音楽を基準に構成を考えました
──今回の総集編をドキュメンタリーの形で作るという方法が凄く斬新でした。『ヤマト』だからこそ出来る手法だなと思います。この演出、構成にしようと思ったのは何故ですか。
福井:最初は『2202』の総集編という話だったんです。でも、それだとファンのみに向けた形になるので意味がない、なので『2199』とその前史まで含めることで新規の方にも『ヤマト』の世界を知っていただけるようにしました。その形で制作すると決めた瞬間「ドキュメンタリーだな。」と私の中で悩まないで決まりました。以前、『ガンダム』で宇宙世紀全部総覧のような語りとドラマが交互にやって来るものをやっていて、なんとなく手ごたえをつかんでいたのでやれるんじゃないかと思っていたんです。
皆川:『2202』上映の前にこれまでのあらすじというのが入って、それを全部繋ぐだけで90分くらいになるんです。映画1本分じゃないですか、どうするんだと思いましたよ。
──『2202』の名場面を繋ぐだけでもそれだけの時間に。
福井::切りに切った脚本でも2時間半とかになってしまいました。
皆川:会議の時も「これ以上切るとしたら、フィルムを縦に切るしかない」という話も出たくらいです。
福井:なので今作では、音楽を基準に構成を考えました。「このシーンはこの曲1曲で乗り切ってほしい」ということをディレクターの佐藤(敦紀)さんにお願いをして尺を収めてもらったんです、そうすると否が応でも音楽の尺内に収まってくるんです。きちんと順を追ってやると解説だけで大変なことになるんですが、各シーンのテーマとなる曲の尺内で全部納めてくれとお願いしたんです、そこにナレーションが入る。佐藤さんは元々予告編を作るプロなのでそういった編集がものすごく上手いんです。
皆川:『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』の最初に『2199』のダイジェストがあるんですけど、そこを担当されていた方なんです。その佐藤さんに担当していただけるのであれば、佐藤マジックで全部乗り切って行けるなと思いました。
──ある程度大きな流れを作り、そこから映像と音楽を作り脚本を変えていくという作り方なんですね。
福井:あとから脚本を変えていくというのは結構ありました。
皆川:最初は真田の演説に合わせてストーリーを紹介するというアイデアもあったんですが、それだとわかりづらかったんです。そんななか佐藤さんから「とりあえず繋いでみたんだよ。」というものを見せていただいたんでが、とんでもない量になっていました。
福井:2019年末段階で90Pの脚本が上がって、そこからですね。ベースはそんなに動いてなくて、微調整していく中でだんだん見えてきて、少しずつ詰めていった形です。
皆川:私は『2205』(『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』2021年公開のシリーズ最新作)にも参加させていただいているんですけど、『2205』の脚本会議を通して福井さんの思う映画のリズム・映像のリズムがだんだんわかってきたのです。福井さんは“画とセリフが違うものを入れる、A+BからCを出す”といったアウフヘーベン(対立し合う二物の関係を1つ上の次元へと引き揚げること)させる映像表現がたぶん好みなんでしょうね。話していることと画は違っていいということに気づくのに随分かかりました。
──お二人の役割分担は明確にあったのですか。
福井:脚本は皆川さんに基本書いてもらい、それをコチラで手直ししていくという感じです。
皆川:私はこういう作業が初めてなので、「福井さんがまとめてくれるなら」と参加したんです。どうしてもわからない部分はあるので、最終的には福井さんがお任せする形ですね。そういう意味ではセッションみたいな形でした。
福井:お願いする段階で手ごたえは得ていて、実際に上がってきたものも考えていた通りでした。ほかの方だったらこんなにスムーズにはいかなかったと思います。
皆川:福井さんは軸がしっかりとある方なので安心感がありました。お声がけいただいたときも大変な分量だけど面白そうだと思いました。流石に90分と聞いたときは「どうすれば納まるんだ」とは思ました(笑)。
福井:90分には収まらなかったね(笑)。
