Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューDischarming man - "極点とオーロラ"がいざなう激情と寂寥の極北

“極点とオーロラ”がいざなう激情と寂寥の極北

2021.01.25

今はライブをやること以外でライブハウスを支援していきたい

──オンラインショップで本作を購入すると蛯名さんの弾き語りによる「We Are The World」が特典音源としてプレゼントされるそうですが、これが独自の日本語詞をのせたユニークなカバーで。USAフォー・アフリカの誰もが知る有名曲をなぜカバーしようと思ったんですか。

蛯名:あのカバーも東日本大震災直後に作ったものなんです。震災の起きた次の週に名古屋のハックフィンで弾き語りのライブがあって、それに合わせて作ったんですよ。今回録音したのは10年前の歌詞そのままで、それが今に通じるということはこのコロナ禍の状況が震災直後と似てるんでしょうね。

──自分たちの未来はいつも悲しい闇の向こうにあるという、希望を忘れないでいようと素直に思える歌に仕上がっていますしね。

蛯名:当時はそういう歌を作りたかったんです。弾き語りのライブではよくやっていたんだけど、音源にするなら今かなと思って。

──これだけいいアルバムができたら早くライブで体感したいものですが、コロナウイルスの感染者数が激増している昨今では厳しい状況ですよね。

蛯名:東京も含めて何本かライブに誘われてるけど、3月にやる予定だった札幌のライブも結局キャンセルしちゃったんです。というのも今は入院患者を受け入れる病床数が逼迫していて、コロナ以外の病気の人やケガの人が入院できない状況じゃないですか。そのなかで感染拡大の要因となることをやるのは筋違いかなと思うんです。自分たちも去年の3月にカウンターアクションでライブを敢行したけど、1年経って社会の状況と自分の考え方、優先順位が変わってきたんですよね。これでコロナ感染が収まって世の中が鎮静化していれば話は違ってたけど、むしろ状況は悪化していますから。国はオリンピックをまだやろうとしてるけど、ライブやイベントは今年はまだやるのが厳しいと正直感じています。ただライブハウスが本当に大変なのはよく分かるから、ライブをやること以外で支援していけたらいいなと思ってできる限りのことはやってるんですけどね。微力ではありますけど。

──配信ライブについてはどう考えていますか。

蛯名:去年の9月に(三浦)洋平からぜひやってほしいと言われてカウンターアクションで初めてやったけど、難しかったですね…。リアルタイムでできなくて録画になるということで、それならドキュメンタリータッチの番組形式というかライブDVDみたいにしようと思って、その撮影と編集をアキタくんにお願いしたんですけど。そのあともSOUND CRUEで配信をやってみたものの、やっぱり慣れなかったですね。俺はお客さんに盛り上げてもらって初めて盛り上がるタイプなんだなと実感したし、配信だと暖簾に腕押しみたいな感覚なんですよ。感情をどこにぶつけていいか分からないし、それが変な力みになって声がうわずっちゃったりして。まあ、やって良かったとは思いますけどね。それでライブハウスにいくらかお金も入ったし。ただ、通常のライブと比べて伝わらない部分が大半だと思うんですよ。俺らみたいな演奏をするバンドは特に。ライブハウス存続のためになるならやっていきたいところはあるけど、慣れない辛さも正直ありますね(笑)。

──単純にライブを思うようにやれない辛さも当然ありますよね。

蛯名:去年はライブが12本くらいキャンセルになって、自分たちのモチベーションをどこへ持っていけばいいのか分からなくなっちゃって。週一の練習もいまいちどうやっていけばいいか分からないもどかしさがあるんですよ。だから今は新しいアルバムを作り始めています。実はすでに去年から着手しているんですけど。

──それは楽しみですね。ストックはあるんですか。

蛯名:いっぱいあるんですけど、今は時間が格段にあるからできれば半分くらいは新しい曲を書き上げたいんですよ。まだどうなるか分かりませんけどね。全部古い曲になるかもしれないし、全部新しい曲になるかもしれないし。今年出せるならこれを聴かせたいという曲をピックアップしていくとは思いますけど。吉野さんが『2020』のインタビューでライブがキャンセルになったおかげでアルバム作りに打ち込めたと話していたけど、俺らも同じような感じになりそうです。

──時間的余裕があるのも要因でしょうけど、今のメンバーだからこそすぐ次の作品作りに向かえるところもあるんじゃないですか。

蛯名:それはあるでしょうね。それが大前提だし、俺が持ってくる曲をただやるんじゃなくて、各自がちゃんと噛み砕いて自分たちなりのものにするからすごいなといつも思ってます。まあ、みんなやかましい音を出すなあとか思いながらいつも唄ってますけどね(笑)。もっとちっちゃくしてよと思うときもあるし、難聴も酷いことになってるけど、爆音のなかで唄うことが染みついてますからね。

──話をうかがっていると、蛯名さんの創作のスタンスが作為的ではなくなってきたのを感じますね。小手先でもの作りをせず、ただ書きたいことを書く、唄いたいことを唄うだけという。バンドに向かう意識も変に力まず自然体でいられているのが伝わってくるし。

蛯名:歌詞でいろんなことを言っているけど、所詮ただの歌詞じゃないかという感覚も同時にあるんですよね。単なる言葉遊びでいいとすら思ってるから。でもやっぱり自分が歌詞を書く以上は意味を持たせたものにしたいんですよ。歌に関しては、いま作ってるアルバムでは『POLE & AURORA』で唄いきれなかったところをより強く唄っている感じですね。バンドとしては今のこの4人のいいところをもっと出したいし、出せると思うんです。荒々しさを出した『POLE & AURORA』とはちょっと毛色が違うものになるかもしれませんけど。コンセプチュアルなものというか、骨格がしっかりとあるものを作れたらいいなと思いますね。同じようなアルバムを作ってもしょうがないので。まあ、頑張りますよ。頑張りすぎずに頑張ります。
 

このアーティストの関連記事

POLE & AURORA

2020年12月23日(水)発売
十三月 JSGM-40 ¥2,420(税込)

amazonで購入

iTunesStoreで購入

【収録曲】
1. future
2. 極光
3. WOUND
4. February
5. Disable music
6. メイデイ
7. empty boy
8. Discharming man

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