人生の大きな分岐点で、ワケアリの10人の若者が葛藤しながらそれぞれの道を選んでいく姿を描いた『ツナガレラジオ〜僕らの雨降Days〜』。その10人の姿を瑞々しく自然体で描いた今作。その姿をどのように描こうと意識し撮られたのか。監督の川野浩司さんにその思いを語っていただきました。[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
彼らのやりたいことを尊重してきました
──『ツナガレラジオ〜僕らの雨降Days〜』という映画はどのようなことを思い描いて作られたのでしょうか。
川野:最初に考えたのは、10人を如何に素敵に撮るかというとことです。10人それぞれの喜怒哀楽を表現しないといけないと思ったので、彼らの良い表情を引き出すためにはどうすればいいかをまず意識しました。なので、その表情を撮るためにアップが多い作品になっているかもしれないですね。あと気を付けた点は、みんなが主役になるようにするという点ですね。
──みんなを主役にとは。
川野:誰かの印象が薄くならないように気を配りました。いくら尺として長く出ていてもただいるだけだと印象に残らないので、シーンの主軸になるようにしました。脚本上でも藤咲(淳一)さんがバランスは取っていてくれていました。でも、実際の撮影では脚本通りに行かない部分も出てきますから、その辺のプラスマイナスの部分は気にして撮りましたね。
──シーンの主軸にするために、みなさんのキャラクターをどう生かされたのでしょうか。
川野:基本的には彼らのやりたいことを尊重してきました。普段は撮影前にコミュニケーションをとってキャストの情報を集めながら進めるんですけど、今回は人数が多かったこともあってその時間を取るのが難しかったんです。なのでテストをやりながら話し合って変えていったこともありました。
──お仕事をされている際とプライべートとではイメージとギャップがある場合もありますからね。10人いてキャラクターが被らずにそれぞれ立っていたのは凄いですね。
川野:“十人十色”じゃないですけど、それぞれに好き勝手やってもらった結果10人が違うキャラクターになったんじゃないかという気がします。基本は本人ベースの+αで作っていったので、細かく「このシーンのこのキャラクターはこういう感じです」というキャラクターづくりの話はしてないですね。撮影の際に違和感があった際は要所で言うみたいな感じで、任していた部分は多いと思います。
──だから、みなさんの演技が自然な感じでしっくりきたんですね。物語の後半にかけて西銘(駿)さんの本気度がビシビシ伝わってきたのですが、そこは川野(浩司)監督のディレクションもあったのでしょうか。
川野:今回は物語の順に撮っていったので、「ココでこれだけ盛り上げると次はもっと盛り上げないとダメだからね」ということは言っていましたね。でないと気持ちが伝わらないじゃないですか。ラジオの中でもリスナーに伝わらないし、映画でも観客に思いというのを伝えないといけないので、そうなるとあれくらいやってもらわないとっていうところはありました。
楽曲はシーンとインストの親和性を重視して選びました
──今作での聴きどころとなると、みなさんのカバー曲です。ラジオが舞台ということで音楽との親和性も高い作品でしたが、その点で意識されたことがあればお伺いできますか。
川野:音楽は大事だなと思っていました。雨降FMがもともと90年代にあったという物語なので、90年代の曲から選びました。「勇気づける曲をかけて欲しい」という希望もいただいていたので、今回の選曲になりました。イメージを伝えるつもりで仮に充てていた曲がそのまま選ばれたのでビックリしましたね。
──川野監督が選ばれた曲だったんですね。
川野:完全に俺の趣味になっています。
──そんな中で『イージュー★ライダー』をカバー曲の中でメインにしたのはなぜですか。
川野:ED感があったからです。曲の入りでそう感じたのかもしれないですね。編集していて、音楽をつけようとなったときに聴こえてきた曲が『イージュー★ライダー』だったんです。『ハミングがきこえる』も入りが盛り上がる曲は何だろうと思ったときに出てきた曲ですね、あとは『ちびまる子ちゃん』の主題歌なのでみんな知っているだろうということもあります。
──ウィスパーボイスの楽曲を男性ボーカルで聴くというのも新鮮でした。
川野:最初は女性ボーカルの曲は難しいのでやめておこうとも思ったんです。JUDY AND MARYの『RADIO』もYUKIさんの声が独特なのでどうしようかなとも思ったんです。そこで、音楽の成田(旬)さんと相談したら「大丈夫ですよ」と言ってもらえたので、この曲を選んだ形ですね。楽曲はシーンとインストの親和性を重視して選びました。
──成田さんとはどういういったお話をされたのでしょうか。
川野:成田さんの趣味みたいなものも知りたかったので、基本的にはお任せしました。具体的にこういう曲と言ってしまうとその通りになってしまうので、それはあまり面白くないんですよね。曲調やカバーのアレンジも成田さんにお任せしました。
──出来上がった楽曲を聴かれていかがでしたか。
川野:彼らが曲のことをあまり知らなかったので、素直に歌ってくれたように感じました。それぞれの曲がどのシーンにかかるかは知っていたので、そのシーンの気持ちに合わせて歌ってくれていましたね。