1994年、BEYONDSの谷口健(Vo, G)と大地大介(Dr)、札幌ハードコア出身の平松学(B)により結成されたfOUL。感情と直結しているような、感情より先に轟き奏でられていくような谷口のギター、強くしなやか、まさに強靭な平松のベース、ダイナミックなグルーヴを叩き出しつつ音の柱となる大地のドラム。3つの音が絡み合い、せめぎ合い、喜びを分かち合う。2005年に突如"休憩"を発表し現在も休憩中のfOULのドキュメンタリー、『fOUL』が公開中だ。
監督は、fOULを初めて聴いたとき、初めてライブを観たときからずっと聴き続けている大石規湖。『MOTHER FUCKER』(2017年)、『JUST ANOTHER』(2020年)に続いて長編3作目となる。迫りくる音、映像から飛び出してきそうな(ダイブしてきそうな)fOULの3人。もう、本当にライブハウスにいるようなのだ。全国各地、fOULのライブ映像を発掘し、まるで一夜のライブのように仕上げた本作。大石監督は、自分がライブハウスで観た衝撃と喜びを伝えたかったのだろう。自分自身が観たかったのだろう。ただただfOULと向き合った、その純度といったら!
もう、「fOULが好きだから映画を作った」、それだけで、いやそれだから素晴らしいのだけど、もう一つ、「ライブハウスが好きだから」もあると思う。fOULに衝撃を受け、ライブハウスに通い、多くのバンドを撮っている大石監督。fOULから始まったのライブハウスへの愛も、この『fOUL』の根底にあると思う。(interview:遠藤妙子)
映像には「残す」「伝える」力がある
──最初にfOULの映画の話を風の噂で聞いたとき、「え?」って驚いたんです、凄く嬉しかったんだけど、「え? なんで今、fOUL?」って(笑)。
大石:ですよね(笑)。
──なんで今fOULなんでしょう? 何かニュースがあるわけでは……
大石:なんにもないです(笑)。
──なんにもないけどやりたいからやる。素晴らしいです。大石さんはずっとfOULを好きだったんですよね?
大石:はい。もうホントに大好きで。
──fOULは2005年3月から活動を休憩していますが、fOULへの思いはずっと変わらず続いてあって?
大石:はい。自分はなんで映像をやっているのか? って思い返してみたら、音楽の仕事に就きたくて映像の業界を選んだのはあるんですけど、映像の仕事を始めたのがYouTubeが出てきて盛り上がってた頃で、いろんなライブを見直す機会が増えてきた時期っていうのもあって…。
──その頃はすでにfOULを知っていて?
大石:はい。fOULが休憩に入った時期ぐらいが大学卒業の年だったんですよ。私、軽音楽部の卒業のライブでfOULのコピーバンドをやって(笑)。
──凄い!(笑)
大石:私はギターとボーカルで、ベースとドラムは後輩にやってもらって。卒コンの2カ月ぐらい前にfOULが休憩して。もうライブは観られないんだって思っていて。映像の仕事に就いてだんだん年月を重ねていくうちに、「あ、あれって残せるものだったんだ」って。仕事を続ける中でいろいろなバンドの解散ライブや活動休止のライブを撮ることもあって、「残す」っていうことの意味…、意味っていうか、「伝え方」っていうことを考えるようになったんです。もう観られなくなったライブをまた観ることができる、映像にはそういう力があるんだってことを、仕事をしていく中でどんどん感じるようになって。だんだん自分も力をつけてきて、監督として2作の映画を作らせてもらって。1作目の『MOTHER FUCKER』のときに今回のプロデューサーでもあるキングレコード映像制作部の長谷川英行さんと出会ったんです。そういう出会いや経験を経て、やっとここに辿り着いた、そんなタイミングのような気がします。
──映像の仕事への意識が高く強くなって、「残す」ことだったり「伝え方」だったりを考えるようになったときに、fOULへの思いも改めて大きくなっていったという。
大石:それはあると思います。まず私を映画監督にしてくれたのは、『MOTHER FUCKER』の谷ぐち家(Less Than TV主宰・フォークシンガー“FUCKER”の谷ぐち順、その妻でありバンドマンであるYUKARI、一人息子の共鳴)だと思ってるんです。谷ぐち家を撮ることで、映画を撮り続けていきたい、映像という手段で伝えたいことを伝えていきたいって強く思うようになった。そういう意識が出てくるのと同時に、方法論や技術的なことも身についていったと思います。すると、「あのときのfOULはもう観られないのか」ってずっと思っていたけど、「何か方法があるんじゃないか」ってどんどん思うようになっていったんです。あと私、fOULが好きってずっといろんな人に言い続けていたんですよ(笑)。だけどだんだん時が経って「fOUL好きなんですよ」って言っても「え?」って(笑)。そうか、もう知らないんだって。こんなバンドだよって説明するんですけど、説明できないじゃないですか。とても言葉では説明できない。
──だったらもう、映画を作って観てもらおうと。
大石:そうです(笑)。