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INTERVIEW

トップインタビューキノコホテル - 創業14周年のホテル"ニューキノコ"がコロナ禍の時代にあえて提供する真夏の濃厚密会プラン

創業14周年のホテル“ニューキノコ”がコロナ禍の時代にあえて提供する真夏の濃厚密会プラン

2021.07.05

お遊びで齧った紛いものかもしれないけどいい感じじゃない?

──ということは、従来のキノコホテルにはないほろ苦さと爽快感が混在した「エレクトロ・デリケイト」は一番新しい曲というわけですね。

M:従業員に最後に渡した曲ですね。仰る通り、今までのキノコホテルにはない異色の曲だと思います。

──「お仕置きをしなくちゃ」と物騒なことを唄っているのにチャーミングさを感じるのはメロディの瑞々しさと支配人の艶のあるボーカルに負うところが大きいんでしょうね。

M:やっぱりチャーミングさが大事なんですよ。ワタクシのような年増の女が真顔で「お仕置きをしなくちゃ」なんて言ってもドン引きされるだけだし(笑)、従来になかったかまととぶるエッセンスを入れるのがこのところ好きになってしまって。松田聖子さんも歳を重なるごとにどんどんぶりっこになっているじゃないですか、良い意味で。あの域に行こうとするのがよく分かる年齢に自分も達したのかなと思います。

──この「エレクトロ・デリケイト」で綺麗に終幕を迎えても良いところを、「麗しの醜聞」というとてつもなくグルーヴィーなリズムが躍動するインストゥルメンタルで締めるところが「まだここでは終わらないぞ!」というバンドの未来を感じさせる演出にもなっている気がするんですよね。

M:こんなことを言うと身も蓋もないですけど、9曲しかないじゃない? と思って(笑)。それで終わっちゃマズいと思ったんですよ。

──元は2019年に行なわれた創業12周年記念公演のオープニング映像用に作られた曲だそうですね。

M:そうなんです。全部ワタクシの打ち込みで、キノコホテルの公式YouTubeチャンネルをご覧いただくとその映像が残っているはずです。それは尺が短いもので、そこから新たに展開を加えて完全版にして、なおかつ生演奏で仕上げたのが「麗しの醜聞」なんです。「海へ・・・」と同じようにきちんとした作品として残しておきたい気持ちがありました。

──インストであれば個々人のパートの見せ場も作れるし、とりわけジュリ島さんのベースを最後にフィーチャリングする意図もあったのではないかと思いますが。

M:無きにしも非ずですね。その気持ちはあったのかもしれない。

──インストはキノコホテルの実演会の終盤で重要な場面を担いますし、キノコホテルのようにクールなインストを聴かせるロックバンドが近年少なくなってきたようにも感じます。

M:インストはインスト専門でやられているバンドが圧倒的にお上手で、歌モノをやっているグループが積極的に手を出さないフィールドではありますね。インストをやるとそのバンドの現時点での実力がすぐに分かるし、今回の「麗しの醜聞」を録ってみてもの凄い課題を感じたりもしました。

──欲を言えば支配人の歌を最後に聴きたかったですが、これだけ痺れる出来のインストを聴くと本作の大団円を迎えるにはこれ一択のようにも思うんですよね。

M:今回のアルバムを作る前に「次は全編インストのアルバムにしちゃおうかしら」なんてツイートをしたら、だいぶ“いいね”が付いて腹が立ったんです(笑)。でも心優しい胞子の方が何人かいて、「支配人の歌がないとイヤです」というリアクションもあったけどそれもほんの数人で。次こそ全曲インストにしてやろうかと思いますけど(笑)。

──「愛してあげない」みたいな曲が本筋と思われるバンドがインストをやるからこその面白さがありますし、キノコホテルがインストだけのアルバムを作ってももちろん悪くはないでしょうけど、何度か聴いたらすぐ飽きられてしまいそうな気もしますね。

M:だと思うし、各パートがもっと超絶的に上手くないとこき下ろされて終わりですよ。言うほどインストって甘くないし、ワタクシも「歌詞を考えるのが面倒だからインストにしたわ」とか冗談で言ってますけど、本気でインストを極めようと思ったら奥が深いし、キノコホテル程度のテクニックでどうこうできるものじゃないと思うんです。ただキノコホテルはお遊びで齧って、紛いものかもしれないけどいい感じじゃない? っていう評価を得られるくらいにまとめる才能はあるグループだし、本物の方たちは他にいくらでもいるからそちらへどうぞ、って感じですかね。

