これからは堂々と“密会”するつもり
──去りゆく従業員の存在をここまで作品の細部にわたってフィーチャーするのはまさに異例ですよね。
M:5月8日の新宿ロフトでの実演会、5月14日のロフトプラスワンでのトークライブでジュリ島を気持ち良く送り出せたことで、自分の中で彼女のことは完結したし、彼女に対する未練も今は一切ないんです。8年間一緒にバンドをやれて良かったなとか、コロナが落ち着いたらまたお酒を飲んだりするのかなとぼんやり思っているくらいで。まあ、このアルバムを作っている最中の気持ちはとても複雑でしたけどね。送り出したい気持ちと、やっぱりどこか寂しい気持ちもあったりして。そんな心境だったことも含めて、我ながらホントによく頑張ったと思います。年明けから3月にかけての曲作りの時期は特に辛かったですね。すぐNetflixの韓流ドラマに逃げて、あと1話だけ見たら曲を作ろうとか思いながら、結局最終回まで見ちゃって朝の8時になっていたり(笑)。そんなただれまくった生活の中でよくやりましたよ。自分がこのアルバムをこのタイミングでリリースできなかったらキノコホテルは終わりだと思いましたからね。逆に頑張ってこのアルバムをリリースできれば先が見えるはずだと思ったし。まさに背水の陣でした。これでもう何度目の背水の陣なんだ!? って話ですけど(笑)。
──これまでの背水の陣は自分自身との闘いがメインだったと思いますけど、今回は去りゆくメンバーのためにも下手なものは作れないという覚悟もあったんじゃないですか。
M:責任はありましたよ。もう休養したいという彼女を説得して巻き込んだからにはちゃんとした作品にしなくちゃいけないと思ったし。しかも憧れだったホテルに撮影協力までしていただいて、いろんな人たちに対してちゃんと責任を持たないとダメだという気持ちがいつも以上にあったかもしれません。
──この『マリアンヌの密会』が晴れてリリースされた後はついに新たな電気ベース奏者のお目見えと相成りますね。
M:新しいベーシストのデビュー戦は8月の九州ですね。ゴーグルズが呼んでくれたイベントで、福岡、熊本、大分と回ります。熊本はニュー白馬という日本に現存する唯一のキャバレーでやります。その新しいベーシストの方が凄くお若くて、曲を覚えるのが異常に早いんですよ。まず実演会の定番曲を覚えていただかなきゃいけないので練習してもらって、すでにスタジオにも入っているんですけど、カンペを一切見ないのが凄いんです。
──切れ者の片鱗が窺えますね。
M:今までの従業員はみなコードとか譜面を書いてきて、それを見て一生懸命取り組んでいたんですけど、新しいベースの方は何も見ないで弾くんです。曲をモノにするのは早いので、表情を付けていくのはこれからの段階ですかね。もともとはワタクシがあまり知らないフィールドでサポートとかをやっていた方で、ジュリ島がひょんなことからその方と知り合って、「この人にだったらお願いできると思います」と紹介してくれた子なんです。ぜひ期待していただきたいですね。
──話を伺っているとキノコホテルの大殺界も底を打ったようですし、後は上昇気流に乗るだけですね。
M:そう願いたいものです。後はウルトラ・ヴァイヴさんにこのアルバムをしっかり売ってもらって、従来通り有観客での実演会をできるようになればと思いますよ。自分たちの生活もあるし、ライブハウスに少しでもお金が回ればという一心で去年は配信ライブを親の敵のようにやりましたけど、あれもなかなか消費されるのが早かったですからね。配信ライブを見た方の話を聞くと、配信を見るとなおさらこのライブを生で見たかったというフラストレーションが溜まって逆に辛いみたいなこともあるそうで、それも一理あると思うんです。だから年内は何とか有観客で実演をしたいし、そんなに大規模ではやれないでしょうけどレコ発ツアーもやりたいですね。オリンピックがやれるのにライブをまともにやらせてもらえないなんておかしな話だと思うし、これからのキノコホテルはもう堂々とやっていくことにしますよ。新たなベーシストを迎えて胞子の皆さんとこれみよがしの“密会”をするつもりですので、どうぞお楽しみに。