「出し惜しみしないでお話を進めましょう。」と進めていった
――各キャラターはもちろんですが、ドラマも魅力的な作品でした。
担当:最初は牧歌的な話も多かったですけど、高井(沙耶)先生が出てきたあたりからドラマの勢いが出てきましたね。
板場:自分は好きなんですけど、高井先生は非常に読者から嫌われてるんです。
――作中の二人の関係を一度引き離すという面で見ると悪役ですから、しょうがないです。
板場:最初は高井先生については全く考えていなかったんです。三者面談をするとなった時、高井先生には好きな要素を盛り込もうとこのデザインになりました。好きなキャラなので丁寧に描いています。
担当:東根はロリコンではないので、大人の女性と恋愛するというラインは当初からありました。
板場:東根が優里に対して邪な気持ちがあったら「優里ちゃんはオレが嫁に出す!!」とは言えないじゃないですか。それに年齢がずいぶん離れた若い子がいきなりやってきたら実際は困るので、初対面のおじさんと中学生が恋愛するということはリアリティもないと思うんです。
――普通そうなんですよね。おっしゃる通り、東根が優里を子供として見ているので、桐谷(暢子)との恋愛エピソードや高井先生を交えての三角関係も出てくるのかなと思っていたんです。
板場:最初はそういった大人向けも必要かなと思ったんですが、物語を進めていく中で必然性がなかったんです。最初の東根と桐谷の濡れ場は、そこがあったことで後々の二人の関係にリアリティが出たのかなと思っています。
担当:二人の関係性に対して、優里が涙したシーンに繋がる大事な要素になりましたね。
板場:自分の中で桐谷は、いい女を描こうと意識して描いたキャラクターなんです。ああいう人間らしいシーンがなかったら、桐谷が聖人君子すぎて何を考えているか分からないキャラクターになってしまったんじゃないかと思っています。
――東根の立ち位置を桐谷にするなど、大人側の主人公を女性にする案はなかったのですか。
板場:女性にしようとは全く考えなかったです。
担当:東根も優里も板場さんの実体験が反映されているので、リアリティを出せなかったと思います。
――優里にも板場さんの実体験を反映した部分はあるんですね。
担当:板場さんも小さい頃からご自分でご飯を作っていて、新聞配達の経験もあるそうで、実は優里も板場さんとの共通項が多いんです。
板場:早く自立をしたい優里ともう仕事はしたくないという東根は、かつての自分と今の自分を投影したところはありますね。
――優里以外のキャラクターのバックボーンを描かなかったのは、意図があってのことなんでしょうか。
板場:担当さんと「出し惜しみしないでお話を進めましょう。」と進めていった結果ですね。各キャラクターのバックボーンを描くことで話を広げるという事もできましたが、1800日を綺麗に描こうと考えたときにいらないなと思ったんです。
――その判断も凄いですね。人気がある作品はふつう長く続けたいですし、描ける部分があるなら描きたいという事が欲求として出てくるのかなと思いますが。
担当:平和な日常が続くと読者が退屈に感じるかもと思ったんです。あとは、完結した時に一気に読んでもらえる巻数にしようとも考えました。なので、作中の時間を2年ほど飛ばすことに関しては、板場さんと早い段階で一致しました。
――ドラマの話で言うと二人はよく泣きますよね。優里は生い立ちの事もありますし分かりますけど、東根も結構。
担当:私から「ここはぜひ泣かせてください。」とお願いした所もありますけど、そうですね。
板場:そんなに泣きますっけ、描いている自分としては泣いている印象ないんだけどな。
――不自然というわけではないですけど、しょっちゅう泣いてますよ。優里の前でも泣きましたから。
担当:東根が優里の前で泣いたという事は心を許しているというわけなので、物語の結末への布石になっていると思います。素晴らしい渾身の泣き顔でした。