Chapter03:New Disk Report~「訪問者」「Priest」
──DISC-1の1~3曲目(「都市通信」「転写」「Easy Money」)には、1980年6月にスタジオ・マグネットで録音された未発表音源が収録されています。ミニコミ『ニュー・ディスク・レポート』の付録ソノシート用に録音されたという音源が、これなのでしょうか?
白石:そうだと思います。正直、オープンリールが残っていることも忘れていました。
野本:『ニュー・ディスク・レポート』の付録ソノシートにするということで、「都市通信」「転写」「Easy Money」「Cool Point」の4曲を録音しました。どの曲を使うかは決まっていませんでした。
──録音されたものの未発表でお蔵入りしてしまったのは、雑誌自体が発行されなかったということですか?
白石:その辺も覚えていませんが、そうだと思います。
野本:『ニュー・ディスク・レポート』を発行していた守屋(正)くんからの依頼でしたが、『ニュー・ディスク・レポート』自体の発行が頓挫してしまいました。守屋くんはライブ企画などでも親交がありましたし、『ニュー・ディスク・レポート』中のレコード評を私が執筆していました。江戸ッ子として参加した『ハチ公前ゲリラ』も守屋くんからの誘いでした。
──シンクロナイズとしては、1981年にようやく最初の7インチ・シングル『訪問者』がリリースされます。リリース元のPLAZA RECORDSというのは自分たちで設立したレーベルなのでしょうか?
野本:そのとおりです。
白石:設立したというほどのことではないのですが、名前がないと寂しいのでこのレーベル名を付けました。
──『都市通信』の頃はまだパンキッシュな荒々しい勢いが目立つポスト・パンク・サウンドであったのに対し、シングル『訪問者』はネオ・サイケ的な色合いが濃くなっています。サウンドの変化は、当時の白石さんや野本さんの音楽的嗜好性を反映したものだったのでしょうか?
白石:パンクというブースターを装備した上で、違う嗜好性を出してみた感じですかね。ケンが作った曲ですが。僕にもまったく違和感はありませんでした。
野本:正直、私が参加したせいだと思いますね。『訪問者』のレコーディングはかなり私の好みが反映されたものになりました。そのころから私が曲も作るようになっていて、「訪問者」も「幼年期」も私が元の曲を作りました。
──DISC-1の6曲目「連続線」は1981年に録音された未発表テープの音源となっています。これはシングル『訪問者』と一緒に録音されたものの、レコードには未収録だった音源なのでしょうか?
白石:そうです。練馬にあった個人経営studioで録りました。録音にはかなり時間をかけました。数日費やしたと思います。夜中までかかることもあり、電車もバスもなく練馬から西荻まで歩いて帰ったことも何度かありました。
野本:「訪問者」「幼年期」「連続線」「迷宮」「Holiday」の5曲を同時にレコーディングしました。「連続線」は出来が良かったのですが、シングル盤に収まらない時間であきらめたような記憶があります。
──CDの解説でコサカイフミオさんが白石さんの書く詞の独特な世界観を高く評価されています。白石さんは詞を書くうえでどのようなことを心がけていたのでしょうか?
白石:日常使わないような言葉でも響く場合があるので、基本的には言葉の制約を自分に課さないようにしてます。制約なしをポップに仕上げるのが大事だと、個人的には思ってます。
連想仕様にしない。連想でイメージ言葉を連ねると、一見、詩らしく見えたりしますが、整合感を失い冗長になります。
描き過ぎない。上の注意点と重なるところですが技術的なことに捕われると、つい描き過ぎます。
クールでありたい。陶酔という湿度には注意が必要です。言葉は湿度に弱い気がします。湿度が上がると響かなくなります。ただでさえ母音の連なりのために重量がある日本語がさらに重くなります。
この辺はコサカイさんが書いてくれたことに通じていると思います。
──キーボードで大桃修一さんが参加されていた時期がありましたが、彼はシンクロナイズの前はモンゴル・キャベツというバンドに参加していて、シンクロナイズ脱退後はD-DAYに参加します。彼が加入した経緯は?
白石:その頃ドラムの小暮くんがモンゴル・キャベツに参加していて、小暮くんがうちに復帰するときに大桃くんも引き連れてきました。大桃くん、小暮くん、それに僕は◯◯倶楽部を結成していました。これは音楽には関係ありませんが。余談ですが大桃くんはよく金縛りにあっていました。
──1983年に発表された2枚目のシングル『Priest』はPOLAR RECORDSからのリリースですが、これも自分たちで運営していたレーベルなのでしょうか?
