作品ではなく1つの歴史になりつつある『宇宙戦艦ヤマト』。誰しもがその物語・楽曲を知る作品というのは名作数多いなかでもそんなにはないでしょう。まさに時を超えるこの作品はどのように歴史を紡いできたのか。『宇宙戦艦ヤマト』シリーズを通して描かれてきたもの、作品に込められた思いを福井晴敏さんと皆川ゆかさんに語っていただきました。[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
真田という人間を介してみた古代兄弟の話
──『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択(以下、ヤマトという時代)』を作るに至った経緯を伺えますか。
福井:ファンはみんなBlu-rayを持っているじゃないですか。そんな今の時代に総集編を作るということにどれだけの意味があるだろうという思いもあったんです。
──そうですね。配信もありますから観ることは難しくない時代ですね。
福井:なので、作るのであればこれから『宇宙戦艦ヤマト(以下、ヤマト)』に触れる人が、これから先に作るシリーズをスグに観れる昇降階段のようなものを作りたいと思い、『ヤマト』の世界に至るまで、それこそ私たちの現代社会から地続きに捉え直すドキュメンタリーとして作ろうと考えたのが第一歩です。
──今作に皆川(ゆか)さんが参加されることになったのは何故ですか。
皆川:私も『ヤマト』が好きなので、以前から福井(晴敏)さんに「チーム福井に入れてよ。」と言っていたんです。そんな中で「総集編をやるんだよ。」というお話を聞いて「どういう風にやるんだろう。大変だな、誰が脚本をやるんだろう。」と思っているなか「真田(志郎)の資料をまとめて欲しい。」という依頼を受けて『宇宙戦艦ヤマト2199(以下、2199)』『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち(以下、2202)』の真田の心の軌跡・その時の物語の流れをまとめた資料を作って持って行ったんです。そうしたら「今日、何で呼ばれたかわかる。」って聞かれ「わからないです。」と答えると「脚本をやってよ。」と誘われて脚本をやることになりました。
福井:『小説 宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』をお願いした際、『2199』『2202』をカット単位で全部ばらして、どこでどんなセリフを言ったかスグにわかる資料を作ってらしたんです。それだけ作品を理解している方なので、皆川さんのお知恵をお借りしないとダメだなという思いは最初からありました。お願いした資料を見ると「これだけ理解されているなら皆川さんが書けばいいじゃん。」という思いに至ったんです。
皆川:嵌められたんです(笑)。
──いい仕事すぎたんですね(笑)。ちなみにどんな資料だったのですか。
皆川:セリフの抽出とその時にこんなことを思っていたんじゃないかというものをまとめた資料です。文章でまとめたもので、レジュメと詳細に分けた形のものをお渡ししました。小見出しのようなレジュメを読めば全体の流れはわかるようにして、実際に脚本を書く方が詳細を読む形で使っていけば上手くできるだろうと思い作ってお渡しました。
福井:それだけよく作品を理解していただいている方なので、脚本だけでなくテロップの日付なども全部やっていただきました。
──執筆作業というより編集作業のようですね。
皆川:大変でしたが自分で小説を書く時にもやっていたことなので苦にはならないです。すでに人が作ったものを読み解いていくと作った人の気持ちが見えてくるんです。
──作った人の気持ちというのはどういう物が見えてくるのですか。
皆川:例えば『2199』で最初に冥王星まで行って帰ってくるという話があるじゃないですか。その道のりにかかった日数が見えてくると、地球の宇宙戦艦がどれくらいのスピードが出るのかがわかるんです。そこからどういった技術水準を考えて世界が構築されているのかが見えてくるんです。
──それだけ緻密な資料を作られたというお話しを伺うと、皆川さんは総集編の脚本を書こうというお気持ちがあったのかなと感じますが。
皆川:『評伝 真田志郎』を書けるとは思いましたけどね(笑)。脚本をやることは考えていなかったのです。
──そうなんですね。福井さんからすると頼まない理由がない方ですね。
福井:これだけ書ける方なら大丈夫だと思いました。
皆川:個人で小説を書くときは版権ものでも自分でハンドリングするのでクルーザーを運転する感じですけど、今回は大型船で全然違うわけですからすごい緊張感があります。その分、刺激もありました。
──制作にあたり『2199』『2202』からエピソードを抽出するわけですが、その選択はどのような基準を設けられていたのですか。
福井:『2199』パートに関しては真田と古代進のお兄さん古代守との関係を中心に抽出しストーリーの流れを作っていきました。『2202』パートではその経験を経て人間として大きく成長した真田から見た古代進という視点で進む流れになっています。
皆川:物語は“起承転結”で分けますよね。その“転”のところで悩んだり苦しんだりということが入るわけです。そこは真田が火星の絶対防衛線の中でAIから撤退命令が出て、その命令を拒むというところが自分の中で脚本のクライマックスにあたる気持です。
──全体としては真田の物語という捉え方でよろしいでしょうか。
皆川:真田という人間を介してみた古代兄弟の話ですね。