バンドでしか味わえないものが確実にある
──現在、ライブハウスは公演主催者に対して、従前の収容人数の50%程度でライブを開催するよう要請することになっています。そうした現状と、ライブハウスは感染リスクの高い空間という先入観を持つ人も未だ多いなか、今後も『ギリギリシティ』を継続させていく上でどんなヴィジョンがありますか。
古澤:もしコロナ禍前の状況に戻らないようであれば、生のライブで失ったものをオンラインの配信でどれだけ埋められるのかという話になってきますよね。オンラインがオフラインに近づくにはたとえば、リアルタイムで配信しても演者と観客が共に満足できるテンプレートがこの先出てくるか? とか。それもあと1、2年もすれば実現しそうな気がします。さっきも話したように、事前収録して緻密に完成させたものを配信したほうがリアルなオンライン配信よりも満足度が高いという認識が根づけば、見る側がきちんと作り込まれたものを一つの作品として捉えることになるだろうし、オンラインとオフラインの溝が埋まるのはその意識の変容がどうなっていくか次第だと思いますね。
──僕もこの2年、配信ライブを見る側と出る側のどちらも経験して感じたのは、一期一会のライブのリアル感とリアルタイムの配信の良さが必ずしも一致するわけじゃないということなんですよね。特にキャリアを積んだミュージシャンの場合、演奏中のミスを気にされる方もいらっしゃいますし。
古澤:そうなんですよね。たとえばライブ盤でも後でスタジオで加工したり、ミックスし直したりした上で出すじゃないですか。それと近しい話だと思います。オンラインの配信とはいえそれも一つの作品だと思うし、表現の細かい部分までこだわる人ほどそれをそのまま出したいとは思わないはずなんです。そこまで作り込む余裕がないのなら、複製のできないアーカイブを数日だけ残す形になるんじゃないですかね。僕らもまだその試行錯誤の途中ですから、配信にせよ何にせよ見せ方の課題はいろいろと考えていく必要がありますね。
──来年、ファースト・アルバム以来14年ぶりとなるアルバムを完成できそうな確率は今のところ何%ですか。
古澤:今のペースで行くなら2、30%ですかね(笑)。配信であと2、3作出してからちゃんとした盤として出したいとは考えているんですけど。その2、3作の制作の進行がどれくらいできるかがキモでしょうね。
──セカンド・アルバムの制作にこれだけ時間をかけているのはなぜなんですか。
古澤:一緒にやっててクオリティ的に満足できるメンバーがなかなか揃わなかったというのが本音でまずあったんです。それが今ようやくこのメンバーならアルバムを作りたいと思えるようになったので、後はこのコロナ禍の状況を踏まえた上でのタイミングだけですね。
──今やローボーンのオリジナル・メンバーは古澤さんだけですが、ファースト・アルバムのときからどれだけメンバーが変わっても“LOWBORN SOUNDSYSTEM”という屋号を引き継いでいます。布陣が変わるなら全く違うバンドをやる選択肢もあるのにそうはしないのは、ローボーンへの揺るぎないこだわりがあるからですか。
古澤:まあ、作詞・作曲は全部自分がやってるし、過去を振り返ると他のメンバーと分担作業ができたこともないですからね。決して現状に満足しているわけではないですが、今のメンバーは人前でパフォーマンスを見せる/魅せる意識は過去のメンバーに比べて高いと思うので。それにまだ作品として発表はしていませんが、ひろちゃんは歌詞を書けたりもするので。その辺の役割分担ができてくれば自分はトラックを作るだけでいいとか、ローボーンとして新しい見せ方もできそうなんです。このバンドを16年ほど続けてきて途中から支えてくれる人たちが少しずつ増えてきたし、今のメンバーが信頼を寄せてくれているからこそ、曲作りやバンドの方向性など僕が自分のやりたいことをここまでやれているという言い方もできますね。
──古澤さんはクラシックの作曲やDJなどでも活動されていますが、そのなかでバンドの一員であることはどんな位置づけなんですか。
古澤:クラシックは楽譜で作曲するだけで本番当日は演奏者にお任せなので、自分の作った楽曲がこんな感じで聴こえるんだなというリスナーと同じ感覚で聴く楽しみが大きいですが、バンドのほうは自分が演者の一員ですからね。自分のテンションでやれる楽しさがあるし、その違いは凄く大きいです。自分の場合は一人で弾き語りしてもテンション上がらないし、やっぱりバンドでしか味わえないものが確実にあるんですよ。
──月並みですが、来年はどんな年にしたいですか。
古澤:レコーディングを第一に頑張りたいです。このコロナ禍がこの先どうなるかまだ分かりませんけど、やれるだけのことを精一杯やって楽しみたいですね。