白石:そうです。
──『Priest』は、ファクトリーなどヨーロッパのインディ・レーベルに通じる淡いタッチの(エレクトロニック・ポップとネオサイケとネオアコをミックスさせたような)抒情的な音になり、この路線はザ・スカーレッツでさらに発展していきます。これは、意識しての変化なのでしょうか?
白石:特に意識はしていませんでした。自分たちにとっては自然な流れでした。
野本:『都市通信』から『訪問者』の音の変化も、『訪問者』から『Priest』の音の変化も、どちらも特に何かを意識したということはありません。実際、「Priest」「Mode」「Disillusion」の反呪法三部作の元曲は『訪問者』のレコーディング中のスタジオで、休憩時間を利用して作り始めていたものですし。ただし、『訪問者』のレコーディング直前にキーボードの大桃くん(後にD-DAY)が抜け、ドラムの小暮くんが不在となり、やむなくドラムマシーンになったため、音作りも変わったという面は大きかったと思います。
──その後もメンバーが幾度かチェンジしますが、中期から後期にかけて参加されている方々はどういう流れで加入されたのでしょうか? それまでの経歴など、覚えている範囲で良いので教えてください。まず、川野陽子さんは?
白石:川野陽子さんは雑誌の募集に応じてくれました。彼女はOLで、バンド経験はそれまでなかったと聞いた覚えがあります。
──山口健太郎さんは?
白石:山ちゃんはケンの高校時代の同級生です。
野本:山口は西山と同様に私の高校の同級生です。彼はプログレが好きで、音楽的に嗜好が合ってバンド以前から友人関係でした。シンクロのライブにもよく来てくれていて、デンスケでライブ録音などしてくれていました。ドラムが抜けたタイミングでドラムマシーンのオペレートとして参加してもらって、徐々にキーボードも弾いてくれるようになりました。
──佐藤敏文さんは?
野本:白石くんが飲み屋で声をかけたんじゃなかったっけ?
白石:彼とは西荻の居酒屋「庄屋」で出会いました。偶然、隣の席にいました。話してみたら音響技術系の専門学校で学んでいて、ニューウェイヴ系が好きということでした。その数日後か、数週間後にベースをやらないかと誘いました。彼もバンドは初めてだったはずです。
──橋本由香里さんは?
白石:ケンのファミリーであります。メンバー欠員で困ったときに助けてくれる女性。今現在もバンドがお世話になってます。
野本:橋本さんは私の妻ですね(笑)。ずっと夫婦別姓なので。彼女は1980年頃に友人とミニコミを作っていて、江戸ッ子が出演した法政の『Save Momoyo』(1980年11月29日)のときにインタビューを受けたのがきっかけで知り合ったんだと思います。『訪問者』のレコーディングも見学に来てましたし、シンクロの曲をよく知っていたということもあり、トシちゃんが抜けた後にベースとして参加してくれました。スカーレッツ名義のカセットでもベースを弾いていますし、CDに収録されているチキンシャックのライブも彼女です。2月19日の新宿ロフトで行なわれるレコ発ライブでもベースとして参加する予定です。
Chapter04:反呪法
──DISC-1の9曲目に収録されている「Disillusion」は、シングル『Priest』制作時に一緒に録音した未発表音源でしょうか?
白石:そのとおりです。本当は「Priest」「Mode」と3部作として作ったので、3曲収録が理想だったのですが。今回CDに収録できたのは嬉しい限りです。
──CDの帯にも「反呪法のための考察」というコピーが書かれていますが、「Priest」「Mode」「Disillution」を「反呪法三部作」と位置付けたのは、どういう理由からなのでしょうか?
白石:社会、所属世界への違和感、不都合感などの表現はロックが引き受け得る、特長であり包容力だと思います。ただそれらが反発として膨らみ過ぎると呪歌になるのではないか? そんな疑問が湧きました。反発、否定感情に飲み込まれずに違和感と付き合うには? 無力な私は世界と自分の関係にクールな視線を持ち続けるぐらいしかできない。その想いから反呪法のためとコピーを付けました。少し大袈裟なコピーで恥ずかしいのですが。これは僕なりのユーモアも加味してあります。「こんな大そうなコピー付けちゃって」と笑ってもらってかまわないのです。呪術戦というのは道を説く者と邪道の者との間で行なわれます。そこで3作を通じて呪法ファンタジーっぽいイメージで統一しようと3部作としました。とはいえ3部作には邪道の者は登場しません。「Priest」では道を説く者の不確かさと脆弱さみたいなものを書き、道を説く者を簡単に信用するなというニュアンスになりました。「Disillusion」では道を説く者の予言など気にしないでクールにいこうぜというニュアンスです。「Mode」では自分の考えを最新モードにして、自分の考えを信じろと。そういうわけでこの順序が僕が考えた3部作の本来の順序です。