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INTERVIEW

トップインタビュー板場広志(漫画家)- 「社畜と少女の1800日」はキャラクターが動いたという事なんだと思います

「社畜と少女の1800日」はキャラクターが動いたという事なんだと思います

2021.10.29

「世の中そんなに悪い奴はいないよね」という所からスタートしている

――私は東根の「嫁に出す!!」というセリフもあって、優里からの告白があっても最終的にはお嫁に出すんだろうなと思っていました。
 
板場:実は二人がくっつくという結末には葛藤がありました。でも、優里をお嫁に出したとして、二人のその後がどうなるかを考えたときにいい関係性が出てこなかったんです。キャラクターたちに齟齬が生まれると、いくら制作サイドとはいえ、その通りに動いてくれないんです。
 
担当:あれは優里の寄り切り勝ちなんです。ある意味、最強の押しかけ女房ですね。
 
――優里が就職して一度家を出ますが、あの頃はまだ悩んでいたのですか。
 
板場:あそこではまだ悩んでいましたね。
 
担当:そのあとは板場さんも二人が結ばれるという展開を受け入れていたので、そういう意味では板場さんも優里にほだされたところがあるんだと思います。
 
板場:自分がどうこうというより、キャラクターたちが近づいちゃったらしょうがないという感じですね。途中までは、優里の相手となる違う男性キャラクターを登場させないといけないかなとも考えていました。
 
――浅岡(春太)はそのつもりだったんですか。
 
板場:彼は全くそうではないです。担当さん曰く、かませ犬です(笑)。イケメン・高身長・頭いいとモテ要素を入れていますし、性格も良いんですよね。
 
担当:本当に良い子です。優里に東根がいなければ、私も絶対に浅岡を推します。
 
板場:一番好きな子とくっつかなかっただけで普通にモテる良い子なので、これからも良い人生を歩んでいきます。『社畜シリーズ』は「世の中そんなに悪い奴はいないよね」という所からスタートしているので、全員に救いがあるようにしています。悪意を持つキャラクターは絵にならないと思ったんです。それが上手くいった感じですね。
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――高井先生たちも決して悪い人ではないですからね。
 
担当:行動の先に私利私欲もありましたけど、陥れたかというとそうではないですからね。
 
板場:良し悪しと好き嫌いは別なのでしょうがないですね。
 
――終盤では東根は大病になりますが、その案はいつ頃から出ていたのでしょうか。
 
担当:東根が大病になるというのはかなり初期から出ていた案です。
 
板場:自分は殺すことも考えていたんです。けど、担当さんに止められました。
 
担当:東根が死ぬのはナシですよ。
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――そうですよ、別々の道を歩むのがギリギリです。生き残ってくれてよかったです。
 
担当:東根の生死は別にして、もしも他の結末だったら、東根が優里を嫁に出して別々の道を歩んでいくというルートだったら、読者の反応はどうだったんだろうと思うことはあります。
 
――正直、『エトセトラ』を読み終わるまではそのルートに進むのかなと思っていました。
 
板場:優里の相手としてどんなにハイスペックなキャラクターを考えても、東根を超えることが出来なかったんです。
 
担当:優里の心が動かなかったという事ですね。
 
板場:そこで、東根もその思いを受け入れられるよう、優里が事故に遭うというエピソードを入れました。あの事故があったから、東根も優里に対して覚悟を持てたという事だと思います。
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――そうですね。
 
板場:自分も半分読者目線で描いているので、ネーム描いて、ペンを入れて、コイツこんな顔するんだって思う事がありました。これが、キャラクターが動いたという事なんだと思います。
 
――『社畜シリーズ』ではキャラクターたちが動いていったという事ですが、どのあたりからそうなっていったのでしょうか。
 
板場:3巻くらいからですね。それまでは自分でもどういう話になるかが解っていなくて、最初はこれで合っているのかなと思いながら描いていました。
 
――まだその頃は読者からの反応もそこまで見えていない時期ですね。
 
板場:そうですね。この作品は1・2巻が2か月連続刊行だったんです。まとめて出すために描きためていたので、単行本でこの作品に出合う方の感想もまだないころでした。
 
担当:一気に読んで頂きたかったので、その形で刊行しました。編集部でも読者の反響に手応えを感じた時期は4巻・5巻くらいからでした。エピソードで言うと、二人暮らしがばれるかばれないかあたりですね。そこから警察が介入してくるという部分が最初の山場でした。そこからもタームごとに打ち合わせをしながらテーマを設けていました。
 
――あそこは本当にこの二人がこれからどうなってしまうんだろうとドキドキしました。
 
板場:自分がこの作品の連載を続けていく中で特に気を付けたことがあって、主要キャラには「いや」とか「ダメ」とか「そうじゃない」という相手を否定するセリフや嘘を極力入れないようにしました。
 
――確かに。優里に告白された時も「困るよ」で止まっていて、否定はしていないですね。
 
担当:優里のついた数少ない嘘は結果的に警察介入の切っ掛けになってしまいました。高井先生に不信感を与えてしまったそもそもの原因は、二人がついた嘘なんですよね。
 
板場:だから、あそこはいろんな意味で重いシーンなんです。
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――その描き方も凄いですね。分かり易い悪役を作ると物語は描きやすいじゃないですか、ジャンル関係なく敵対する存在を作って物語を盛り上げるというのは普通ですから。高井先生はそう見える面はありつつも、普通に考えるとそんなことないですから。
 
板場:私利私欲が出て来て嫌な奴に見えただけで、意外とみんなそうなんじゃないかと思っています。
 
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