世代を超えていくという物語を持つ作品
──挿入歌の『I Love you, SAYONARA』も川野監督の選曲ですか。
川野:何曲か候補があった中から選びました。カバー楽曲は曲で選びましたが、『I Love you, SAYONARA』は歌詞で選びました。
──あの曲が流れた瞬間にタイムスリップした気持ちになりました。
川野:そこは狙った部分でもあります。この映画のメインのお客さんはキャストのファンの若い子たちになると思いますが、我々世代の40代・50代も楽しめるようにしたいと思ったので90年代の音楽を使ったという面もあります。スクリーンで藤井フミヤさんの歌声を聴きたいじゃないですか、泣けると思うんですよね。声だけであれだけ持って行ってしまうのは、やっぱり凄いと思いました。一緒に観に来てくれた親世代が、ただの付き合いだったのにいつのまにか泣いていたとなれば最高ですね。
──そうですね。
川野:この映画は世代を超えていくという物語を持つ作品でもあるんです。イッセー尾形さんが演じる伊勢さんと若者たちの交流もあって、繋がっていくという。だから『ツナガレラジオ』というタイトルになったんだと思います。
──世代を超えて繋がっていくということは映画を観ていて感じました。その世代を繋ぐ役割を演じられたイッセー尾形さんは如何でしたか。
川野:イッセーさんはご本人に伺ったわけではないので分からないですけど、若干は探りながらやっていたようにも感じました。こういう若者だらけの映画に一人だけポツンと入る経験はあまりされたことないんじゃないかなと思います。
──そうかもしれませんね。でもイッセーさんがいらしたからこそ、深さが出る作品になりましたね。
川野:それはもちろんです。イッセーさんじゃなかったら、あれだけ締まらなかったと思います。みんなも触発されている部分はあったと感じています。西銘くん・飯島(寛騎)くんの二人は特に触発されてました。西銘くんは自分のアイデアを伝えてきてくれました。
──役者の方から出たアイデアはどのように作品に汲み取っていかれたのでしょうか。
川野:アイデアをもらったときにどういう意図なのかを聞いて、コチラの意図をすり合わせていった形ですね。撮影はそれの繰り返しですから。そんな中でもゆうたろうくんと(板垣)李光人くんはだいぶお任せにしました。彼らの空気感はおじさんには出せないですから。
──今の同世代の子たちが持つ空気感を、ということですね。
川野:あれがいいんですよ。二人は衣装も含めてセルフプロデュースしてもらいました。こっちがいじると絶対に変になりますよ。ダサくなっちゃう。
──イッセーさんとともに作品を支えられた田中真弓さんは如何でしたか。
川野:声優業がお忙しい方でそんなに顔出しされていないからか、現場では緊張されているように見えましたが、演技はさすがという感じで凄い良かったですよ。あれだけキャリアがある方が初共演の方ばかりの現場になることはあまりないんじゃないですかね。でも、楽しんでやられていましたよ。イッセーさん・田中さんとは、まさか一緒にやれるとは思ってもいませんでした。面白かったですね。
──撮影していく中で驚いたことや発見したことがあれば伺えますか。
川野:今の若者はあまり熱くならないんだなということは感じました。全部がフラットだと盛り上がらないので、シーンの波によってもっと盛り上がってくださいみたいなことは言いましたね。どこまでやっていいのかはコチラが伝えないと分からない部分ですから、「もっと、やっていいよ」というのは全員には言いました。でも、みんな楽しんでやっていましたね。雨降山に来るのが楽しいという雰囲気はあったんだと思います。「ここで息抜きしていってよ」という話もした記憶があります。
皆さんもこの作品の中の一人になってもらってもいいと思います
──青春時代を描くことの面白さとは何でしょうか。
川野:それぞれの世代でそれぞれの青春はあると思いますが、20代は今後どうやって生きていこうという道筋を作らなければいけない時期じゃないですか。その辺の大人になっていく瞬間を描くのは面白いですね。それは誰しもが起こり得ることで、思うように行かなかったりとか、夢があるのに諦めていったりという、葛藤・信念が見えてくるのでそれを観ていて感じることができるのが面白いんじゃないかなと思います。
──そうですね。この年代は誰しも取捨選択、生きる道筋を作るという時期でその選択は今後の人生に大きな影響を与えますからね。そんな中でも彼らはラジオを選ぶ。
川野:そうですね。
──映画だと画もありますが、ラジオは音だけですから、媒体として情報量が違うと思うんです。音は声や拍手などで誰しもができる感情や情報の伝達方法で、一番シンプルな情報の伝え方だと思っています。それだけシンプルなラジオだからこその凄さ・魅力は何だと感じられていますか。
川野:今、おっしゃった通りじゃないですかね(笑)。やっぱり、音のみということ。俺はラジオイコール生というイメージがあるんです。
──確かに、生で放送するのが多い媒体でもありますね。
川野:それもあって、ラジオはより自由な場というイメージもあります。ラジオだったら言えるというのもあるじゃないですか。でも、考えてみるとそれを声だけでやっているんですよね。
──シンプルだからこそ、人となりをより強く伝えようという意識が強くなるのかもしれないですね。
川野:最近思ったんですけど、やっぱりくだらない話をしているときが一番面白いんですよ。そういうくだらない話ができる場なんだと思います。昔のラジオでは、喧嘩とか事件が起こっているじゃないですか。
──編集が入らないからそのまま流れてしまいますもんね。
川野:自由になれるんでしょうね。でも、その向こうにはいろんな人が聴いていると。あと、一人で聴いていることが多いメディアなのかなとも思います。学生のときは自分の部屋で、大人になったら車でとか。
──確かに、一人で聴くイメージですね。感想とかを次の日に話すことは多いですけど、リアルタイムはあまり誰かとっていうイメージはないかも。
川野:だから、結局ラジオ世代の人がロフトに行くんじゃないですか。
──その通りです。スタッフからしてそうですから(笑)。
川野:そうですよね(笑)。
──映画の中でも「この声を届けたい相手」とありますが、この作品を届けたい人はいますか。
川野:そうですね。中心になるのはこの10人のファンの子たちだと思うんですけど、それプラス付いて行く親の人もいると思うので、そういう人たちもただ付いて行っただけじゃなくて観たら面白かったと言ってもらいたいなと思いますね。
──誰もが通る道の物語ですから、皆さんに響くと思います。
川野:特に凄い事件が起こるわけではない、だからこそ皆さんもこの作品の中の一人になってもらってもいいと思います。みんなワケアリといえばそうですが、日常にいる人たちの物語ですから。みんなで力を合わすということは素晴らしいことなので、これを観たら元気にはなれると思うんです。元気になりたいなと思ったときにこの映画を観て、明るくなってくれると嬉しいですね。楽しい気持ちになるために来て、ちょっと泣けるというところもあったりするみたいな。自分で言うのも変ですけど、作っているときはそこまで泣ける作品になるとは思っていなかったんです。楽しくはなっているとは思っていましたが、ここまで泣ける風に持っていけるとは思ってもいませんでした。そこは成田さんの音楽の力ですね。
──そこは監督も含め皆さんの力が結集したからこそですよ。
川野:ありがとうございます。その結集した映画を観て楽しんでいただけるのが一番ですね。