ギターを弾きながら唄うことで生まれる狂気の歌
──そうした苦行にも似た練習をしなければならないのを予め覚悟してもなお、今この時代にfOULを蘇生させたい気持ちが強くあったということですよね?
谷口:そうですね。BEYONDSでの表現が決してダメだったわけではないんですけど、ギターを弾きながら唄う自分の発狂ぶりと言うんですかね。弾きながら歌に出てくる狂気の沙汰と言うべき唄い方や声、感情のわだかまりみたいなものは、やっぱり弾いているときにしか出てこないものなんです。「向こう三年の通暁者」みたいな歌は特にそうですね。どれだけギターがままならないものでも、ボーカルだけでは出てこない何かが弾いてるときに出てくるんです。ある種のカタルシスというのは、苦行があるからこそ生まれるものなのかなと思うんですよね。だからギターがおざなりでも…本来はおざなりになってはいけないんだけれども、歌がなしになる箇所がfOULの曲にはほとんどないんですよ。2人がずっと音を出してるときでも僕は青息吐息で絶えず声を出してるし、その特異な声はやはりギターを弾いてるからこそなんだとFEVERでライブをやって実感しましたね。
──複数回の練習よりも一度の本番で得られるものは多いにあるんでしょうね。
谷口:でも今は練習がとにかく楽しいんです。ギターを弾くのが純粋に楽しい。一人で弾いていても楽しくはないけど、3人で音を合わせていると思わず「ヤベェ!」と震える瞬間が多々あるんです。逆に言えば、従来の歌だけというのは何て寂しいんだろうと思いました。fOULでは僕の歌を映えさせてくれるし、ギターを弾かなくても映えさせてくれるし、弾いたら弾いたで映えさせてくれる。とても楽しいですよ。
──FEVERでのライブですが、実際にやってみていかがでしたか。
大地:17年ぶりのライブということでのめり込みすぎたっていうのもあるんですけど、まあガチガチでしたね。
谷口:ガチガチだったなあ、僕も。
平松:俺も凄い緊張しました。
大地:やっぱり期待されてるって部分に載っかっちゃってたと言うか。映画もあったし、映画の中では上手く切り取られてあれだけの演奏をしてるわけで、クオリティとしてそれくらいのレベルを求められるんじゃないか? っていうのがあって。自分としては、FEVERのライブまでに練習が間に合わなかったとしても全力で今のfOULを出せればいいと思ったけど、休止前のfOULと比較されることを考えると平常心ではいられなかったですね。特にライブがスタートして4、5曲くらいはそんな感じでした。だんだんとその場の雰囲気を感じられるようになってからはちょっと落ち着きましたけどね。
平松:自分としてはずっと待ち望んでいた場所であり景色だったんですよ、お客さんの誰よりも。
大地:そうだよね。何より自分たちが待ち望んでた空間だった。だから余計に気負うものがあったんじゃないかな。
平松:ステージに立つまでは泣き崩れるんじゃないか? とか、いろいろと考えていたんです。フロアにいる顔馴染みの誰かと目が合っても平然としていられるかな? とか。でも実際に始まったら、とにかく必死(笑)。最初の3曲くらいは全然余裕がなかったし、徐々に健ちゃんと大地さんの顔を見られるようになって…「フッサリアーナ」くらいでやっと肩の力が抜けました。そこからは楽しかったですね。でもやっぱり、全体としては必死だったかな(笑)。
──映画『fOUL』が発火点の一つになったのかもしれませんけど、それがfOUL再始動に至る直接の要因ではありませんよね?
谷口:映画が要因ではないと僕は思っています。ただ映画の完成形がだんだん近づくにつれ、fOULをやりたい僕らの気持ちが高まっていくのとタイミングが重なったのは確かです。仮にあの映画がなかったとしても、いつかはfOULをやりたいという気持ちが3人それぞれにあったと思うんですよ。まだ再始動していなければ「もういい加減、fOULをやりませんか?」みたいな話が断続的にあっただろうし。
撮影:菊池茂夫(トップページのアーティスト写真も含む)
──イースタンユース主宰のコンピレーション『極東最前線 2』(2008年7月発表)収録の「Decade」をレコーディングするために集結することはあっても、ライブ活動は17年間“休憩”のままでしたよね。これまでも絶えずライブのオファーがあったんじゃないかと思いますが。
大地:カメラマンの菊池(茂夫)さんが写真家生活30周年で新宿LOFTでライブをやるということで、fOULを呼びたいって話をもらったよね。
谷口:あと、吉野(寿)くんの意向かは分からないけど『極東最前線』の何かの節目でfOULとしてやれないか? とか。大変申し訳なかったんですが、当時の僕にはBEYONDSがあったのでいずれも丁重にお断りをさせていただきました。
平松:3人でまたfOULをやりたい気持ちが消えたことはこれまで一度もなかったけど、俺も日々の生活に追われてましたからね。
谷口:これだけ長くfOULをやっていない時間が経つと、3人の気持ちが同じ温度を保つのが難しいんじゃないかと僕は一時期感じていて。いつかはやりたいねという話をしていたものの、休止から数年経って学や大介が「生活があるからfOULはもうやれない」と言われる可能性だってあったと思うし、時間がだいぶあいて温度差もありすぎてもうダメかなと思うことが僕にはあったんです。でも去年、映画の仕上げのときに3人で会う機会が増えて、そろそろ機が熟してfOULをやる時期なんじゃないかという機運が背中を押してくれたことは事実です。そのやり取りの中で、大介が「もうやるしかないでしょ!?」と言ったのが僕の中では大きかったですね。きっと学もそうだったんじゃないかな。