ギャラの分配で揉めるくらい売れてみたい
──話を伺っていると、マリアンヌさんが従来のバンドと違って創作のキャッチボールができる喜びを実感しているのがよく伝わってきますね。
マリアンヌ:最初にMörishigeが歌メロを入れない骨組みだけの素材を持ってきて、それをスタジオでみんなで合わせて作っていって、その曲の方向性が見えてきた段階でメロディと詞を乗せるわけなんですけど、その段階でワタクシの中では何となくのイメージができているんです。詞は彼がとっかかりの部分を書いてくれるので、それを補作してメロディを付けていくのが初体験で面白い。Palastlebenならではの不思議な手法ですね。すでにあるトラックをどう化けさせるかという楽しさもありますし。その作業の中でのワタクシの責任の度合いがちょうど良くて、メンバー各自がそれぞれ得意なことだけをするというか。
Mörishige:マリアンヌさんの歌がなければ、「Monaural」はバンドとして最初のリリース曲には絶対ならなかったですね。レコーディングの過程で曲が変化していって、これはこのバンドらしい曲だなと考えが変わっていったんですよ。「Monaural」は最初、後発曲になるような印象で作っていたし、Palastlebenの1曲目としては、テンポ感やキャッチーさも含めて僕は「Neon Escape」がいいと思っていたので。
マリアンヌ:ワタクシは「Monaural」をあえて1曲目にするのがいいと思いました。バンドの推し曲、リード曲を最初に持ってこないスカした感じが逆にいいんじゃないかと(笑)。
Mörishige:僕は凡人なので、どうしてもリスナーの気持ちを考えてしまうんですよ。聴く人がどう感じるんだろう? っていうのをつい気にしてしまう。
マリアンヌ:真っ当な考えじゃないかしら。商業的なセオリーで言えば、もっとキャッチーで初見で掴みに行ける曲を1曲目に持ってくるのがまあ定説ではあるから。プロデューサーやレコード会社だったら絶対そう言う!(笑) 「『Monaural』はちょっとシブくない?」って。でも今の暗い世の中にぴったりで別にいいんじゃない? って感じなの。A面が仄暗い「Monaural」で、B面がその真逆で能天気な「Danse.Karma」というバランスも絶妙だと思うし。そう言えば、今回の「Neon Escape」のミュージックビデオは内容が完全に「Danse.Karma」の世界なんですよ。何の意図もないんですけど。「Neon Escape」の映像に「Danse.Karma」の音をはめても何の違和感もないと思うわよ(笑)。
Mörishige:そうかもね。「Neon Escape」のミュージックビデオは曲のテンポに合わせてシーンの切り替わりを早くしたり、ネオンが飛び交うようなドープ感、VHSのビデオテープみたいな映像処理とかこだわりは多々あるんですけど。演奏シーン自体は「Monaural」のスタジオカットと同じ日に撮ったものなんです。
マリアンヌ:「Monaural」のスタジオシーンを撮った後に同じスタジオを使ってね。衣装とヘアメイクを変えて、撮影は確か午前3時くらい。
Mörishige:いろいろ作業が押してね。ワインを買ってきてみんなで飲んで、もうヤケクソ(笑)。
──キノコホテルを一時凍結させるることでPalastlebenの活動が一気に加速化するというわけでもないんですよね?
マリアンヌ:Palastlebenは決して手を抜いているわけじゃなく、いい意味で「こんなところでいいかな」と気負わずにできるバンドで、ワタクシ自身が純粋にこのバンドを楽しみたいんです。メンバーとは気楽な関係だし、特にMörishigeとは互いに遠慮なく愚痴を言い合える仲で、居心地もとてもいい。一人で何もかもを背負いこむのではなく、他のメンバーがいてくれることで俯瞰できるところもあるし、それくらいの距離感が本来は健全なんでしょうね。まあ、ギャラの分配で揉めるくらい売れてみたいという野望もないことはないんですけど(笑)。
──配信で4曲が発表されて、この勢いでアルバム制作まで繋げる感じですか。
マリアンヌ:来年には出そうという話はしています。
Mörishige:フィジカルで出したいですね。ここでそう言っておかないとまたダラダラしちゃうので(笑)。ただ、締め切りは確かに大事なんだけど、マリアンヌさんの歌に対するこだわりもあるからね。
マリアンヌ:そう、今回の「New Order」も実は歌をリテイクしました。
Mörishige:前のテイクも凄く良かったと思うんだけど、録り直したら俄然良くなったんだよね。
マリアンヌ:ワタクシの中で歌のアプローチが定まらないまま唄って、そのニュアンスが何か気に入らなくて。とりあえず唄ってみて、後で考えよう、なんて思っていたのが甘かったわけです(笑)。で、自宅で自分で録り直したの。
──「Neon Escape」のミュージックビデオを見て思ったんですが、いっそのことCDよりも先にVHSビデオでフィジカル・デビューするという時代錯誤感もPalastlebenらしくていいんじゃないですか?
Mörishige:ああ、そういう嫌がらせバンドとして活動していきますか?(笑)
マリアンヌ:嫌がらせ、大好き(笑)。こんなご時世だからこそふざけたことをやってみたい。手刀(チョップ)でのGIGをVHSにして出すとか(笑)。
──ところで、Palastlebenというバンド名は“宮殿”(palast)の“暮らし”(leben)を意味するそうですね。
マリアンヌ:翻訳サイトで“宮殿の暮らし”をドイツ語に変換したら“Palastleben”と出てきて。響きもいいし、リッチな感じがしていいかなと思って。
──ホテルや宮殿といった建物に対する執着心があるんでしょうか?
マリアンヌ:ああ、言われてみれば確かにそうですね。
Mörishige:『Monaural / Danse.Karma』のアートワークも建物だったしね。
マリアンヌ:あれは実は中野サンプラザが元ネタなんですよ。魔改造して上の階に回転レストランを勝手に増築したり(笑)。
Mörishige:建物フェチってことなのかな? 秀和レジデンスのマニアの人とかいるもんね。
マリアンヌ:“レジデンス”もいいわね。次に新しくユニットをやるなら“○○レジデンス”がいいか もしれない。
Mörishige:それじゃ“支配人”が“管理人”になっちゃうよ(笑)。
マリアンヌ:冗談じゃないわよ。虫の居所が悪いとやたらエレベーター止めて住民に喧嘩売りそう(笑)。でもホント、建物に固執してるのはなぜなんでしょう。とにかく雨風凌ぎたくて仕方ないのね。
Mörishige:宮殿暮らしのリッチな生活とは程遠い発想だね(笑)。