──プラスチック・ソウルという言葉がありますけど、良い意味でのプラスチック感がキノコホテルの良さであり持ち味だと思うんです。本物すぎると暑苦しくなるし、広島“風”お好み焼きならではの良さってあるじゃないですか(笑)。

M:ぐつぐつに煮詰める前にもう待ちきれなくなって食べちゃって、はい次! みたいな感覚なんですよ。煮汁がなくなるまで煮詰めるのが好きな人もいるけど、ワタクシはせっかちなものでそこまで待つのが面倒くさい。それってミュージシャンとしてどうかと思うけど、興味の対象がどんどん移ってしまいがちなんです。女の子は移り気なんですよ。

──以上の全10曲が収録された『マリアンヌの密会』、これだけバラエティに富んだ内容で聴き応えも充分なのにトータルで35分ほどしかないのが意外なんですよね。大作に近いことをやっているのに短くて、でもだからこそ何度も繰り返し聴けるわけなんですが。

M:いつもこれくらいの尺が理想だと考えているんです。デビューアルバム(2010年2月発表の『マリアンヌの憂鬱』)も40分に満たないくらいだったし。

──だけどこの編成のキノコホテルはもう二度とないのだと「麗しの醜聞」がフェイドアウトするたびに感じるし、複雑な気持ちにもなってしまいます。

M:その意味でも特殊なアルバムですよね。ナターシャにとってはこれが最初、ジュリ島はこれで最後、ケメに至っては欠場中で、もう訳が分からない(笑)。女性グループが散り散りになるときって大抵は結婚や出産が主な理由なのに。でも最近はミュージシャンやアイドルの方がメンタルのご病気を発表されて休業に入るケースが増えましたよね。そこへいくとウチは怪我ばかりですけど、怪我は大人しくしていれば治りますので。

──主要メンバーの怪我が続出するなんて、完全に体育会系ですよね(笑)。

M:意外と体育会系なのかもしれませんね。ナターシャは入社から1年半経ってもまだ正社員にしてもらえない見習いですし。「こんな状況だし、貴方を正社員に任命するから頑張るのよ」ではなく「この難局を乗り切って成長できたら正社員にするかどうか考えるわ」と本人には伝えてますから。

アートワークの撮影は熱海のホテルニューアカオ公認

──アートワークについても触れておきたいのですが、先ほども話に出たように熱海にあるホテルニューアカオで撮影を敢行されて。

M:そうなんです。ブックレットの中では“ニューキノコ”にしてしまいましたけど(笑)。アートワークをどうするかという話になったときに、熱海に行きたいとワタクシがノリで言い出したんです。というのも、アートディレクターの方も仕事で熱海に行く予定があって、同じ時期にワタクシもプライベートで熱海に行く予定があったもので。じゃあ熱海で撮影しましょうよという話になって、ニューアカオにコンタクトを取って撮影許諾をいただいたんです。そもそもワタクシが3月にホテルニューアカオで行なわれた『熱海怪獣映画祭』のオープニングコンサートでヒカシューやチャラン・ポ・ランタンと一緒にステージに立ったのがホテルニューアカオとの最初の接点だったんですけど、ずっと気になるホテルだったんですよ。熱海秘宝館から海を見下ろすとそこに建っているホテルだったので。いつかあそこに泊まりたいなと子どもの頃から思っていて、図らずも『熱海怪獣映画祭』で訪れるチャンスがあって。それ以来、ニューアカオに完全にハマってしまったんです。

──実演会で使用したり、「マリリン・モンロー・ノー・リターン」のミュージックビデオでも協力を仰いだニューフジヤホテルではなかったんですね。

M:ニューフジヤホテルがそれで怒っていたらどうしようかと思いますけど(笑)、ワタクシとしては熱海という街全体を応援したいんですよ。ニューアカオは海の上に佇むロケーションがまずフォトジェニックだし、1973年の創業当時の面影をきちんと残してあるのもいいんです。古いけどちゃんとメンテナンスもしてある凝った内装で、今ではまず作れないような巨大シャンデリアが居並ぶロビー、ローマ宮殿を思わせるダイニングも素敵だし、レトロな花柄デザインの絨毯や亀の甲羅みたいな壁のタイルといった細かい部分まで昭和の美に溢れているんです。