皆川:自分でもドラマ部分を繋いでみたんですけど、2時間半から3時間とかになっちゃったんです。そこで、これは1分1ページのムックで90ページあるんだと考えるようにして脚本を書きました。そこに行くまでは難しかったですね。
別の形から見ると新しい魅力が出てくるというのが今回の総集編
──お話しを伺っていても、構成にどれだけ悩まれていたのかがわかります。今回はさらに新規に制作された映像もある。それだけ膨大な元作品がある中に新規の映像を差し込んだ理由を伺えますか。
福井:我々の世代にとって『ヤマト』は伝説ですが、若い子には「なんで戦艦大和(以下、大和)が宇宙戦艦なんだ」というくらい縁が無い作品なんです。昔の『ヤマト』には戦後日本の総括や批評性があるんです。このリメイクシリーズでもその精神は受け継いでいるので、そのことをちゃんと伝えたかったんです。そのためにやらなければいけなかったのが現実の歴史からのスタートなんです。
──新しいファンの方にも『ヤマト』という作品の精神を伝えるためだったんですね。
福井:歴史を描くにあたり“宇宙”と“戦艦”のどちらを取るかという2つの選択肢が出てきたんです。戦艦に目を向けこだわりすぎると戦争ものになってしまうんです。なので、宇宙に目を向けてアポロのシーンを入れた今回の作りになりました。今は『ガンダム』の方が世間に広く知られていますが、『ガンダム』が浸透した理由の1つに世界がしっかりと構築されているということがあると思うんです。『ヤマト』のリメイクシリーズもちゃんと辻褄が合うように作られています。スタッフが綿密に世界を構築してくれているので、そういうものを肌感覚でわかってもらえるようにしたいと思い新作映像を入れました。
皆川:設定の話で言うと玉盛(順一朗/本作の設定アドバイザー)さんが本当にすごかったです。『2199』から参加されていて『ヤマト』に関する造詣の深い方なのですが、お話しを伺うたびに目からウロコが落ちる思いでした。例えば『ヤマト』に「コスモ」と出てくるじゃないですか、英語の発音だと「コズモ」なんです。「コスモ」はロシア語の発音なので、ロシア宇宙主義などの単語が出てくるわけです。そこを考えさせてくれるものが『ヤマト』にはあった、そういうところを考えていく面白さをスタッフは知っていて、ファンのみなさんには申し訳ないんですけど、その楽しさをちょっと味合わせていただいたという感じです。
福井:長年のファンにとっては周知のこと、むしろ自分たちの妄想の中で留めていたところもあったと思いますが、新規の方にとっては「そういうのがあるなら言ってくれよ」というところだと思うんです。なので、最低限これだけ見れたらこの世界に入っていけるよと機能するだけの情報を入れ込んじゃおうとやったのが今回です。
皆川:一方から見るとこう見えて、別角度から見ると違って見えるということは現実にもあるじゃないですか。『2199』『2202』も作品としてあって、それを別の形から見ると新しい魅力が出てくるというのが今回の総集編かなと思っています。
──玉盛さんのお話しが出ましたが。設定アドバイザーとはどういう役割なんですか。
福井:例えば、今作の新規パートで描いている「第二次世界大戦終結二百年祭」とかは私たちの頭の中から出てこないです。新しい視聴者も気になるであろう、宇宙戦艦がなんで“ヤマト”という名前で、あの造形なのか、ハッキリ理由をつけていこうということで、玉盛さんに相談した際にその場で「二百年祭というのがあって、その時に復元したんです」というのを聞かされて、凄いな、バッチリじゃないかと思いました。
皆川:大和は沖縄という目的地に行けず、しかも、作戦も帰ってくることを想定していなかった船なんです、その船が宇宙戦艦として生まれ変わってイスカンダルに行って帰ってくる。そういう素敵な物語であるんです。そこの部分を背負ってる船になって欲しいというのは自分の中にもあり大切にしたいなと思っていたので、玉盛さんのアイデアを伺ってまさに目からウロコが落ちました。
福井:もちろん、宇宙戦艦なので使われている材質とかは根本的に違っているだろうけど、「ネジ1本でもいいから大和のものが中に取り込まれているというところが大切なんだ。」というのが玉盛さんの弁です。私もその通りだと思います。