楽しいも怒りも一緒、意味のあるなしも一緒、なんでも全部両A面
──前作のミニアルバム『The Sound of Silence』(2020年)は、コロナが起きて、音楽やカルチャーやライブハウスが悪者扱いされるわ安倍政権は最悪だわで、社会に向けて中指突き立てた感じがあったけど、今回の3曲はぶっ飛びつつ私的な感じがします。
YUKARI:そうですね。今回は社会がどうのより自分の心の中で思ったことだったりしますね。でもね、自分自身に立ち返ったら、やっぱ怒ってるんですよ(笑)。むしろ今のほうが怒ってる(笑)。社会にはいろんな問題があるけど、私が特になんとかしなきゃと思うのは自分自身が当事者であるジェンダーの壁っていうね。それはかなり考えてるし、関心があるし。何かアクションできるんじゃないかなってずっと思ってるし、自分なりには意思を表明してきたし、少なくとも私のことを見てくれている人には伝わってるかなと思っていたんです。それでも、届いてないんだって失望してしまうことはあって。
──それはたとえば、女性に対しての差別的な発言や行動だったりが、身近なところでもあるっていう?
YUKARI:そうです。そういうことがあったり、そういうことに対しての身近な人の反応とかにもガッカリしたり。私は以前、ライブハウスで痴漢に遇って、「痴漢撲滅ステッカー」を作ったんですけど、いまだに変わらない現状もあるし。大袈裟に言うと、いつでも安心できない。たとえば夜の帰り道につけられてないか、外出先でトイレ入ったら隠しカメラがないか、もちろん電車の中も痴漢はいないか。普段の生活でいちいち考えなきゃならない。舐められてないか敏感になりすぎたりもするし
──ホントだよね。普段の生活からストレスがある。それを男性に言うと自意識過剰って言われたり。それもまたストレス。
YUKARI:ホントそうですよね。多くの男性は女性よりそういうことを考えないで暮らしているからわからないんだと思う。わからないことが、また女性を傷つける。私は多分強いほうだし、普段からいろいろ言うし、こうやって発信できる立場でもある。それでもまだまだ自分の半径数メートルのところですら失望することがある。こんなに言ってるのにわかってなかったのかって。そう考えると辛い思いをしてる人はきっとたくさんいますよね。自分は強いから平気とか、嫌な目に遭ったことないとか、そう思ったとしても、誰かは辛い目に遭って傷ついている。傷ついた人がいるなら、私は傷ついた人の側に立ちたいんです。
撮影:大橋祐希
──このインタビューの最初のほうで、「見えないことへの想像力は大事だなって」って言ってたけど、そういうことだよね。
YUKARI:そうそう。自分には見えないからって無いものではないですよね。私は女性で、女性だからこその不利益を受けることがあるけど、でも自分がマジョリティの立場でいる部分ではわかってないことがたくさんあるわけで。
──ああ、そうですよね。たとえば在日外国人の人から見たらYUKARIちゃんも私もマジョリティで、わかってないことがたくさんある。
YUKARI:そうそう。私は女性として自分にリアルなことしか考えてないかもしれないけど、そこで知った痛みは、様々な人、様々なアイデンティティを持つ人の痛みに繋がっているんだと改めて思うんです。
──うんうん。
YUKARI:でももちろんわかってくれる男性もいて、わかってくれる人がいるっていうのはこんなにも救われるものなんだって凄く嬉しかったりもする。自分も誰かにとってそういう存在になりたいって強く思った。
──あ、私、前作『The Sound of Silence』の「WELCOME TO MY HOUSE」は部屋の間取りを歌ってたり(笑)、意味ないじゃんって感じの曲だけど、凄くメッセージを感じて感動しちゃったんですよ。YUKARIちゃんはMCでたまに「帰れなくなったらうちにおいで」って言っていて、それは「ひとりじゃないよ」ってことだと思うし、「WELCOME TO MY HOUSE」もそういう曲だと思う。今回の「INVITATION」も繋がってるよね。
YUKARI:うん。「INVITATION」も「どうでもいいんだから楽しもう!」ってことと、「見捨ててないよ、置いてかないよ」ってこと、両方を込めていて。で、私が「ただの音楽」って言ってたら、「リミエキはただの音楽で意味なんかなくて、だから思い切り楽しんでるんですけど、でも自分の中では凄く意味があるものなんだ」って言ってくれた人がいて。凄い嬉しかったです。
──それはメチャメチャ嬉しい!
YUKARI:うん、凄く嬉しかった。なんか矛盾してるみたいだけど。
──きっと矛盾がないほうが不自然なんだよ。
YUKARI:そう、そうですよね。怒りがあっても楽しんでいい。大笑いしながらメッセージを感じることだってある。楽しいも怒りも一緒、意味あるも意味ないも一緒。両A面って感じです。どっちかにしなきゃいけないなんてことないし。どっちもあるんですよ。前は何事にも白黒つけたがってたけど、なんでも全部両A面と思ったら、自分の中にストンと落ちたというか。私もちょっと大人になったかな(笑)。