鬼才・古澤彰率いるオルタナティヴ・エレクトロバンド、LOWBORN SOUNDSYSTEM(ローボーンサウンドシステム)主催の『ギリギリシティ』。2006年2月に始動した息の長いこのイベントは、打ち込み系を主体としたライブ、DJ、お笑いが渾然一体となった他に類を見ないカオティック・エレクトロニックミュージック・パーティーだ。いつもは四谷アウトブレイクを根城とするその『ギリギリシティ』が、TOWA TEI、田中知之(FPM)、砂原良徳、DJ TASAKA、DJ DEKKAといった豪華DJ陣をゲストに招いたスペシャル版として来たる12月22日(水)に渋谷VISIONで開催されることが決定。一貫して特異にも程がある面子が一堂に会する『ギリギリシティ』のこれまでの歩みと、コロナ禍でも意気揚々と個性溢れる表現を発信し続けるバンドの現在について古澤に聞いた。(interview:椎名宗之)
ライブとDJとお笑いが三位一体となったイベント
──『ギリギリシティ』はそもそもどのようなコンセプトで始まったんですか。
古澤:端的に言えば、ライブとDJとお笑いが三位一体となったカオスなイベントですね。僕らみたいな打ち込み系のバンド、打ち込み系じゃなくてもオルタナ寄りの生バンドによるライブ、テクノやハウス、エレクトロを主体としたDJ、ベタじゃないお笑いの三要素が渾然一体となった感じというか。
──古澤さんは“ウォンテッド古澤”という名で芸人をやっていたこともあるんですよね。
古澤:はい。新宿ロフトで行なわれた鳥肌実さんのライブで前座をやらせてもらったこともあります。軍服を着て今じゃ絶対にやれない放送禁止ネタばかり披露して(笑)。始めて10年弱くらいの『ギリギリシティ』は、DJもライブもお笑いも全部自分で出てたんです。でもそれだとゲスト出演してくださる方の応対やイベント自体の仕切りができないということで、レギュラー陣から「出るのはせめて2つにしたほうが良い」との指摘を受け、言われてみたら自分も確かにそうだなと思い1つ削った次第です(笑)。
──なるほど。音楽とお笑いの二足の草鞋を履いていた古澤さんならではのイベントと言えますね。
古澤:そう思います。音楽はもちろん、お笑いも自分の好きな芸風の人に出てもらっているので僕の嗜好が色濃く出てますね。『ギリギリシティ』というタイトルに関して言うと、当初の立ち上げメンバーと何度も話し合いをしたのになかなか決まらなかったんです。あるとき渋谷駅のホームで、メンバーの一人に「いいネーミングを思いついた!」と言われて、自分は『ギリギリシティ』と聞こえたから「それじゃん!」と答えたんですけど、本人は『ビリビリシティ』と言ったつもりだったみたいで(笑)。電車が通り過ぎるタイミングで騒音がうるさかったので、聞き間違えから始まったんですけど、僕的には『ギリギリシティ』のほうがしっくりきたんですよね。
──15年前の2月に始まった当初は高円寺の無力無善寺で行なわれていたそうですね。
古澤:無力無善寺で3回、同じ高円寺のルーツで3回やって、当時は月一ペースだったんです。そこで半年経って肩慣らしができたし、もっとバンドを呼びやすいハコに場所を移そうということで選んだのが新宿JAMでした。JAMで6、7年やって、今の四谷アウトブレイクに移して10年前後ですかね。
──LOWBORN SOUNDSYSTEM(以下、ローボーン)の現メンバーである神無月ひろさんと出会ったのもJAMだったとか。
古澤:そうなんです。前任ボーカルがイベントに出られないので「代打で同居人に頼みました」と唐突に言われ、ライブ当日にいきなり紹介されたのがひろちゃんで(笑)。当時は本業の漫画家を続けながら趣味のバンドをやってたみたいです。
──hajirockさんと椿かおりさんと出会ったのも『ギリギリシティ』だったんですよね?
古澤:hajiさんは他のバンドで何度か出てて、その流れでローボーンに途中参加してもらいました。椿さんに至るまでは何人かボーカル候補がいて、いろいろ試したんですけどしっくりこなくて。僕が以前出た映画に参加していた映像プロデューサーに紹介してもらったのが椿さんで、新宿西口のルノアールでお茶をして話したら本人も乗り気で。それでそのまま参加してもらいました。今のメンバーになって5年ほど経ちますね。
──アウトブレイクをホームグラウンドにし続けているのはハコとの相性ですか。
古澤:自分たちの音楽性や方向性に一番理解のある場所に自然と落ち着いた感じですね。
──今度のアウトブレイクで126回目を数えますが、ここまで長く続けてきた原動力は何なのでしょう。
古澤:本来はメインカルチャーであるべき音楽やお笑いを世に知らしめたい、それを知ってもらいたくてやり続けています。今回渋谷でやる『ギリギリシティ』のスペシャル版でも自分たちが思春期に影響を受けた人たちを中心にブッキングしました。
──どういうわけかロフト系列のハコとはご縁がありませんでしたね。
古澤:以前、松本章さんと一緒に新宿ロフトのバーステージでイベントを企画したことがあったんです。松本章さんと僕で半々ずつブッキングして、半年くらいやったのかな。でも僕は僕で『ギリギリシティ』もあったし、なかなか時間が取れずに終わってしまったんですけど。
──それが『じっけん☆ぴゅたごらす』というイベントですか?
古澤:そうです。もう10年以上前の話なので記憶がおぼろげですが、確か5、6回やったと思います。