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INTERVIEW

トップインタビューモアザンハウス インタビュー vol.1「ANTAGONISTA MILLION STEPS」- たくさんの色とリズムが、バラバラなままに存在するのが世界のあるべき姿だと思う

たくさんの色とリズムが、バラバラなままに存在するのが世界のあるべき姿だと思う

2021.08.18

自分たちで守っていくには社会や政治と闘わなきゃいけない面もある

──ギターは印象的なフレーズが飛び出してくる。

TOZAWA:メンバーのバックボーンがかなりバラバラなんです。ベースのSATORUがダンスミュージックが好きで、彼と俺の化学反応が独特な結果を生んでる感じです。俺もハードコアは広い意味でダンスミュージックだと思ってるので。いろんな国のレベルミュージックって、曲だけ聴いたら凄い楽しかったり踊れるようなものが多い。

──「Action Music」はそういうイメージで作っていった?

TOZAWA:そうなんですけど、震災の後、反原発運動のスタッフやったり災害のボランティアやったりしていく中で、「行動する」というニュアンスのほうが強くなった感じです。

──ACTIONとMUSIC、その両方がバンド活動ですもんね。

TOZAWA:そうですね。行動と音楽、それが乖離してるのは嫌だな、気持ち悪いなって思ったんです。自衛隊にいた頃はバンドはやってないし、ライブハウスも行ったことなかったんですけど、パンクやハードコアの本は読んでいたんです。フォークランド紛争のときにCRASSがどうしたかってことは知識としては知っていた。でもそれは海外の昔の話だと思ってたんだけど、よくよく考えたら日本では原発が爆発して政治家や権力者の嘘が暴かれた。イギリスやフォークランドの80年代初頭の話じゃない、今の日本の話だって気づいた。例えばね、20年後のパンクスから、「日本のパンクバンドは原発が爆発したときは何してたの? ライブだけやってたの?」って聞かれて、家でハードコア聴いてたって答えたくないじゃないですか(笑)。

──聴いてただけかよ! って思われますよね(笑)。

TOZAWA:聴いたのなら動けよってね(笑)。かつてのCRASSやDISCHARGEのように、社会がおかしいと思ったら動く。それがパンクバンド、ハードコアバンドだと思った。俺らもそうありたいと。でも次の一歩を踏み出せない人が多くて…、なんでしょうね…。俺は2000年代の初めのイラク戦争の頃、反戦デモをやったんですが、その頃、周囲の人間や世間は社会に対して醒めてた。パンクやハードコアやってる人たちでも、何かあっても行動するというアタマが無い感じで。他人事だったんですよね。俺も社会のことは漠然と考えてはいましたが、やっぱり他人事だった。KNUCKLEHEADの頃は、そもそも社会と関わるとか変えたいという思いもなかったので、自然と個人的苦悩に焦点当たっていった感じで。思ってもいないことややりもしないこと、ファンタジーを歌うのはハードコアじゃないと思ってたので。

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──リアルなものは社会より自分自身だった。

TOZAWA:そうです。実際、自分の生活もキツかったし思うこともあったし、歌詞にしたいことはたくさんあった。

──でも、生活がキツイ、それって社会と繋がっていることでよね?

TOZAWA:そうなんです。自分の生活は社会と繋がってるって気づいていくんです。あとライブの企画をしたり、ライブをやる場所を探したり、楽しいことをやるために場所を作ったり、そういうことはずっとやってきてたんです。田舎でハードコアのライブやるには、自分で動かないと何も始まらないですから。やりたいことをやるには社会と繋がっていかなきゃできないって実感した。あと身近にKOちゃん(SLANG)とかがいましたから。KOちゃんたちの動きを見てる中で、これこそハードコアのアティテュードだ! って思ったんです。社会と繋がって闘ってる。納得いかないことは声に出して言う、怒りをストレートに出すってことは必要なんだってKOちゃんを見て思いました。あと自分たちの場所。“Saporro City Hardcore”って掲げてKLUB COUNTER ACTIONを作り。江戸川区から来た俺が“Saporro City Hardcore”って言うのもナンですが(笑)、影響を受けましたね。

──今コロナで緊急事態宣言なんかになると、場所の大切さを実感させられますよね。今回のCDも、モアザンハウスというシェアハウスという「場所」が作ったレーベルで。人が集える場所っていうのは本当に大事。

TOZAWA:コロナで、ライブハウスはバッサリ敵視されたりあっさり無視されたりするんだなって実感させられましたし。自分たちで守っていくには社会や政治と闘わなきゃいけない面もある。自分の生活と社会は繋がっているんですよね。

当事者じゃないって顔してること自体が加害に加担してる

──ちょっと遡ってお聞きしたいんですが、TOZAWAさんのパンクロックの目覚めって?

