何を唄ってもラブソングだし、どんなことを唄っても自由
──今作『LOVE FROM FAR EAST』が5曲収録という体裁になったのは、フルアルバムを出すには時期尚早という考えがあったからですか。
秀樹:小出しにしたほうが話題も増えるし、バンドが動いてる感じもより多く打ち出せるのかなと思ったんです。フル尺のアルバムは今の時代だと重く受け取られるのかもしれないという読みもあって。
──ギター・ソロが敬遠されたり、映画を早送りで観る人たちも多いと聞きますしね。
秀樹:もちろんいずれはアルバムを出したいけど、今はまだミニマムな形でリリースを続けたほうがいいのかなと。これでバンドの知名度的にもライブの動員的にもぐんと上がれば見せ方を考えなくちゃいけないんだろうけど、今の段階ではこのスタイルがいいのかなと思いますね。
Photo by Yoan Clochon
──精選された5曲はどう決めたんですか。ライブで手応えのあった曲を優先してとか?
秀樹:基本的にはそうですね。去年からライブでやってきた曲の中から選びました。
──タイトルに“LOVE”という言葉があるように、ファロキなりのラブソングを集約させた作品のようにも感じます。
宙也:俺が還暦を過ぎたのを境に、これからはラブソングしか唄わないと決めたんです。ラブソングにもいろいろあって、社会に反抗する歌でも内なる陰鬱さを見つめた歌でも全部ラブソングにしてしまいたい。なにも「I Love You」と唄う曲ばかりがラブソングじゃないと思うし。
──ちょっと飛躍しますけど、たとえば「WAR DANCE」みたいな曲でもラブソングだと敢えて言いたいと?
宙也:そう。反戦歌と言われたくないし、あの曲も大きな意味でラブソングだと捉えたい。そういう自分なりのテーマの一つだね。それに何を唄ってもラブソングなんだし、どんなことを唄っても自由でいいんじゃないかと思って。と言うのも、40年以上バンドをやってきて、これだけ多くの歌詞を書いていると「この言葉は前に使ったな」とか「このテーマはあのとき唄ったな」というケースが多いわけ。
──「愛のプロレタリア」の中に「突然の炎」という歌詞が出てきますが、どうしてもDe-LAXの「突然炎のごとく」を連想してしまいますし。
宙也:それはわざと(笑)。
秀樹:ああ、オマージュだったのか(笑)。
──そういう言葉遊びにも似たことができるほどファロキは自由だという言い方もできませんか。
宙也:このバンドはいろんな意味で自由だね。フルアルバムで出すかミニアルバムにするか、CDで出すか配信だけにするかも自由だし、メジャーに縛られてるわけじゃないからね。
──リード曲はミュージックビデオも作られた「愛のプロレタリア」しかないと当初から考えていたんですか。
秀樹:「愛のプロレタリア」を推したいと言ったのは宙也さんなんです。
宙也:秀樹が聞き直したもんね。「エッ、これで行きます?」って。
秀樹:僕は「Godspeed U」が一番分かりやすいのかなと思っていたんですけど、「愛のプロレタリア」は歌詞が今の時代っぽいし、詞先の曲を推すのもいいんじゃないかと思って。ダンサブルなディスコビートに関しては、僕らと同世代の人たちにはクスッと笑っていただければいいなと言うか。
──「世界を支配しようと思う」から始まる台詞を曲中に挿入するのは秀樹さんのアイディアだったんですか。
秀樹:はい。間奏で「何かやってください」とお願いしたんです。
宙也:台詞というオーダーじゃなくて、「ここで何かやって」と言われたんだよね。
──斜め上を行く無茶振りですね(笑)。
秀樹:淡々と喋りを入れても良かったし、何かくださいと。その出てきた言葉に対していろいろエフェクトを掛ければいいかなと思っていたんだけど、あんなにちゃんとした台詞になるとは思わなかったんです。
宙也:え、そうなの?(笑)
──「ボクは元スパイ 国際的なプレイボーイ」というキザな台詞ですけど、宙也さんが話すと不思議と嫌味に聞こえませんね。
秀樹:他の人が喋ると絶対嫌味になるでしょうね。だから僕は宙也さんのことを「東の柴山(俊之)さん」と呼んでます(笑)。
宙也:それは畏れ多いよ(笑)。秀樹の作る曲はブリティッシュ・ロックや50年代のアメリカのロックンロールを踏襲しつつ、昭和の日本の歌謡曲が適度にいい感じでミックスされている。そのバランスがDe-LAXの頃より絶妙なんだよね。歌謡曲的なメロディと洋楽的なロックのリフが混じり合ったファロキみたいな曲って今意外とありそうでないと思う。