おおくぼけい(アーバンギャルド)、マリアンヌ東雲(キノコホテル)、映像作家・ALi(anttkc、ヒゲの未亡人)による"電撃的お耽美ユニット"、肋骨が、5月から7月にかけて3カ月連続で新作「未来の骨格」「時からの誕生」「電気魚の骨」を配信リリースする。各自本丸のバンド/ユニットですでに一角のキャリアを積んできた三者が意気投合し、ライブデビューを果たしたのは2018年春。以降、『人体実験』なる不穏なタイトルの自主企画ライブを不定期で開催してきた彼らが初の公式音源として満を持して発表するのが上記3曲だ。肋骨の標榜する音と映像はどこか懐かしくも真新しく、レトロフューチャーにモダンな趣きが見え隠れするという時代を特定できない独自の美意識に基づく世界観。そこに潜む諧謔性、ありきたりな表現や退屈な予定調和に安寧する向きにしなやかに唾棄するアッカンベーの姿勢が実に心地好く、表向きの限りなくポップな曲調とは裏腹に、三者三様のやけっぱちな急速回転が決して円滑な輪になることなく歪な三角形のまま鋭意な牙を剥くことを珠玉の3曲が三位一体となって明示している。また、彼らの即興性の強い音楽は容易に時空を超え、過去から未来へ、現在から未来へと自由自在に行き来する。オーディエンスを奇妙なタイムトラベルへといざなう刺激的な楽曲と映像を世に放つ肋骨の創世記から現在に至る変遷を、ユニット初となるインタビューで語ってもらった。(interview:椎名宗之)
計算し尽くされていない音楽をあえて志向
──そもそもはラストワルツ・イン・ロフト(現・ロフトヘヴン)の柿落とし公演(2018年4月25日)がユニット始動のきっかけでしたよね。
マリアンヌ東雲:あら、そうだったかしら?
おおくぼけい:マリアンヌさんと僕で何かやりませんか? というオファーをもらったんですけど、ただピアノと歌でやるだけじゃ面白くないよねって話になったんです。
マリアンヌ東雲:うーん、よく覚えてないわ。
──マリアンヌさんのブログによると「そもそもは年始のスナック東雲閉店後に、ネイキッドロフトの店長から新生ラストワルツの杮落としに何かやって欲しいと頼まれたのが切っ掛けだった訳」と書かれていますけど(と、プリントアウトした資料を差し出す)。
マリアンヌ東雲:ああ、本当だわ。やっぱりブログって書き残しておくものね(笑)。確かにライブデビューのきっかけは新しいラストワルツだったんだろうけれども、もっと何年も前におおくぼ君から「いつかゲルニカっぽいユニットをやってみたいね」と言われて「いいわね、やってみたいわ」なんて話をしたことがあったんですよ。でもその話はそこで一旦立ち消えになってしまったんです。彼は常に忙しくてスケジュールを押さえるのも大変だし、ワタクシからはずっとアクションを起こさないでいたので。そこから何年か越しでラストワルツの話をネイキッドロフトの店長から2018年の年始にいただいたんですね。その後、『雌猫乱心!戦慄の雛祭り』に浜崎容子さんと一緒に出演したおおくぼ君に「何かやりましょうよ」と声をかけたのが3月で、その翌月に初めてライブをやったわけなんです。
──ユニットを組むにあたって志向する音楽性はやはり電子音楽を主体としたものだったんですか。
マリアンヌ東雲:ゲルニカ風というイメージは頭の片隅に残っていましたが、真似っこで終わらないものにはしたかったですね。おおくぼ君にはぜひピアノを弾いてもらいたい、それもグランドピアノがいいと考えていたんですけど、じゃあ自分は何をやるの? という部分で引っかかりまして。ピアノ単体で歌を聴かせるのはちょっとイメージできなかったし、キノコホテルとは全然違うことをやりたかったし、それならピコピコ系なのかなと。キノコホテルでも同期とかをいろいろ導入し始めてしばらく経った時期だったけど、あまりそっちに行きすぎるのも違うと考えつつも個人的に手を出してみたいジャンルではあって。このユニットでその欲求を成就させられたらいいなという構想が自分の中ではありました。おおくぼ君はその手の機材をいっぱい持っていそうだったし。
おおくぼけい:マリアンヌさんはバイオリンも弾けるし、バイオリンとピアノならエレガントでいいなとは思っていたんですけど、僕個人はピアノ一本のスタイルをあちこちでやっていたのでそれらと被らないようにしたかったんです。他ではやっていない自分のやってみたいことを取り入れたい気持ちもあって、それなら電子音を軸にしたものがいいのかなと思って。アーバンギャルドも電子音が主体ですけど、それは細かいところまで構築されたもの、計算し尽くされたものなんです。このユニットではそこまで計算されていない電子音が合うと考えたんですよ。
マリアンヌ東雲:即興要素も多分にあるというか。
おおくぼけい:今のライブもだいぶ即興要素がありますけど、一番最初のライブは今以上に即興要素が強かったんです。
マリアンヌ東雲:最初はなんか適当にカバーをやって、あとは即興でピコピコやっておけば持つんじゃない? という安易な発想でしたから(笑)。
ALi:曲の切り替えがすごい曖昧でしたよね。
マリアンヌ東雲:そういう細かいことは全然決めてなかったもので。アレンジや構成はアドリブの要素が強くて、自分たちでも何が起こるか予測不能でしたし。
──VJのALiさんをメンバーに迎え入れたのは、視覚的要素も重視したユニットにしたいという発想からですか。
ALi:僕が声をかけられたときにマリアンヌさんが話していたのは、シンセや機材に集中するとステージが面白くなくなっちゃうと。
マリアンヌ東雲:自分としては40分ずっとツマミをウネウネいじっているようなライブをしてみたかったんですけど、それって絵面的にどうなんだろう? と思って。それならVJを入れればいいじゃないかと考えて、ALiさんなら引き受けてくれるだろうと連絡してみたんです。
ALi:僕はキノコホテルもアーバンギャルドも大好物でしたから。
おおくぼけい:ALiさんはもともとシンセを直したりもしてたんですよね。
マリアンヌ東雲:そういうことを聞いていたから、いろいろと話が早そうだなと思って。
ALi:ただ、最初のライブの時点では僕はまだメンバーではなかったんです。端っこで映像を操作するという今と同じことをやっていたんですけど。
マリアンヌ東雲:その後、3人連名にしたほうが責任感や当事者意識が芽生えるんじゃないかということでメンバーになってもらったんです。
おおくぼけい:映像を演出する人はバンドマンと感覚が違うことが多くて、ユニットに所属してもらわないとなあなあの関係になるし、ずっとお客さんのままになっちゃうというか。
──ALiさんのVJもまた即興なんですよね?
ALi:何となくの素材は組み立ててあって、その場でどう転んでも対応できるようにしてます。演奏によってエフェクトをかけてみたりとか。バンドは曲単位なのでそのキメだけは外さないように、曲が切り替わった瞬間にバン!と画も変わったほうが分かりやすいので、展開する頭の部分だけは注意してますね。曲間のセッションとかは逆に何も考えてません。自分なりに考えて素材を用意したところでどうなるか分からないし。