも宙也さんの名前の中に“宙”という言葉があるし、宇宙がキーワードの一つとしてあったんでしょうか。
宙也:言われてみればそうだね。宇宙、宇宙と言ってるわりには宇宙のことをよく分かってないんだけど(笑)。ただ、宇宙のことはいつも意識しているのかもしれない。実際の宇宙空間だけではなく、誰の心にも宇宙は存在するんだよ。東日本大震災以降、コロナ禍があり現在に至る10年間というのは俺の中で繋がっていて、その過程でアレルギーが復活し、ファロキが生まれてまた新しい歌詞を書ける大きな喜びがあった。秀樹がロックンロールを紡ぎ、2人のビートが共鳴したときにそれまで俺の中で鬱屈していたものを一気に解き放つことができて、「会いたいから会いたい」というシンプルな言葉に行き着いた。それが俺の宇宙。
──秀樹さんのメロディはもとより、レイコさんとERYさんが織り成すリズム&ビートが鋭利でストレートだから、それと呼応するように宙也さんの歌詞もシンプルだけどブレのない言葉が出てくるようになったのでは?
宙也:秀樹はよく分かってるけど、俺の歌はビートに大きく左右されるからね。腰の辺りにビートを感受する機能がある気がするし。それと、ギターのリフ、ベースとドラムのビートに呼ばれる語感を俺は大事にしたいし、バーン!と音が鳴ったときに出てくる言葉が“あ行”にするか“か行”にするかでだいぶ印象が変わるから、言葉は慎重に選びたい。響きを大切にしつつ、ちゃんと意味も持たせなきゃいけないからね。サウンドがシンプルなだけに発想も出てくるものもシンプルにしなくちゃいけないけど、最近はその作業が凄く楽しい。レイコとERYのビートや音の強弱によって俺の歌と歌詞も変わるから。