──熱海という街は支配人にとって非日常感を味わえる異空間のような場所なんでしょうか。

M:どこか懐かしさもあるし、東京から車で1時間半くらいで行ける手軽なトリップ感もいいんです。温泉やストリップ小屋もあるし、飲み屋もいっぱいあってよくできた街なんですよ。大昔は新婚旅行のメッカだったくらいですから風光明媚な街なんですね。

──“ニューキノコ”という架空のホテルで“密会”しましょうというのがアートワークのコンセプトといえますか。

M:『密会』というタイトルはだいぶ後になって決めたんです。レーベルの担当者にタイトルを急かされて、「『マリアンヌの密会』にします」と伝えたら「もう少し強いワードを…」とか言われたんですよ。でも自分としてはやっぱり“密”という言葉と“会”という言葉を使いたくて。コロナ禍のおかげで“密”という言葉、人に“会”うという言葉がすっかり悪者になってしまったけれど、そういう風潮に対して複雑な気持ちを抱えていたのでどうしても『密会』にしたかったんです。もういいじゃない、堂々と密に会いましょうよ、という気持ちを込めて。

──結果的に今の世相を反映したタイトルと作品になりましたね。

M:この状況だからこそ出来た作品だと思うし、ニューアカオと出会ってアートワークのロケーションに使えた流れも良かったし、何か必然的なものというかご縁を感じますね。思いつきでニューアカオで撮影したいと言ったものの、それが結果的に『密会』というタイトルにもつながったし、最後はすべて辻褄が合うものなんだなと思いました。

──ところで、ジャケットに写る赤いマニキュアの指はジュリ島さんですか。

M:そうです。

──ああ、やっぱり。

M:この役割に相応しいのは彼女しかいなかったので。撮影したのは早朝のホテルの部屋で、最初はカメラマンと2人でワタクシ一人のショットを撮っていたんですよ。その流れでワタクシが従業員に靴を履かせてもらう写真を撮りたいと提案して、ジュリ島を呼ぶことにしたんです。そのときは彼女にとって最後のアルバムだからとかは考えず、ワタクシの靴を履かせるのが様になるキャラクターは彼女だなと思っただけなんです。手しか写らないから誰でも良いといえば良かったんだけど、今回の制作背景を考えても彼女以外の適任者はいませんでしたね。

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マリアンヌの密会

2021年7月7日(水)発売
SOLID CDSOL-1974
定価:¥2,800+税
【アートワーク】
アートディレクション:クワハラ ヒロト
写真:池谷友秀
撮影協力:ホテルニューアカオ

amazonで購入

iTunesStoreで購入

【収録曲】
01. 海へ・・・
02. 愛してあげない
03. キマイラ
04. カモミール
05. 断罪ヴィールス
06. 街が痙攣している
07. わがままトリッパー
08. 莫連注意報
09. エレクトロ・デリケイト
10. 麗しの醜聞

LIVE INFOライブ情報

ゴーグルズ対キノコホテル・八代大決戦!大集合!〜出合編
出演:ザ・ゴーグルズ/キノコホテル/肉食パルチザン(アコースティックVer.)
2021年8月7日(土)福岡Livehouse & Club PEACE
開場18:30/開演19:00
前売¥3,500/当日¥4,000(共にドリンク代別)
チケット購入はこちら
 
ゴーグルズ対キノコホテル・八代大決戦!大集合!〜決戦編
出演:ザ・ゴーグルズ/キノコホテル/肉食パルチザン
2021年8月8日(日)熊本八代キャバレーニュー白馬
開場16:00/開演16:30
前売¥4,500/当日¥5,000(共にドリンク代別)
チケット購入はこちら
 
ゴーグルズ対キノコホテル・八代大決戦!大集合!〜決別編
出演:ザ・ゴーグルズ/キノコホテル/肉食パルチザン
2021年8月9日(月)大分別府COPPER RAVENS
開場17:30/開演19:00
前売¥3,500/当日¥4,000(共にドリンク代別)
チケット購入はこちら
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