いい意味で無責任なことがやりたかった
──Palastlebenはマリアンヌさんが英詞で唄うのがまず驚きなのですが、それは自然な成り行きだったんですか。
マリアンヌ:ワタクシも驚いています(笑)。最初の頃はMörishigeが作ってきてくれた曲にワタクシが日本語の歌詞を乗せていたんですけど、どうもしっくり来ないんですよね。それをどこかのタイミングでMörishigeに話したの。
Mörishige:たとえば洋楽的なニュアンスのある日本語を歌詞にする選択肢もあったのかもしれないけど、日本語だとどうしても伝わりきってしまうというか。Palastlebenでは英語の伝わりにくさが大切だったりするんですよ。
マリアンヌ:そうなの。別に伝えたいことなんてないですし(笑)。日本語で意味のない詞を書けば良いじゃないかとも思ったんですけど、もう日本語自体が違うような気がして。加えてPalastlebenではもっとくだけたこと、いい意味で無責任なことがやりたかったんです。自分が自在に操ることができない言語で唄うだなんて今まではポリシーが許さなかったのに、急にそれをやってみたくなった。それでMörishigeが英語に堪能だったことにはたと気づきまして、新しい曲ができたタイミングで「英詞にしてみない? 英語の歌詞を書いてよ」とお願いしたわけです。
Mörishige:その第1弾が「New Order」。
マリアンヌ:エッ、「Neon Escape」じゃない?
Mörishige:「Neon Escape」と「New Order」は同時期に作ったんだっけ?
──まあでも、図らずも今回配信される2曲であったと。
マリアンヌ:順序で言えば、4月に出した「Monaural」と「Danse.Karma」は「Neon Escape」と「New Order」の少し後にできたんです。……で合ってる?(笑)
Mörishige:そうだと思う。
マリアンヌ:「Neon Escape」と「Danse.Karma」はワタクシが同時期に書いた曲で、「New Order」と「Monaural」はMörishigeが書いた曲。
──憂いを帯びた「New Order」はマリアンヌさんらしいメロディ・ラインだと思ったのですが、Mörishigeさんの曲だったんですね。ということは、曲調がいい具合に混ざり合っているというか、お二人のあいだで楽曲の方向性に相違がないという見方もできますね。
マリアンヌ:Mörishigeの曲はドラムのShintaroくんと一緒にスタジオに入ってセッションしながら作ることが最近は多いんだけど、出来上がった時点ではあまりメロディが定まってないんです。でも彼は詞を書いてくれるので、その詞にワタクシがメロディを付けながら、ワードが足りなければ補作していく感じなんですけど、そこで自分の特性が出てくるんでしょうね。トラックや曲の原案はMörishigeが持ってきて、それをワタクシが補完させる共同作業が上手くできていると思います。
──マリアンヌさんにとってはかなり特殊な作曲法ですよね?
マリアンヌ:責任を分散できる意味でもかなり特殊ですね。
──いつも難産である歌詞を第三者に委ねられるのがとても大きいようにお見受けしますが。
マリアンヌ:それは英詞だからこそだし、彼がメロディを想起しやすい歌詞の当て方をしてくれるんですよ。
Mörishige:そこはちょっとだけ意識してるけど、あまり意識しないようにしてます。こっちの投げたボールに対して思いも寄らぬ返し方をマリアンヌさんがしてくれるので。自分としては、Shintaroと作るデモもそうなんですが、あまり詰め込みすぎないようにしてますね。メンバーを信頼して、みんなが上手いこと形にしてくれるだろうという希望的観測を元にデモや歌詞を持っていきます。
──「Monaural」のように鋭角で性急なリズムを前面に押し出すタイプの曲は、従来のキノコホテルのリスナーならとても斬新に映るでしょうね。
マリアンヌ:「Monaural」は曲作りにドラマーが関わっているのが大きいですね。キノコホテルのデモはワタクシが全パートを作るけど、曲作りに関わる人が増えれば自ずとそのパートの個性がにじみ出てくるものですから。Palastlebenはそういう各人の特色のバランスもいい気がします。Palastlebenではいわゆる歌モノをやりたいわけじゃないので、ワタクシの歌を前面に出したい意識も最初からなかったですし。それこそロクに歌わずにスカスカなサウンドを淡々と奏でるような楽曲があっても良いわけで。メンバー5人いますけど別に音を分厚くしたいわけでもないですし。
Mörishige:確かに。音を重ねるカタルシスはこのバンドにないので。