TOZAWA:中学生とか高校生でパンクを聴く人が多いけど、俺はその頃あんまり音楽に興味なかったんです。高校生の頃がバンドブームだったんですけど聴いてなくて。映画や小説は好きで、映画の中で聴こえてくる音楽は好きでした。ベトナム戦争の映画に60年代のロックがよく使われてて。『フルメタル・ジャケット』ではストーンズが、『ハンバーガー・ヒル』ではアニマルズが。でも音楽単体では興味を持てなくて。大学落ちて自衛隊に入って札幌に来て、そこで周りの影響でブルーハーツとかを聴き始めたんです。洋楽は最初はTHE CLASHとかSEX PISTOLS。でもポップな感じで自分が想像していたパンクとはちょっと違って。その後、カオスUK聴いて。想像してたパンクはこっちだ! って。日本だったらGAUZEがビタッときた。パンクロックというよりハードコアにしっくりきたんでしょうね。爆発力、スピード感。勢いがあれば滅茶苦茶でもOK。自分にもできそうだって思った。その頃、たまたま居酒屋の帰りにエレベーターを待っていたら、ドアが開いてKOちゃんたちがドッと降りてきた。俺はクラッシュのTシャツで、KOちゃんが「オマエ、パンク好きなんか」ってガーッと寄ってきた。それが初対面だったのかな。チケットを買わされて(笑)SLANGのライブに行って、パカーンと自分の中で何かが開いた。俺はブルーハーツやブランキーも聴いてたんですけど、音楽は特別な人たちのやっているもので、自分にできるものだと感じたことはなかった。それがKOちゃんと知り合って、ハードコアのライブに行くようになって。同時代の人間が滅茶苦茶なカッコでハードコアやってるのを見て、初めて「これは自分のものだ、音楽は自分のものだ」って感じて、すぐメンバー探し始めてKNUCKLEHEADが始まったんです。自分にはできないって思い込んでたものが、実は自分の中にあるものだったんだって。あ、自衛隊は辞めました、ハードコアに進むため(笑)。

──東京に戻る気もなく?

TOZAWA:なかったですね。パンクと出会ったのは札幌だし、バンドを始めたのも札幌。東京の人の多さはしんどいですし。

──自分たちのことは自分たちでやる、その意識は東京より強くあるんでしょうね。

TOZAWA:そう思います。当事者意識っていうのかな…。あの、ちょっと話が飛ぶかもしれませんが、今回、相模原のやまゆり園事件(2016年)のことを歌った曲があって。自分は当事者ではないのにそういう曲をやることを凄く悩んで…。

──2曲目の「ナインティーン」ですね。

TOZAWA:そうです。ずっと心に刺さっていたというかくすぶっていたというか、事件から2年以上経って作り始めたんですけど、なかなか進まなかった。最初、「ナインティーン」をアルバムタイトルにしようと思ったんですが、悲しいじゃないですか。なんか、出口のないような曲だし。

──でも同じ社会に生きてるってことは、私たちも当事者ですよね。

TOZAWA:そうなんですけど…。原発事故と一緒で、相模原で事件が起きたけど、そのときキミは何してた? って問いかけてくるんです、自分が自分に。自分の仕事は医療関係で精神科の看護師なので、知的障碍の人と関わることもあるんです。あの日、夜勤の途中に事件を知って、夜勤明けに詳細を知った。うちの病院だったら…って生々しく置き換えることができて…。俺が歌っていいのかな? 事件に対して何かリアクションしているわけでもないのに歌っていいんだろうか? って。でも、谷さんはかなり早くに激怒して曲を書いていた。そうだよな、それこそが本当の気持ちだよなって思ったんです。でも俺は、やっぱりしばらくは歌詞の断片だけがあって、それ以上は手をつけられずにいて。それが、なんかのタイミングでイントロが出てきて、Aメロ、Bメロを作って。曲の最初の数を数えるとこがあるんですけど、19までの数。あそこが出てきたらババババッて完成したんです。自分で作ったんじゃないってぐらいバババッて出てきた。

──自身の気持ちにどういう変化があったんだと思います?

TOZAWA:当事者じゃないって顔してること自体が、加害に加担してるんだと。障碍者のことなど関係ないよって言い切って生きることはできる。でもそうやって生きることが、あの事件を生み出してしまったんだと。結局、俺らの生き方の問題なんですよね。どういう態度とるかとか。人としてどう思うか。パンクバンドとしてどう発信するのか。

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